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第百七九話 バトル・オブ・ブリテン(6)

 シェルマン少尉の所属する編隊は日本軍機を追いかける。Bf109は1,000機以上出撃しているが、この空域にいるのは実質300機程度だ。そして、その半分程度が日本軍機を追いかけ、半分程度は上空で待ち伏せをしている。


「ぐおおぉぉぉぉ・・・」


 シェルマン少尉は6Gを超える旋回加速度に耐えながら、必死で日本軍機に喰い下がる。すさまじい加速度は脳への血流を妨げ、だんだんと視界が狭くなっていく。


「こ、これ以上は・・・」


 しかし、そんなシェルマン少尉を嘲笑うかのように、日本軍機はすさまじい旋回と上昇であっという間に高度6,000m付近に達した。信じられない機動とエンジンパワーだ。どうやったらあんなことが出来るのか?我々は悪夢でも見ているのでは無いか?この加速度に身を任せて気を失ってしまえば、自室のベッドの上で目を覚ますんじゃ無いかとも思う。


 すると、右前方を飛行していた僚機のBf109が突然バランスを崩して空中分解した。機体の限界強度を超えたのだ。他にもパイロットが気を失ったのか、変な方向に旋回をしている機体がある。


「無理だ・・・・追いつけない・・・」


 シェルマン少尉は操縦桿を少し戻して加速度を抑えた。このBf109が機体性能に於いて負けるなど考えられなかった。


 ――――


 上昇に転じた九九式艦上戦闘機の上空からは、150機のBf109が降下しながら向かってきている。


 平松大尉は、2,800馬力の大パワーを活かして急上昇をしながら、前方にBf109を確認する。戦闘機には目もくれるなと指示をされてはいるが、この位置関係だと無視するのも危険がある。攻撃をするかどうか一瞬迷うが、目の前にある照準器のレチクルは既に敵機を自動ロックオンしていた。


「ふっ、機械は正直だな」


 平松大尉は操縦桿とフットペダルを精密に操作し、レチクルの中心に敵機を収める。九九式艦上戦闘機の照準器は、敵機との距離や相対速度を把握して未来位置を計算する。パイロットはレチクルの真ん中に敵機を収めて発射ボタンを押すだけで、確実に命中するのだ。


 バババババッッ


 九九式艦上戦闘機隊は一瞬だけ12.7mm機銃を発射し、すぐさま回避行動に入る。照準器の性能の違いで、こちらの方が有効射程は長い。敵が撃ってくる前に撃ち回避する。まさにヒット・アンド・アウェイのお手本のような機動だ。


 ――――


 ホフマン少尉はレビ照準器の向こうから向かってくる日本軍機を睨む。敵は上昇中なので、徐々に速度を落としてくるはずだ。我々が圧倒的に有利なポジションを取ることができた。しかし、正面から相対する形になってしまったので、油断をすることは出来ない。相手の機銃もこちらを向いているのだ。このコンマ数秒の判断が生死を分けることになる。


 ホフマン少尉は日本軍機に狙いを定める。遠すぎては無駄弾になるので、距離が600mくらいになる瞬間のタイミングを計る。右手の親指にだんだんと力が入っていく。ホフマン少尉が機銃の発射ボタンを押そうとしたその瞬間、日本軍機がほんの少しだけ早く発砲をした。そして、すぐさまロールをして射線から外れる。


「なっ!」


 お互いの相対速度は時速1,000kmを超えている。その速度で一度射線から外れるともう一度狙うことは不可能だ。そして、Bf109も回避しようと操縦桿を倒すが機体が動作を開始するまでに0.5秒ほどどうしてもかかってしまう。


 バンバンッ


 何かが機体をたたきつけるような音が響いた。ホフマン少尉にとっても初めて耳にする音と衝撃だ。どうやら日本軍機の機銃が、何発か命中したようだ。


 ホフマン少尉の機は日本軍機とすれ違い、下方に抜ける。そして上昇に転じるために操縦桿を引いた瞬間、エンジンから激しくオイルが噴き出し、コクピットの視界を遮った。


 ――――


 一度上昇した九九式艦上戦闘機は、背面飛行から再度急降下に入る。そして、逃げ惑うドイツ軍爆撃機に襲いかかった。


「戦闘機隊はなにやってんだよ!」


 爆撃機の銃手が味方の戦闘機隊に向かって叫ぶ。もちろん、叫んだとしても何が変わるわけでは無い。後部銃座の7.92mm機銃700発は既に撃ち尽くしており、襲ってくる日本軍機に対して反撃する手段はもう何もなかった。ただ、この機が狙われないことだけを祈っていたのだ。


 そして数度の襲撃の後、奇跡的に無傷で飛行していた。


 ――――


 機銃弾を全て撃ち尽くした九九式艦上戦闘機は、哨戒機からのガイドによって、イギリス空軍基地に向けて帰投を開始していた。


「こちら平松大尉。全機すべて機銃を撃ち尽くした。これよりケンブリッジに向けて帰投する。何機か被弾している。たどり着けなかった場合の救助を頼む。それと、残念だが何機か撃墜された」


「こちら赤城CDC。了解した。飛行ルートには英軍の駆逐艦を配置しているので、万が一の時は救助してもらえるはずだ。現在、6機の被撃墜を確認している。全員脱出を確認しているので、安全が確認でき次第救助に向かう」


「了解した。よろしく頼む。ところで、何機撃墜できた?」


「撃墜確実が521機、帰投したのが288機で、合計809機だ。よくやってくれた。あとは我々に任せてくれ」


第百七九話を読んで頂いてありがとうございます。

一機当たり14機撃墜は無理でしたね・・・


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] キルレシオが酷いことになっていますねぇ……。 キレたチョビ髭伍長閣下がBf109を生産中止! とか叫びそうな予感。
[良い点] 撃墜確実が521機、、、凄いとしか言いようがない戦果ですね。 これは誇っていい。 そしてドイツ軍は更なる地獄へ。
[一言] ついに損害が出てしまったか・・・ さあ、次回はジパングのアレ(艦隊防空版)ざますよ
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