第三九七話 アメリカ上陸作戦(2)
英米首脳会談を終えたチャーチルは大統領府を後にする。そしてデトロイトのイギリス領事館に向かった。そこに、外相会談を終えたイーデン外務大臣も戻ってきた。
「ハル国務長官はなんと言っていた?イーデン卿」
「はい、首相。表面的には講和提案の受け入れに難色を示しておりましたが、亡命の受け入れには前向きのように感じました。まあ、だれしも自分の命が一番ですからね」
「そうか。ルーズベルト大統領も亡命案を否定はしなかったからな。まあ、前向きに考えてくれればありがたいのだが。しかし、アメリカ政府が降伏をしても各自治州が抵抗を止めるかどうかは正直怪しいな。アメリカは州ごとに軍隊を持っている。あの巨大な国を屈服させるのは一筋縄ではいかんぞ」
アメリカは州ごとに軍隊を持っていて、おのおのが半独立国家のような扱いになっている。その為連邦政府が降伏をした場合、各州が独立を宣言して戦争を継続する可能性もある。特に、南北戦争を戦った南部の州はその可能性が非常に高いのだ。
「この日米戦争は早く終わってほしいものだな。そうすれば、我が国で生産された最新の家電製品や自動車をアメリカに輸出できるぞ。戦争が終わってもアメリカ人は日本ブランドの製品は買わないだろうからな」
現在イギリスには、日本の協力によって自動車や家電製品の工場が次々に建てられている。そこでは、日本で設計された自動車や家電製品のライセンス生産がされており、ヨーロッパに輸出されているのだ。日米戦争が終わりアメリカの市場が開放されたなら、イギリスで生産された商品が飛ぶように売れることだろう。
「ところで、例の件はなにか進捗はあったか?」
「キューバ革命ですね。トロツキーを爆殺したのは石原で間違いないでしょう。実行犯はトロツキーの秘書だったメルカデルです。ヤツは何年も前からトロツキーの秘書をしていましたが、それ以前にロシアKGBとの接触があったようです。つまり、今次欧州大戦が始まるよりも前に、今回のキューバ革命の準備をしていた可能性があります」
「しかし、そんな事が可能なのか?」
「世界中のあらゆる要人の近くに、KGBのエージェントが浸透していると見た方がよいでしょう。それと、日本のルルイエ機関もです」
「KGBの責任者が有馬公爵で、ルルイエ機関の責任者が例の高城か。二人とも学習院の同期で宇宙軍創立メンバーだな。それと、リチャード・インベストメントを陰で操っていた池田もそうか。ロケット開発責任者の白次もそうだな」
「はい、たまたま優秀な人材が同じ年に集中した・・・という訳ではないですな」
「The Man 100 Years Later(100年後男)か。最近はそんな言い回しがはやってるのか?」
「ええ、日本のコミックの影響らしいですよ。from や on を省略するのが最新とか」
「まったく、兵器や家電だけじゃなく文化まで日本は侵略してくるのか。まあいい。しかし、”100年後男”に接触してみたいものだな・・・。そうだ!会いに行けばいいでは無いか!よし、イーデン卿!東京に行くぞ!英日首脳会談の準備をしてくれ!」
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1942年11月
キューバ シルビオ・カロ日本軍基地
遥か3万キロの航海をこなした上陸用舟艇が多数集結していた。この上陸用舟艇は全長70m総トン数1200トンほどで、小型のカーフェリーのような姿をしている。船底は平らで喫水は浅く、砂浜に船首を乗り上げて上陸する。また、ある程度の防御力があり、正面と上面は20mm機関砲に耐えられる。上陸時の乗員保護は最優先されるべきなのだ。
※史実のアメリカ軍が使用したLCVPと呼ばれる上陸用舟艇は、全長11mほどで防御力は皆無であった。その為、敵前上陸となったノルマンディーのオマハビーチでは多くの損害を出してしまう。
そして日本軍は、フロリダのタンパに上陸することを決定した。タンパの町はタンパ湾の奥にあり大型船も接岸できる。ここを確保できればアメリカ侵攻の橋頭堡となる。
ただ、ここにはアメリカ陸軍基地もあり他の地点よりも攻略は難しい。それでもこのタンパに定めたのは、フロリダ特有の地形にあった。フロリダは、最も高い場所でも100mほどしかなく、その土地のほとんどが湿地帯なのだ。その為、都市部以外に上陸した場合、湿地によってとてもでは無いが進軍できない。それに、湿地には多数のワニが生息している。あまりにも危険すぎた。
「まずは、タンパ湾にある高射砲を沈黙させる。そして同時に、マクディル陸軍航空隊基地も撃破する」
大日本帝国陸軍航空隊のブリーフィングルームで、加藤少佐が大隊の隊員に作戦説明をしていた。
「無人機によってある程度の高射砲は沈黙させられるだろう。だが、全部を破壊することは無理だ。情報ではレーダー連動の120mm高射砲が配備されているらしい。残存高射砲に対してARMを使用する。これで確実に全ての高射砲を沈黙させるんだ。念のため電子戦機のECMでレーダーを妨害するが、もし撃ち漏らしていたら手動照準で撃ってくるぞ。最大射高が18000mあるから当たれば撃墜される。十分に注意しろ」
今回はこの120mm高射砲を警戒して、まずは無人機によって破壊を試みる。今回は500機の無人機を用意しているが、配備されている120mm高射砲は700門ほどが確認されている。全機が命中したとしても200門は残る計算だ。そして残った120mm高射砲を、九七式戦闘攻撃機からARMを発射して叩くのだ。
※ARM アンチレーダーミサイル。火器管制レーダーの出す電波をめがけて向かっていく。
日本軍としては、できればアメリカ上陸作戦を決行する前に停戦を実現させたかった。しかし、イギリスの仲介工作も成果を出しておらず致し方なく上陸を実行することになった。
史実の日本も、敗北を認識していたのだが沖縄に上陸をされ主要都市が灰にされるまで降伏を受け入れることが出来なかった。今世のアメリカにおいてもそれは同じ事だろう。核によって20カ所の基地や都市が灰にされたとしても、日本軍が上陸もしていないのに降伏などあり得ないのだ。
※ハワイは準州で正式なアメリカ国土ではないので、占領されてもアメリカ本土での衝撃はそれほどではなかった。
第三九七話を読んで頂いてありがとうございます。
土日祝は休載です。
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