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第四○二話 硫黄島宇宙軍基地(2)

 白次しろつぐの持っている機械に表示されている暗号のようなアルファベットと数字は、軍関係者ならすぐに察しが付いた。Nは緯度、Eは経度、Aは高度を表している。しかも小数点以下があれほど並んでいると言うことは、おそらく数十センチの誤差で測定できるのだろう。


「このGNSSを利用すると、目印の無い洋上でも自分の位置をすぐに確認できます。航空機や船舶は、今後自分の位置を見失うことがなくなるでしょう。また、自動操縦もより精度が向上することになります」


 現時点においても、日本製の航空機には自動操縦システムが組み込まれている。しかし、これは地磁気とジャイロおよび地上基地局からの電波を使ったシステムなので、どうしても数十メートルから100メートルほどの誤差が発生してしまうのだ。しかしこのGNSSを利用すれば、数十センチの精度で運行ができるようになる。


「さらに、このような端末を使えば自動車での旅がより便利になります」


 そう言って取り出したのは、A4サイズくらいのタブレットだ。会場のスクリーンには、その画面がアップで表示される。


「今表示しているのはアメリカ・デトロイトの精密な地図ですね。これは、人工衛星で撮影した写真から作っています。ここをこう拡大して衛星写真に切り替えると、最近建設されたばかりのアメリカ大統領府が見えますね」


 画面には上空から撮影されたと思われるアメリカ大統領府の写真が大きく表示されていた。その解像度は宇宙空間から撮影したとは思えないほど精細で、建物の前に停車している車と、その側に立っている複数の人の姿も確認できた。



「この車列はかなり高位の方が乗っていたと思われます。こちらの方は車椅子に乗っているので、おそらくルーズベルト容疑者、あ、いや失礼、大統領ではないでしょうか?ちなみに、この方のいる場所はN42.32817236431804, W83.0601742177139ですね。このように我が国の偵察衛星とGNSSを使えば、どんな“物”でも自動的にお届けすることが可能になります」


 白次少将の説明は政府関係者達の顔を一様に青ざめさせた。そして会場は静まりかえる。


 このシステムは一ヶ月前から運用が開始されたと言っていた。今までの日本軍の攻撃も信じられないほど精密なものだったが、このシステムを使えば特定の建物や場所をピンポイントで正確に爆撃できるようになる。おそらく周りにほとんど被害を出さずに、いまスクリーンに映っている大統領府だけ破壊することも可能なのだろう。


「さらに、この技術は農業分野にも応用できます。我が国の北海道で実験をしたときの映像です」


 そこには金色にさざめく広大な麦畑が広がっている。そして、一台の大型コンバイン(収穫機)が刈り取り作業をしていた。一見すると何の変哲も無い大規模農家の日常に見える。しかし、この会場でそんな日常の一コマを流すようなことはないはずだ。


「こちらのコンバインは、実は無人で動いています」


 会場にどよめきが走る。「まさか」とか「やはり」と言った声があちらこちらから聞こえてきた。


「GNSSと衛星通信を使って自動で刈り取り作業を行います。収穫した小麦をトラックに移すために人が必要なのですが、将来的にはそれも無人化する予定です。また万が一のために、運転席にはカメラを設置し通信衛星経由で遠隔操作もできるようにしています」


 それを聞いたほとんどの参加者は、白次少将の言いたいことを完全に理解した。“人類の明るい未来のための新技術“を紹介したいわけではないのだ。これはアメリカや、日本に敵対する可能性のある国への強烈なメッセージだ。もし日本と戦争になったなら、日本軍の無人攻撃機や無人戦車、そして正確無比なミサイルによって葬ってしまうぞという宣言に他ならない。


 映像ではアメリカの大統領府とその詳細な緯度経度が表示されていた。これは、今すぐにでも大統領府を破壊することができるという脅迫なのだ。そしてそれは、アメリカだけではなく、世界中のあらゆる国に対しても同じ事が言える。


「白次少将、そんな遠回しな建前は結構ですよ」


 会場の片隅からウエールズ訛りの英語が響いた。皆、その方向を見る。


「イギリス軍技術大佐のジョンソンです。我々もそんな事を聞くために遠路はるばる来たわけではないのだ。我々の知りたい事、そして日本軍が伝えたい事を直接的に言っていただけませんか?」


 白次はその尊大な物言いをする人物を見て口角を上げた。


「そうですね。では、ここから本題に入るとしましょう。こちらの映像をご覧ください。これは、ウエストバージニア州にあるアメリカ陸軍基地の衛星写真です。爆撃を恐れて無数の掩体壕を作っていますね。その数は2000基以上もあります。そしてこちらが一週間後の同じ場所の写真です」


 ※掩体壕 軍用機が一機だけ格納できるコンクリート製の強固な防空壕


 その写真を見た参加者達は、これでもかというくらい目を見開いて固唾をのんだ。掩体壕だけ確実に爆破されているのだ。写真は次々に切り替わり、ざっと見て数百の掩体壕が破壊されていた。


「精密爆撃をする場合、今までは哨戒機によるレーザー誘導のサポートが必要でした。また、目標地点の10km以内に近づかなければならないため多少の危険が伴っていたのですが、これからはGNSSによってより安全に作戦が実行できるようになります。今回使用した爆弾は重爆撃機に搭載されて、目標から100kmほど離れた空域で投下した物になります。簡易な翼が取り付けられており、滑空しながら目標に近づきます。爆弾にはあらかじめ着弾する座標が入力されているので、このように一発ずつ確実に命中させることができます」


 会場が静まりかえる。爆撃という物は、何百発も投下して命中するのはその内数パーセントだ。しかも、目標の近くに侵入しないとならない。非常に効率が悪く危険な任務なのだ。


 しかしこのGNSSを使えば、目標から100kmも離れた地点で投下して確実に命中させることができる。あらかじめ爆弾毎に座標を指定できるので、同時に何百カ所という目標をピンポイントで破壊できるのだ。こんな攻撃をされたら、どんな大軍を用意しても日本軍に勝てるはずなど無い。


 参加者の引きつった顔とは対照的に、壇上の白次は悪魔的な笑みを浮かべていた。




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― 新着の感想 ―
ルーズベルト大統領の現在位置も丸見え。 航空機の掩体壕もピンポイントで撃破可能か、、、 この誘導爆弾のコストは幾らなのだろうか。 アメリカ大統領への攻撃がローコストでできてしまう。 令和日本の農家…
久しぶりに登場したジョンソン君、もう大佐になったんですね(笑) 今回の説明会で見せられた数々の先進的な技術、これで日本に手を出してはいけないという認識を各国が持ってくれるといいんだけど、この世界には悪…
アメリカ国内からの謀叛、叛乱、革命、一揆により、アメリカの現体制が滅亡する事を希望♫
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