最終話 未来へ
大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご購入頂けると嬉しいです!
逮捕されたルメイは、中華民国の南京にて拘留されることになった。そして、宋総統の暗殺未遂容疑で裁判が開かれる。
ルメイは検察官の尋問に対して、全ての容疑を認めた。しかし、その背景や動機などについては一切語らない。ただ、高城蒼龍に会わせろと何度も要求して来た。
「ミスター・ルメイ、久しぶりですね。お元気そうでなによりです」
「高城中将こそお元気そうでなによりです。しかし、一つ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。何なりと」
「なぜ、テレビモニター越しなのです?私の相棒があなたの相棒に会いたがっているのですよ。テレビモニター越しでは、彼女はリリエルさんと話が出来ないのですよ」
ルメイの要望に応えて、高城蒼龍は会うことにした。しかし、それは直接ではなく遠隔地からのモニター越しにだ。直接会った場合、ルメイに取り憑いているアンドラスとも会うことになる。ルメイが死刑になってもアンドラスは死なない。ルメイの体を離れ、情報を持って悪魔達に合流するだろう。連中にこれ以上の情報を与えないために、モニター越しでの面会を選択した。
「それは、言わなくても解ることだと思いますが?あなたたちに、これ以上情報を渡すわけにはいきませんからね」
「ずいぶんと用心深いことだ。まあ、だからこそ、日本という小国をここまで大きく出来たのでしょうね。心底感服しましたよ。さすがは100年後の男、未来から来ただけのことはありますね」
高城はその言葉に眉一つ動かさない。
「あなたは未来のどこから来たのですか?2039年以降?それともそれ以前?もしあなたが2039年の結果を知っているのでしたら、是非とも教えていただきたいのです。私はこう思っています。2039年に悪魔が勝利した。その歴史を書き換えるために、人類はタイムマシンを開発して、なんとかあなただけをこの時代に送り込むことに成功した。どうです?図星でしょう?私は死刑台に上がるまでに、この内容で小説を書こうと思っています。題名は、そうですね・・“大日本帝国宇宙軍 ~歴史に挑む男~”なんでどうですか?ちょっと安直ですかね?2039年の結果を、教えてください。死にゆく私への冥土の土産です」
「結果ですか?結果はもう解っていますよ。天使でも悪魔でもない、人類の完勝です。この地球は人類の物なのです」
「ふふふ・・・あーはっはっはっは!面白い!あなたは本当に面白い人だ!人類が?こんな隣人との争いを止めることすら出来ない人類が悪魔や天使に勝てると?あなたの行く末を見てみたくなりましたよ!アンドラスにも伝えておきます。最終戦争の時、悪魔の敵は天使や神ではなくあなただとね!」
結局、ルメイが何故悪魔に与したのか理由を知ることは出来なかった。幼少の頃、父親との間に何かがあったようだとの調査報告が提出されたが、それが人格形成にどの程度影響を与えたのかもわからない。
そして、ルメイは刑場の露となった。
――――
1945年4月29日
欧州戦争と対米戦争の終結を記念して、天皇誕生日に恩赦が実行された。
京都刑務所宮津支所
20歳くらいの欧米人女性が釈放された。少しだけ幼さの残る、そばかすの女だ。刑務所の通用門から外に出ると、その女に13~14歳くらいの少年と少女が駆けより抱きついた。そして服役中、幼い弟と妹を育ててくれて、手紙や面会で心を支えてくれた男がゆっくりと歩みを進め、暖かく肩を抱き寄せる。
“まだ私には帰る場所があったんだ”
国際的な諸問題がおおむね解決したため、高城と天皇は国内の改革に着手した。
1946年大日本帝国憲法改正
明治天皇が“不磨の大典”と賞賛した憲法の改正に反対する向きもあったのだが、天皇は憲法の改正を強く議会と国民に訴え、帝国議会で3分の2以上の賛成を得ることに成功した。主な改正点は以下の通りである。
・貴族院の廃止と参議院の設立
・首相を衆議院議員の投票によって選出する
・軍の統帥権は天皇のままだが、首相がその統帥を代行する
・人権や公民権の強化
その他、高城蒼龍から聞いた日本国憲法をベースとした内容となった。
そして、人類の進歩はさらに加速していく。
1946年
日本政府「アカシック・レコード」を発表。2032年までの、巨大地震発生を予言。
1948年
世界初の有人宇宙船の打ち上げに成功。パイロットは宇宙軍の白次良田人。宇宙空間から、全人類に対してライブ放送を実施。
1952年
白次良田人、月面に降り立つ。「この一歩は、私にとっても人類にとっても大きな一歩である」との名言を残す。
1954年
核融合炉の実用化に成功。低コストで無限の電力を手に入れることができるようになったため、原子力・石油・石炭発電所の禁止条約が締結される。これに対し、産油国は強く反発。
1960年
電気自動車(EV)が普及。先進国の乗用車のほとんどがEVになる。
1961年
高城蒼龍がタイムスリップをするきっかけとなった、ヒッグス粒子加速器の実験に成功。マイクロブラックホールを利用したワープ理論が確立。
1962年
月面都市の建設が開始される。
1963年
対消滅エンジンの開発に成功。
