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第四二四話 最後の戦い(4)

「やっぱりおかしい。ルメイの切り札がこんなにあっけないとは思えないな」


 “ルメイの目的は、世界中で民族問題に火をつけて混乱させること。そしておそらくオレの殺害にあるはずだ“


 ルメイと悪魔たちの当初の目論見より、戦争による死者はかなり少なくなっている。だから、それを少しでも補おうとするだろう。アルマゲドンまではまだ100年近くある。その間世界が不安定であれば、徐々に怨念を持った死も積み重なってくる。ルメイはそれを狙っているはずだ。


 やはり、高城蒼龍の居ない東京を狙うのは不合理に思える。


「それに、この南京総統府は長江から5kmほど離れている。長江で爆発させても確実にオレを殺せるとは限らない」


「ダイバートを無視したブリティッシュエアウェイズの二機は、いま陸軍が撃墜した。乗っていたのはほとんどが日本人ということだ。重要な政府関係者などは乗っていなかったよ」


 宇宙軍本部に居る森川が発言した。両機合わせて80人ほどの民間人が乗っていたが、本土の安全を確保するためには致し方ない。イギリスとの外交問題に発展しなければいいのだが。


「最後の一発は重慶から持ち出されていなかったんだろ?ならやはりこの総統府を狙うはずだ。みんな、全ての可能性をもう一度洗ってくれ」


 MI-6のバーバロッサ少佐の話では、東京を爆撃する計画があったということだ。高城は東京に居ることが多いので、おそらくその計画は実在したのだろう。しかし、その計画がブリティッシュエアウェイズの2機とは限らない。それに、高城が南京を訪問するチャンスを逃すとは思えない。


「哨戒機から連絡です。重慶方面から南京に向かう中型機があります。中華民国政府に問い合わせたところ、総統府襲撃事件を聞いた国軍のがく将軍が向かっているとのことでした」


 宇宙軍の女性士官が報告をしてきた。現在、南京から半径150km以内は飛行禁止命令が出されている。しかし、国軍の幹部であれば、総統が襲撃されたとなれば駆けつけるのも無理は無いかとも思う。


「中型機か?大型機じゃないんだな?」


「はい、レーダーには中型機の大きさに映っています。飛行禁止命令が出ているので引き返すように伝えたのですが、国家危急なのだから特別だとの一点張りで・・・」


 広島型原爆の重量は3トンと少しある。中型輸送機なら、搭載できないことはない。


「宋総統。お手数をかけるのですが、楽将軍に引き返すように伝えてもらえないでしょうか?」


「でも、楽将軍は信頼の置ける人物よ。駆けつけてくれるのは心強いのだけど」


「はい、宋総統。原爆を確保するまでは、念の入れすぎと言うことはありません」


「わかったわ、高城さん。楽将軍につないでもらう事は出来るかしら?」


 高城の携帯端末から宇宙軍の哨戒機を中継して、楽将軍につなぐことが出来た。


「楽将軍、総統の宋慶齢です。南京上空には飛行禁止命令を出しているの。だから、今日の所は引き返してくれないかしら?」


「宋総統。今は非常時ですぞ。総統府が襲撃され、親衛隊の一部にも裏切りが出たと聞いております。私が駆けつけて陣頭指揮を執り、総統閣下を守りいたします!」


 宋総統が引き返すように何度も命令を出したが、楽将軍はそれを聞き入れなかった。そして、処分は後で受けますと言って無線を切ってしまった。


「高城さん、どうしたものかしら?」


 楽将軍と通話をした携帯端末を高城に返す。


「宋総統。撃墜要請を出していただいてもよろしいでしょうか?」


 高城は宋慶齢の目をまっすぐに見ている。一国の将軍を殺して欲しいと言っているのだ。予防的措置や憶測だけで実行できるようなものではない。


「えっ?それは・・・、彼は我が国の国防を担う重鎮です。私を心配して駆けつけてくれるのは不自然ではないでしょう?」


 確かにその通りだ。原爆の所在が確実にわかっていれば、撃墜まですることはないだろう。しかし、最後の原爆の行方がわかっていない。さらに、高城には楽将軍が裏切っているという確証があった。


「宋総統。先ほどの楽将軍との会話で、楽将軍が嘘を付いているという証拠を得ることが出来ました」


 そう言って高城は、手に持っている携帯端末を宋慶齢に見せた。そこには英語表記で、楽将軍が嘘を言っていると表示がされていた。


「これは・・?」


「楽将軍の音声を解析しました。楽将軍の声からは、嘘をつくときに特徴的なトーンや息づかいが検出されました。楽将軍は間違いなく、嘘をついています」


 宋慶齢の表情には明らかに戸惑いの色が浮かんでいる。確かに引き返すようにとの総統命令を無視している。しかし、忠誠心が篤かったならば、命令を無視してでも駆けつけたいという気持ちもわかるのだ。


「高城さん、楽将軍は裏切っているのですね?」


「はい、少なくとも嘘をついている事に間違いはありません。今、宋総統を失うわけにはいかないのです」


「解ったわ、高城さん。私の責任において世界連合軍に撃墜要請を出します。楽将軍の飛行機を撃墜してください」


 ――――


 楽将軍の乗っている飛行機は、アメリカ製のC-47スカイトレインだ。ペイロードは最大2700kgなので、原爆を積み込むには能力不足のはずだった。


 C-47は出来るだけ低空を飛行して南京を目指していた。まだ太陽は出ていないので真っ暗なのだが、実用化されたばかりのGNSS(全球測位衛星システム)を搭載しており、迷うことなく南京を目指していた。


 南京まで150kmの飛行禁止区域に侵入した。その時、地上に配備していた対空ミサイルがC-47の主翼付け根付近に着弾する。翼をもがれたC-47はきりもみ状態で合肥市の近くにある巣湖に墜落した。


 そして、C-47に積まれていた何かが、大爆発を起こしたのだ。


仕事がかなり忙しいので、更新頻度が下がります。


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― 新着の感想 ―
通話記録からの分析結果だけで高城の撃墜要請を受けるとは、それだけ自分の部下より高城を信頼している、ということなのかな? さて、楽将軍の乗機は撃墜され積荷が大爆発したが、その結果は?
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