鉄血女帝アナスタシア 第六話
大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご購入頂けると嬉しいです!
「おじいさまはこれから起こることも私に告げられました。それは、今から数年後にロシアで革命が起こり、お父様を筆頭にロマノフの血を引く者全てが無残に処刑されてしまうという未来です。私やお母様お姉様は何百人もの暴徒から辱めを受けた後に生きたまま焼かれ、お父様やアレクセイは民衆の前で縛り首にされ吊されてしまいます。これを変えるためには今すぐ私を日本に送って協力者を得るしかないと涙ながらにおっしゃられるのです」
ちょっと脚色を入れたけどこれくらい良いわよね。お父様はラスプーチンの影響もあって神秘主義に傾倒されているわ。おそらく私の夢を信じるはず。
お父様の顔色は真っ白になり今にも倒れてしまいそうだ。それでもガタガタと音を鳴らす顎を自分の両手でなんとか押さえた。そして震える声で聞き返してくる。
「アナスタシア・・・本当なのか?先帝陛下が夢に出てきて本当にそう言ったのだな?」
よし!信じてくれた!
「はい、お父様。その通りです。そうで無ければお父様の小さい頃の失敗談や愛人の話を私が知り得ることはありません。このような話は、ルバノフもルスランも知らない事ばかりです」
お父様は立っていられなくなったのか、ドスンと椅子に腰を落とした。エゴサじゃないけど、お父様の伝記や過去の資料を読みあさっておいて良かったわ。
「いや、しかし、10歳のお前を日本にやるわけにはいかぬ。せめて14、いや15歳になるまで待てないのか?」
待てるわけないでしょ!あと3年で第一次大戦が始まるのよ!今すぐって言ったでしょ?死にたいの?
「お父様、本当に残念です。おじいさまは今すぐ日本に行けとおっしゃられています。そうで無ければ待ち受けているのは変えようのない悲惨な運命なのですよ」
私はそう言って懐に忍ばせてあったダガーを取り出す。そしてその刃を自分の方に向けて両手で握り、まっすぐに高く突き上げた。
「私は死ぬことは怖くありません。国民の信を裏切った天罰ですから甘んじて受け入れましょう。しかし、下郎どもにこの体を辱められることだけは許せないのです」
私は目をつむって思いっきりダガーを自分の胸に向けて振り下ろした。
「姫様!」
ルスランがとっさに体をぶつけてきて、私が握っているダガーの刃の部分を掴んだ。そして私の胸のギリギリのところで刃の先端をなんとか止めることが出来た。
「ルスラン・・・・・」
ルスランはまっすぐに私の方を見て、唇を強くかみしめている。その目からはぼたぼたと涙が止めどなくこぼれていた。
“あなたならきっと刃を握ってでも止めてくれると想っていたわ。その忠誠を利用してごめんなさい”
「姫様・・・いけません・・・自らのお命を・・・もっと・・・大切に・・・」
刃を掴んでいるルスランの右手の白い手袋がじわじわと赤く染まってくる。そしてそれはダガーの刃を伝って私のドレスも赤く染めていった。
「陛下、大公女殿下の御身は私が命に変えてでも必ずお守りいたします。何とぞ、何とぞ大公女殿下の望みを叶えて頂きたくお願い申し上げます」
声を震わせながらルスランはお父様に向き直る。皇帝に対して直接意見を具申することなど相当勇気のいることだ。
慌てたルバノフはまっ赤に染まったルスランの手からダガーを受け取った。私も力を抜いて抵抗はしない。その間も、仇を見るような目つきでお父様を睨み続けた。ここまでやってお父様が留学を許可してくれなければ私自らクーデターを起こし、お父様を殺してでもロシアを乗っ取らなければならない。それくらいの覚悟はある。みすみす革命を起こさせて、何千万人もの国民を死なせるわけにはいかない。数千万の国民の命は、お父様の命より遥かに重たい。
その思いを改めて覚悟をすると、私の目からも涙が溢れてきてしまった。国民の為にクーデターを起こし、失政の責任を全てお父様に押しつけて公開処刑にする光景を想像してしまったのだ。実の父親をこの手で処刑するなど、神はきっとお許しにならないだろう。それでも、例え悪魔に魂を売ったとしても国民を救わなければならない。でも、でも・・・
「わかった、アナスタシア。お前の覚悟、しかと見届けた。そこまでするのであれば先帝陛下の夢の話も嘘ではあるまい。このままでは数年後に革命によって私や皇族はことごとく処刑されてしまうのだな。それを防ぐ為にはお前を日本に留学させねばならぬということか」
「はい、お父様。その通りでございます」
「そうか。お前は日本で協力者を募れ。確か日本の皇太子の長男とお前は同じ年であったか。先帝陛下はお前を日本の皇室に嫁がせたいのかもしれぬな。そうすれば、日本と協力して革命を阻止できるかもしれぬ。日本に行くのであれば覚悟を決めろ。かならずお前はその男と結婚し、日本の皇后になるのだ。その覚悟が出来るのであれば行かせてやろう」
ん?天皇の后?はて?なんだか話が変な方向に行っているような気もするけどまあいいわ。日本に行ってしまえばこっちのものよ。そんな些細なことよりルスランの手当をしないといけないわ。




