鉄血女帝アナスタシア 第三話
大日本帝国宇宙軍 第二巻 アマゾンや楽天市場で予約出来ます!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご予約頂けると嬉しいです!
あの悪魔が政府の管理下にあるのなら話が早いわね。今殺してしまえば後顧の憂いがかなり減るわ。蒼龍はスターリンやヒトラーの暗殺も考えたそうだけど、国際法をあまりにも無視したことは出来なかったと言っていたわね。それに、蒼龍が宇宙軍を組織した頃には、スターリンの力が大きくなりすぎていたって。でも私には関係ないわ。今すぐ殺しましょう。そうしましょう!
ロシア国民を何千万も殺した悪魔を未然に処分できるだなんて素晴らしいわ。ついつい頬が緩んでしまう。うふ。今日は何てすてきな日なのかしら。
「姫様・・・裁判も終わっておりますし、素直に服役している囚人を殺害するという発言はお控え願えませんでしょうか?我が国は憲法もある近代的な法治国家です。姫様がそのような事をおっしゃられては国民の気持ちが離れてしまうかも知れません」
えっ?まさかルスランにそんな事を言われるなんて思ってもみなかったわ。お父様やお姉様を殺し、あなたまで殺す予定の大悪党なのよ。そんな危険なやつの芽は早い内に摘んでおくに限るわ。
そんな事を思いながらルスランに目を向けると・・・・ドン引きしてる。何か恐ろしいモノを見るような目で私を見ている。瞳のハイライトも消えているわ。まずい!今私への忠誠にヒビが入ってしまうと取り返しがつかないことになる!
「ごごごごごめんなさい!だってこの人、共産主義革命家で銀行強盗までしてるんでしょ?それで何十人も死なせてるけど直接指示した証拠が無いだけで、非道い人間よ。だから、被害者の家族の事を思うと、つい・・・・」
ちょっと顎を引いて上目遣いでルスランを見てみる。本当に失言だったという雰囲気を最大限出してみた。どう?私の100年にもおよぶ人生で培った演技力は。
「姫様。姫様は10歳とは思えないほど聡明で思慮深くて政治や社会のことにも精通されております。正に神童と言っても過言ではありません。正義感と慈愛に満ちた素晴らしい姫君だと思います。それでも、法は法です。法によって人は裁かれ命を奪われることもあります。つまり、法は人の命よりも重たいのですよ。それを為政者側である姫様が軽んじてはなりません」
ルスランは私をまっすぐに見ていてちょっときつい目をしている。確かに正論よ。ルスランの言っていることは正しいわ。でもね、こいつのせいで何千万人も死ぬのよ。これは予防的措置なの。
とはいえ、10歳の子供がいくら言ってもたしなめられるだけだわ。ここはとりあえず情報収集をしながら蒼龍からの返答を待ちましょうか。
高城蒼龍に手紙を出してから一ヶ月
「姫様。日本の高城男爵のご令息から返事が返って参りました」
朝食を終えて自室に戻ったところ、ルスランが一通の封書を持ってやってきた。蒼龍からの返信だ。
「よかった!返事が来たのね!」
在日本ロシア大使館経由で学習院に高城蒼龍が在籍していることは確認していたのだが、やはり返信があるまでは不安だったのだ。
私はルスランの手から奪い取るように手紙を受け取りその場で封を引きちぎる。本当はペーパーナイフを使った方が上品なんだろうけど、そんな時間ももったいない。
「姫様。お行儀が悪すぎます。まずは椅子に座ってください」
ルスランが私を椅子へ促した。そして丁寧に椅子を引いてまでしてくれる。ここまでしてくれたら、座らないわけにはいかないわね。
私は封筒の中の便箋を広げる。こんなにドキドキするのは転生してからは初めてかも知れない。蒼龍の協力さえ得られれば、革命を防ぎロシアの近代化が出来る。私にとって蒼龍は希望の光りなのよ。
『拝啓 大公女殿下』
大公女殿下なんてなんだか他人行儀よね。いっつも“アナスタシア”って呼び捨てにしてくれてたのに、って、この世界じゃまだ知り合ってもいないんだから仕方がないのね。
そんな事をちょっと不満に思いつつ読み進めていく。
だんだん読み進めていくに従って、私の両手に入る力が強くなりワナワナと震えてきた。そして頭に血が上って顔が熱くなってくる。
そして最後まで手紙を読んだ私はそれを両手でくしゃくしゃに丸めて床に投げつけた。
「姫様、どのような内容か解りかねますがお行儀が悪すぎます。皇族たる者、どのような事があっても心を乱したり乱暴な態度を見せてはなりません」
ルスランはいつも私のことを思って正しいことを言ってくれる。それはそれでありがたいのだけれど、今日はちょっとイラッとくるわね。
「あのクソ野郎!私が聞きたいこと全部に“そんな事は知りません。思い込みでしょう”って返してきたのよ!私がこんなに困って助けを求めてるのに!私と蒼龍は“トモダチ”じゃ無かったって言うの!!」
第一次大戦まであと3年しか無いのよ。それなのに蒼龍は私からの助けを無碍に断ってくるなんて非道すぎる。
そして蒼龍の助力を得ることが出来ない未来を想像して、私はいい知れない恐怖と絶望に体中が震えてきた。歴史を知っていたとしても私一人でなんとか出来る様なことじゃない。このままじゃ家族がみんな殺されて、国民が何千万人も死んでしまうわ。
「う・う・う・うわあぁぁーーーーん!蒼龍のバカーーーー!人でなし!私がこんなに困って助けを求めてるのにぃーーー!もうアンタなんかトモダチじゃ無いわ!絶交よ!!」




