表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

430/452

第四二○話 平和維持軍(2)

 連合平和維持軍は、セルビアとクロアチアおよびボスニア・ヘルツェゴビナの州境にDMZ(非武装地帯)を強制的に設定し、軍を進駐させた。それに抵抗する組織に対しては、どちらの勢力であろうと容赦の無い反撃を行って撃退した。


 ※DMZ 非武装地帯だが、平和維持軍は武装している


 内戦をしている勢力と平和維持軍の装備には天と地ほどの差があったため、ほぼ問題なくDMZの確保に成功するように思えた。フランスの担当地域を除いて。


 ――――


 宇宙軍本部


「多少の問題はあったけど、なんとかDMZの確保が出来ているようで安心したよ」


 テレビモニターの向こうで有馬公爵が安堵の表情を浮かべていた。平和維持軍にロシア軍も参加しているので、その作戦の成否は気になるところだ。


「多少の問題ってフランスの担当地域のことだろ?まあ、なんとか戦線の維持は出来ているけど、1km前進して2km押し返されてるんじゃ何やってるかわからないよ。まあ、フランス兵が悪いんじゃ無くて、あんな装備しか持たせない上層部が悪いんだけどね。補給の混乱で無用な戦死者もかなり出してるよ。しかし、フランスはいったい何のこだわりがあるんだろうね。12.7mmブローニングM2を改造して13.2mmにしようとしたり」


 高城も報告書を読みながら嘆息を吐く。世界連合が武器や弾薬の標準化を進めようとしているのに、何故かフランスは自国規格をねじ込もうとするのだ。


 現在フランスの首相を務めているのはド・ゴールなのだが、そういえば前世でフランスのNATO脱退を決めたのもド・ゴールだったと高城は思い出す。※その後再加盟


 前世では、西側と東側の対立があったため国連主導の集団安全保障体制は確立できなかったが、今世では東側が存在しないため、世界連合主導の集団安全保障体制が準備されつつある。


 “ほんと、フランスは困ったちゃんだな。突然世界連合を脱退するとか言い出さなければいいんだけど”


 ――――


 世界連合は地域紛争だとしても、中途半端な介入では無く最初から大兵力を投入するという強い意志を世界に示すことに成功した。ユーゴスラビア一国に対して200万人近い兵力の投入は過剰とも思えたが、それだけの圧倒的な兵力によってすぐに内戦を終結させたのだ。それでも、この短期間で、ベオグラードの核爆発も入れると70万人もの死者を出している。民族間の憎悪はブレーキをかけがたいのだ。


 国家を分断されたユーゴスラビアのセルビア人勢力にとっては受け入れがたい状況もあるのだが、少なくとも一時的な安全を手に入れることが出来た。


 しかし、ユーゴスラビア内戦で実質クロアチアやコソボといった少数民族が独立したことによって、少数民族の独立機運が世界的に高まってしまった。


 イギリスでは北アイルランドの独立闘争が激化し、スペインでもバスク地方とカタルーニャ地方で独立軍が蜂起し内戦が始まった。


 アフリカでは、独立の目処が立っていない西サハラやアンゴラ・モザンビークなども、宗主国のスペインやポルトガルに対して独立戦争を開始した。南アフリカにおいても、黒人と白人との内戦が勃発し、大虐殺と言って良い状況が発生している。


 東南アジアにおいても、フィリピンのミンダナオ島でイスラム勢力による独立戦争が始まってしまい、一部では虐殺が発生したとの報告もある。


 “大戦”は終結したが、世界各地で民族問題の炎が燃え上がってしまったのだ。


 ――――


 宇宙軍本部


「ベオグラードの核爆発が、この世界状況を生み出す口火だったのだとすると、ルメイは相当な策士だな。もしかして、ルメイも転生者じゃないのか?」


 高城蒼龍は執務室でパソコン画面を見ながらリリエルにつぶやく。世界各地で発生したテロや紛争の最新情報が送られてきているのだ。ユーゴスラビアはヨーロッパの国であったこともあり、イギリスやフランスが積極的に介入した。しかし、東南アジアやアフリカの内戦に関しては、それほど積極的に関与をしたがらない。


「どうかしらね?ルメイが転生者なら、もっとチートな事、してるんじゃない?それこそ、あんたみたいに」


「確かにそうか。前世のルメイは、日本と朝鮮半島で300万人も殺したからそれで満足したんだろうな。しかしポルトガルとスペインも勧告に従って植民地を放棄していれば、こんなことにはならなかったろうに」


 第二次欧州大戦でドイツに支配されたオランダやフランス等は、日英の圧力で植民地の放棄を決定しているが、中立国だったポルトガルやスペインは植民地経営を放棄していなかった。その為、世界連合から経済制裁が加えられており、今やヨーロッパの最貧国に落ちぶれている。


 ※史実でも、植民地を放棄しなかった1970年代前半のポルトガルは、植民地支配のために国家予算の40%を使い、さらに植民地人がポルトガルへ流入したために文盲率が38%、凶悪犯罪の発生率はヨーロッパ最悪になっていた。


 設立されたばかりの世界連合は、早くもその存在を試される事態に陥っていた。




次回更新は12月2日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
民族やら宗教やら、紛争の火種はどこにでもあるということなんだろうけど。 しかし、正直なところ、人間ってなんでそんなものに拘って争って殺し合いまでしたがるのか、この年になっても未だに理解できません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