1965年
アメリカ合衆国が世界連合常任理事国に就任。ただし、核武装は禁止されたまま。
1971年
ワープ実験に成功。無人実験機が月軌道から火星近辺へワープする。
1972年
人間を乗せてのワープ実験に成功。
ジャイアントパンダのカンカンとランランが上野動物園に来る。
1973年
霊子力に関する基礎理論が確立。
1978年
人類、ケンタウリ星系に到達。
1979年
ベテルギウスが既に超新星爆発を起こしていたことを確認。
1981年
地球から310光年のカノープス星系において、人類が生存可能な環境を持つ惑星を発見。同時に滅びた文明の痕跡が確認され、第二文明人と命名される。※第一文明人は地球人類。
1982年
霊子波の観測に成功。霊子波は、弱い力・強い力・電磁気力・重力のいずれにも影響されないことが確認される。
1986年
マゼラン雲に到達。イスカンダル星やガミラス星の発見には至っていない。
1988年
霊子波の観測によって、銀河中心のブラックホール内に巨大な霊子質量を持つ存在を確認。
1989年
常任理事国以外の全ての国家において、軍隊が廃止される。
霊子波通信に成功。何万光年離れていても、タイムラグ無しで通信できる目処が立つ。
1990年
軌道エレベーター完成。
カノープス星系への移民が開始。
1991年
世界連合は地球連邦へ改組される。
1992年(昭和67年)2月末 帝都東京
澄み渡った空から降り注ぐ陽光は、レースのカーテン越しに部屋を暖めていた。2月だが、春の到来を予感させるような穏やかで暖かい日だ。
あらゆる戦争や紛争が歴史上の年表となった世界。紛争や飢えで死ぬようなことは、もう過去の出来事となっている。そんな世界を、高城と一緒に創った英雄がベッドの上で静かに寝息を立てていた。
そしてベッドの横では、白髪の老人が優しいまなざしを向けている。
「・・・・・・高城・・・戻っていたのか・・・・」
天皇は人の気配に気づき、ゆっくりとまぶたを開いた。その顔には、日本と世界のために戦ってきた年輪が深く刻まれている。
「はい、陛下。今日午前、射手座A*(スター)から戻って参りました。遅くなって申し訳ありません」
※射手座A* 銀河中心核にある巨大ブラックホール
「・・・急がせてしまったようだな・・・悪いことをした・・・しかし、最後に高城に会うことが出来たのは、神からのプレゼントなのかもしれぬな・・・・あのころからの“ともだち”も、もう多くが先に逝ってしまった・・・・。私も・・・彼らにもうすぐ会えるのだと思うと・・・とても楽しみだよ・・・」
「はい、陛下。仕事を全て終わらせた後、私もすぐに伺います。その時は、歓迎パーティーを開いてください」
「はは・・・そうだな・・・。高城、わたしはずっと不安だったのだ。昔・・・君が書いた小説の・・・親友のキルヒアインの様に死んでしまうのではないかと・・・・私のせいで・・・死なせてしまうのではないかと・・・・ずっと不安だったのだ・・・・」
「・・・・陛下、それは小説にございます」
「はは・・・初等部の時・・・私が泣いて君に詰め寄った時にも・・君はそう言ったかな・・・。懐かしいなぁ・・・・私はどうだっただろうか・・?良き友人で有り・・・良き君主たり得ただろうか・・・」
「はい、陛下。私にとって最高の友人であり、そして、全人類にとって最高の君主である事を、陛下の第一の友人である私が保証します。ご安心ください」
天皇は目を細めて高城を見る。
「・・・高城、最後に、君の今の姿を見せてくれないか・・・」
そう言われた高城蒼龍は軽く頷き、自分の顎の所に指をかけてバリバリと皮膚をはがし始めた。そして白髪のカツラも脱ぎ捨てる。
「・・・きみは変わらないな・・・30代半ばのままだな・・・」
特殊メイクを剥がした高城の姿は、誰の目にも30代半ばの青年に見えた。
「変な天使の呪いですよ。まだまだ苦労しろと言われているようなものです」
「天使か・・一度、君のリリエルと話をしてみたかったな・・・彼女にもよろしく伝えてくれ・・・。そして・・・人類の未来を・・・頼む」
天皇はゆっくりと右手を高城に差し出す。その細くしわだらけの手を、高城は固く握りしめた。
そして3日後、激動の昭和が幕を閉じた。
――――
2039年1月9日
東京市高輪 泉岳寺
高城蒼龍は墓前に花束を置き、しばし瞑目する。
「行ってくる、和美。必ず人類を守ってみせる」
宇宙軍の制帽を深くかぶり直し、高城蒼龍は立ち上がった。そして、迎えのリムジンに乗り込む。
~ 高城和美 昭和弐拾参年拾弐月壱日 享年参拾八歳 ~
1年と8ヶ月にわたって私の物語を読んでいただき、誠にありがとうございました。皆様の応援のおかげでここまで来ることが出来ました。本当に感謝に堪えません。
回収の出来ていない伏線もあったりするのですが、外伝などで少しずつ書いて行ければと思っております。
そして、大日本帝国宇宙軍の続編となる「大日本帝国宇宙軍 ~神魔大戦編~」の連載を開始しました。今までは歴史ジャンルだったのですが、2039年が舞台なのでSFのジャンルでの連載となります。
以下のリンクからお読みいただけます。
https://book1.adouzi.eu.org/n0502jw/
是非とも、ブックマークや評価をよろしくお願いいたします!




