第四一七話 バルカン半島動乱(2)
クロアチアとユーゴスラビアの内戦が泥沼化の様相を呈しようとしていたさなか、ボスニア・ヘルチェゴビナとスロベニア、コソボにマケドニアが独立を宣言した。
その結果、ユーゴスラビア軍として従軍していた各地域の兵士達が、サボタージュをして大量の離脱者を出してしまう。
そして混乱を極めたユーゴスラビア軍はクロアチア独立国軍に押し戻され、ユーゴ領域内のセルビア人に対してクロアチア独立国軍による虐殺が始まった。
クロアチアに遅れて独立を宣言した地域は、ユーゴスラビア軍がクロアチア独立国軍との戦闘をしているため、今のところ目立った衝突は発生していないが、今後どうなるかは予断を許さない状況だった。
――――
1944年11月3日
ルメイの居所は、依然としてつかめていなかった。
KGBとルルイエ機関だけではなくMI-6やモサド、さらにSDECEにも情報を提供し、全世界の情報機関が全力でルメイを追っている。そして、ルメイの協力者とみられる孤児院出身者の動向が報告されてきた。
※モサド イスラエルの情報機関。この世界線では、沿海州にユダヤ人国家として独立している。
※SDECE フランスの情報機関
その多くはアメリカに在住していて、一見問題の無い暮らしをしているようだった。彼らはベオグラードでの核テロ以前からマークしているのだが、さらに監視を強化している。怪しい動きがあれば、すぐに情報が回ってくるはずだ。
また、行方不明になっている核爆弾についての情報もいくつか報告があった。
「重慶で核爆弾を搭載した3機のB29は、一度トルクメニスタンに着陸しています。そこで給油をして飛び立った後は完全に足取りがわかりません。ただ、ベオグラードで爆発した核爆弾は、パレスチナを出港してボスポラス海峡を通りブルガリアに陸揚げされたのでは無いかと思われます」
宇宙軍の女性士官が報告書を読み上げる。
「ということは、トルクメニスタンからパレスチナ辺りまで空輸された可能性が高いと言うことだな。残りの2個はどうだ?手がかりも無いのか?」
「はい、高城中将。インドのカラチに孤児院出身者が何人か潜伏しています。MI-6がマークしていて、報告では特殊な荷物をどこかに隠している可能性が高いと言うことです」
※カラチ 21世紀ではパキスタンの大都市だが、この世界線ではまだインドから独立していない。現在分離独立準備中
「カラチか。ヒンズー教徒とイスラム教徒との間で戦争を引き起こすつもりか」
バルカン半島とインド・パキスタンという民族問題を抱えている所に火種を投下するつもりなのだろう。全く嫌な所をピンポイントで突いてくる。
「あと一つの行方が全くわからないということか」
ルメイならどう考えるだろう。ルメイの目的は、民族問題をあおって出来るだけ民間人の死者を増やすことだ。複雑に民族が入り組んでいて、いつ民族問題が暴発してもおかしくない場所を狙っている。バルカン半島では炎が燃え上がっていて、インド・パキスタンにも点火しようとしている。そして、あと一つはどこだ?
可能性を考え出せば切りが無い。世界中の至る所で民族問題はくすぶっている。その地域に核爆弾を運び込むこともたやすいだろう。21世紀の世界でも、3トンくらいの荷物を密輸することはそんなに難しいことではないのだ。1940年代においてはなおさらハードルは低い。
「今回のように、空中投下では無く地上や港で爆発させても良いのなら、船に乗せて爆発させるという方法もある。特定の人物を狙うならもう少し工夫は必要だろうが」
“特定の人物?ルメイが特定の人物を狙うとしたら、俺か?”
高城蒼龍は執務室に戻ってパソコンを立ち上げる。そして、再度ルメイの生い立ちや行動を見直した。
「なあリリエル。ルメイとアンドラスなら次にどうすると思う?」
天皇にリリエルの事を打ち明けたとき、“変な天使”と紹介した後しばらく機嫌が悪かったのだが今はもう完全に忘れてしまっているようだ。
「そうね、あんたと同じ考えよ。次のアルマゲドンまで約100年。その間、戦争が起こらない世界にされるのを一番嫌うでしょうね。必ず、あんたを殺しに来るわ」
「やっぱりその結論になるか。しかし、俺もあっちこっちに飛び回っているし、優秀なSPも付いている。だとすると、確実に俺を仕留めるなら宇宙軍本部にいるときに核兵器でドカンって感じか?もしそうだとしたら、船で港に着いたときに爆発させても確実じゃないな。宇宙軍本部のある渋谷近くまで運ぶ必要があるのか」
高城蒼龍は、核爆弾を渋谷近辺で爆発させるための方法をあらゆる角度からシミュレーションさせた。そしてその報告が上がってくる。
「最も高い可能性は鉄道による輸送です。山手線を走る貨物列車に乗せられて、渋谷近辺で爆発させられてはどうしようもありません。日本に陸揚げされる前に阻止する必要があります」
山手線では横浜港に陸揚げされた物資を関東北部に送る貨物列車が走っている。横浜港で荷揚げされる貨物は膨大な量に及んでいて、それを全量確認することなど不可能だ。
20世紀後半や21世紀においても、完全にテロを防ぐことは出来ていなかったのだから困難であることはわかる。しかし、次の核テロだけはなんとしても防がなければならない。
第四一七話を読んで頂いてありがとうございます。
11月22日は休載です。ちょっとかなり忙しいので・・・。
土日祝は休載です。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!




