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第百五四話 オトポール攻防戦

 ソ連軍は、オトポール周辺に一個師団程度しか配備していなかった。ほとんどがポーランド侵攻に振り向けられていたからだ。


 モスクワの判断は「ポーランドに侵攻したからといって、日本がソ連に対して何か実力行使をする事はないだろう」というものであった。


 しかし、その楽観的な予測は見事に裏切られた。


「くそっ!ノモンハンで苦戦している日本軍が、越境攻撃なんかしてこないと言ったのは誰だ!大軍じゃないか!」


 司令のリャボフは、トーチカの中から双眼鏡を覗いて日本軍の大軍を見ている。


 この数年間で、優秀な軍人達は皆粛正されてラーゲリに送られている。自分も含めてだが、今生き残っている軍人のほとんどは、無能だが目立たず、党に忠誠を誓っているように見える者達だけだ。こんな陣容でまともな作戦が出来るはずは無い。


 昨夜の爆撃で、かなりの野戦砲陣地や戦車が破壊されてしまった。今動けるのはT-34が22両とBT戦車が数両、それにいくつかの野戦砲と対空機銃だけだ。


 兵員だけは、すぐに防空壕に逃げ込んだのでそれほどの損害は出していない。


 何とか夜明けまでに動けるものを動員して、あらかじめ準備していた塹壕や防塁に配備することができたが、どう考えても戦力不足だ。


 自分たちに撤退は許されていない。あの凶悪な日本軍を相手にここで戦死する以外に道は残されていない。


 辺りが明るくなり、激しく土煙を上げる日本軍の全容が見えてきた頃、空から悪魔の笛の音が聞こえてきた。


 ヒュルヒュルヒュルーーー


「敵の榴弾だ!全員塹壕から頭を出すな!」


 塹壕から頭を出していなければ、榴弾はそれほど恐ろしくは無い。直撃さえ無ければ大丈夫だ。


 しかし、そんな希望はすぐに打ち消されてしまう。その榴弾は地上40mくらいの場所で爆発をした。300門の榴弾砲から放たれた砲弾は、地面との距離が約40mで爆発するようにセットされた近接信管を装備している。


 塹壕や防塁の上空40mで爆発した榴弾は、小さい破片となってソ連兵を襲う。


 鉄ヘルメットを被っていれば、頭は守ることができる。しかし人間の特性上、身を守るときには前屈みになってしまうので、その破片は背中を貫いた。


「ポルーニン!しっかりしろ!」


 塹壕の兵士達は身を寄せ合い、背嚢や木箱を自分たちの上に乗せてなんとか榴弾から防御しようとしている。


 榴弾の小さい破片なので、即死することは希だが、多くの破片が背中や肩に刺さってしまえば、もう戦闘行動は出来ない。軍隊にとって、生きてはいるが動けない兵士ほどやっかいなものはないのだ。


「時限信管か!?そんな精密に設定できるのか!?」


 夜間の精密爆撃に、地上40m付近で爆発をする時限信管付きの榴弾。日本軍の能力がこんなに高いなんて聞いていなかった。これほどまでの戦力を有しながらノモンハンで苦戦したのは何故だ?もしかしたら、ノモンハンで日本軍が苦戦していたというのは、共産党のプロパガンダだったのだろうかと思う。


 双眼鏡で進軍してくる日本軍を見ていると、いくつかの爆発が敵陣内で発生した。どうやら味方の榴弾砲が着弾しているようだった。


「よし!これで少しでも足止めが出来れば・・・」


 足止めが出来れば・・・と言っては見たが、足止めが出来たとしても自分たちの死ぬ時間が、ほんの少しだけ先延ばしになるだけだなと思う。増援が見込めない以上、正直、ここを死守する意味など無い。しかし、党からの命令は絶対だ。命令を無視して逃げたとしても、そこに待っているのは不名誉な銃殺なのだ。


 司令のリャボフの目の前には、絶望だけが広がっていた。


 ――――


「ソ連軍の榴弾砲攻撃を受けている!航空隊、敵榴弾陣地の破壊を頼む!」


「こちら“雷電隊”、了解した!」


 満洲里から後方15kmの処に、1,000mほどの簡易滑走路が整備されており、そこに九九式襲撃機“雷電”12機がエンジンをかけたままスタンバイをしていた。地上攻撃の要請があれば、すぐに対応できる。


 連絡を受けた雷電隊はすぐに離陸し、オトポールまで3分で到着した。そして、発砲するソ連軍野戦砲陣地を発見し35mm機関砲による攻撃を開始する。


 そして、丁度その頃、日本軍の先頭を走る九六式主力戦車は、ソ連軍陣地の戦車壕に車体を隠したT34を捕捉していた。


 こちらから見えるのは敵の砲塔の一部だけだ。しかし、九六式主力戦車の照準器は、その砲塔を見逃すことは無い。


 距離は約3,000m。この距離だと行進間射撃ではさすがに命中弾を出すには難しい。


 80両の九六式主力戦車が停車する。


 ――――


「日本軍戦車が撃ってくるぞ!戦車中隊、砲撃開始だ!」


 リャボフは戦車中隊に発砲を命じた。


 T34の主砲は76.2mmと強力だ。3,000mの距離でも貫徹力は50mmある。当たれば撃破できる可能性が十分見込まれた。


 こちらは防塁と戦車壕に身を隠し射撃できる。戦車の武器は機動性でもあるのだが、実際の戦闘では待ち伏せの方が圧倒的に有利だ。戦車壕に隠れた相手を撃破するのは簡単では無い。


 ソ連軍のT34が一斉に火を噴いた。22発の徹甲榴弾が日本軍戦車に向かう。そして、ほぼ同時に日本軍の戦車も発砲した。


 日本軍戦車の砲口から発砲炎が見えて2秒後、T34の砲弾が日本戦車に着弾するよりも早く、敵から放たれた砲弾がT34の砲塔に命中した。


「何だとっ!あの距離で当ててくるのか!」


 しかし、T34は今までのソ連戦車にはない重装甲を施してある。砲塔正面の装甲は45mmあり、しかも傾斜しているのだ。遠距離で戦車砲が当たっても、そうそう貫通されるはずは無い。


 ドーン!


 そう思っているとT34の砲塔が爆発し吹き飛んだ。他のT34もハッチが開いて、中から負傷した戦車兵が這い出してくる。


 味方のT34は、最初の一撃で全て撃破されてしまった。そして、T34が撃った徹甲榴弾も何発かは敵に命中したようだが、双眼鏡ではその損害を確認することができない。日本軍戦車は進軍を再開した。


 こうして、午前6時に始まったオトポール攻防戦は、あっけなく日本軍の勝利に終わる。



第百五四話を読んで頂いてありがとうございます。

緒戦は攻め込む方がだいたい勝つんですよね。


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 不発弾などの要因で近接信管が鹵獲されたらどうするつもりなのでしょうか? [一言] 九六式主力戦車の車長さん、「チハとは違うのだよチハとは!」と叫んでそう。
[一言] これから無駄に長い以外に表現しようがないモスクワまでの補給線の負担が日本にのし掛かるわけやけれど、そんな状況で各戦場で雪だるま式に増えていくであろうロシア人捕虜の扱いをどうするのか気になる。…
[良い点] 雷電が頼もしい。 九六式主力戦車の活躍が最高。 でもシベリアの距離はキツいですね。 地球儀で見ても、あの広大さですから。
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