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第四二三話 最後の戦い(3)

 原爆が搭載されていると思われる貨物船二隻を確保したが、その両方共に原爆は無かった。


「どういうことだ?ルメイ、いったい何を考えている?」


 ルルルールルルー


 高城の持っているもう一つの携帯端末が呼び出し音を鳴らした。


「高城くん、どうやらルメイに嵌められたようだね」


 電話会議モードで入ってきた相手は宇宙軍本部にいる森川出水もりかわいずみだ。今回の作戦は、宇宙軍の幹部全員で情報を共有していた。


「ああ、偽の貨物船まで用意しているから何かの陽動だと思う。このタイミングでどこか別の所を狙っている可能性があるな」


「通常は警備が厳しくて攻撃の難しいところだね。最後の原爆が重慶にあると誤認させて、我々の目を中国大陸に向かせている間に狙うところと言えば・・」


「東京か?」


「おそらくね。今、東京に近づいている航空機を洗っている。何かあるとすれば、朝6時頃に羽田に到着する長距離国際便の8機ほどだろう」


 ※この世界線では、ターボプロップ4発の180人乗り中型旅客機が就航している。航続距離は8000km。ボーイング737より一回り大きい


 ルルルールルルー


「東京湾に停泊している外国船に、離岸命令を出したよ。岸から5km以上離れるようにね。すぐに出港できない船には臨検を入れる」


 続いて電話会議に入ってきたのは宇宙軍の三宅康正だ。


「万が一船舶に原爆が乗っていたとしても、これで被害を最小限に出来るはずだ」


 ルルルールルルー


 電話会議にKGBの有馬公爵が参加してきた。


「直近12時間のあらゆる通信を見直してるよ。怪しい通信はAIがアラートを出してくれるけど、そこからビンゴを引き当てるのは人間の目にかかってるからね」


「助かるよ。宇宙軍の総力を挙げてルメイの狙いを潰してやろう。あいつにだけは絶対に負けない」


「そうだな。ルメイに俺たち宇宙軍の実力を見せつけてやろう」


 リリリーンリリリーン


 外国エージェントとのやりとりに使う携帯端末がベルを鳴らした。


「高城中将。MI-6のジャック・バーバロッサ少佐です。例の孤児院出身者から有力な情報が得られました。航空機を使って東京を爆撃する計画があるようです。孤児院出身者は世界中に散らばっていますが、比較的多く集まっているのはインドのムンバイとシンガポールですね」


「ありがとう、ジャック。恩に着るよ。森川くん、日本に近づいている航空機の中にムンバイかシンガポール発の便はあるか?」


「ビンゴかもな。両方ともブリティッシュエアウェイズの羽田行きだ。旅客機だな」


「怪しいな。念のため日本の近くを飛んでいる民間機にダイバートするように命令を出してくれ。大都市圏以外の田舎の空港がいいな」


 ※ダイバート 本来の目的地ではなく、別の空港に着陸すること


「MI-6バーバロッサです。ムンバイ発とシンガポール発便の機長を洗ったところ、二人とも孤児院出身ですね。ただ、例の孤児院では無くイギリスの孤児院です。ルメイとの関連は今のところ確認できていません」


 バーバロッサの報告に高城蒼龍は眉根を寄せた。イギリスにルメイの協力者がいてもおかしくは無い。今までノーマークだったことが悔やまれる。


「8機ともダイバートの命令には返事をしてきたらしい。だが、ムンバイ発とシンガポール発のブリティッシュエアウェイズ2便が進路を変えていないようだ。ますます怪しいな」


 森川もこの2機の内、どちらかに原爆が搭載されている可能性が高いと感じ始めていた。


「今、陸軍がスクランブルをかけたらしい。命令に従わない場合は撃墜もやむなしだろうな」


「進路上の巡洋艦にもいつでも撃墜できるように準備をさせておいてくれ。それと、搭乗員名簿は・・、いや、いい、何でもない」


 両方の飛行機には民間人が多数乗っているはずだ。観光客はほぼいないので、おそらくビジネスマンがほとんどだろう。しかし、重要人物が乗っていないという確証も無い。


 “重要人物が乗っていたら、撃墜を中止するのか?”


 もし、旅客機の撃墜をためらったなら、東京が核の炎で焼かれてしまうかもしれない。そうなれば、旅客機の乗客も全員死ぬのだ。東京と旅客機を天秤にかけて、旅客機の方が重たいと言うことはあり得ない。


「積み荷に怪しいものがありますね。両機とも、修理用の航空機エンジンを4基積んでいます。積み荷に重量があるため、搭乗客は減らしています。といっても、両機とも40人くらいは乗っていますが」


 森川が最新の情報を伝えた。海外を出発して日本に着陸する航空機には、搭乗者名簿と積み荷の申告が義務づけられている。その資料を取り寄せたのだ。


「重量物は目視確認するはずだろ?」


 有馬の疑問ももっともだ。日本に向かう航空機の積み荷の検査は厳重なはずなのだ。


「外殻にそれっぽい機械を溶接して偽装していたのかもしれないな。専門家じゃ無ければ、だませるかもしれん」


「例の二機はイギリス運輸局からの通信にも返答していないようです。間違いなくクロですね。ムンバイ発の方は対馬を超えました。東京までは2時間と少しですが、あと30分くらいで島根上空に入ります。シンガポール発の方は室戸岬沖です。あ、進路を北に変えたようです。大阪まで20分です!」


「まずいな。スクランブルは間に合うか?」


「陸軍の松山基地から上がった機が間に合いそうです。陸軍は撃墜命令を出しましたね」


「そうか、それならなんとかこの危機を切り抜けられるか?」


 もし、この2機のどちらかに原爆が搭載されていたとしても、おそらく対応できるだろう。これで、ルメイの目論見を潰すことができる。


 これで大丈夫なはずなのだが、高城はどうしても不安をぬぐいさることが出来ない。


「何か見落としはないか?」




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― 新着の感想 ―
ブツは灯台下暗しで既に東京にあるのだろうか。 某大人気海賊漫画では街の中心部の時計台に設置してありましたが。 バーバロッサ少佐に美少年を近づけてはならないですね。 いや、敵性組織に美少年がいたら無敵…
MI-6のバーバロッサ少佐に15〜16歳の孤児の少年の尋問を任せてはいけない気がしてきた。 いや全部白状させてしまうからいいのか。 少佐は多分黒髪長髪の男。
南京でのクーデター未遂事件も、今となっては失敗を前提とした囮だった気がする。 東京と大阪に危機は迫っているが、当のルメイはどこにいるのか、ちょっと不気味。
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