第百三十話 第九戦隊司令 山口多聞(1)
1937年11月
山口多聞は史実より一年早く少将に昇進し、現在第九戦隊の司令官を務めている。
第九戦隊旗艦 軽巡洋艦“北上” CIC
「ペギー(哨戒ヘリのコールサイン)より入電“国籍不明潜水艦ヲ発見セリ。進路北北西、7ノットデ潜航”」
哨戒ヘリから不明潜水艦発見の無線がはいる。それと同時に哨戒ヘリからの情報を受信し、CICのディスプレイに潜水艦の位置が表示された。
「音紋は友軍艦に該当なし。当該海域に友軍潜水艦の情報もありません」
友軍潜水艦の音紋(スクリュー音)は全てデータベース化されているので、ソナーによって感知された音紋と照合される。そして、該当する友軍潜水艦はなかった。
「国籍不明潜水艦を敵潜水艦と判断する。ペギーによる対潜爆弾攻撃を行う」
「こちらペギー、これより敵潜水艦に対潜爆弾攻撃を行います」
哨戒ヘリは敵潜水艦の直上に移動し、対潜爆弾を投下する。
「対潜爆弾の爆発を確認。圧壊音です。敵潜水艦を撃沈と判断」
――――
現在、近代化改装の終了した軽巡四隻による対潜戦闘の訓練が実施されていた。空母打撃群以外の艦隊任務は、今後はシーレーン防衛のための対潜戦闘が主な任務となる。
軽巡北上は、宇宙軍の技術によって近代改装された日本海軍最初の艦の一つだ。
14cm単装砲七門を、レーダー射撃システムを搭載して前方二基のみに減らし、その代わり、35mm連装対空機関砲を二基設置している。さらに、ミサイル発射筒も備え、対艦対空ミサイルが完成すれば装備する予定となっていた。
また、36ノットもの速力は必要ないので、ボイラーとタービンを減らし、さらに安定化のためにバルジを追加して速力30ノットとした。それに伴い、三本目の煙突を廃止し、後部にはヘリコプター用の格納庫と発着甲板を設置してある。
また、艦首にはソナーを設置し対潜戦闘(ASW)能力の向上も図られた。
「山口少将。この戦隊だけで半径300kmの潜水艦を全てあぶり出せるとはすごいですね。5年前までとは隔世の感があります」
軽巡北上の艦長松山大佐が山口多聞少将に話しかける。
「ああ、本当だな。今までいかに練度を上げるかだけを考えていたが、技術の進歩はそんな事を置き去りにしてしまう。いや、もちろん、最新の技術を使いこなす練度は必要なのだがな」
「はい、山口少将。おっしゃるとおりです。しかし、艦砲ならともかく、この艦に搭載予定の対空ミサイルや対艦ミサイルは、一発が九六式艦上戦闘機(レシプロ機)五機分もの値段がするそうですね。そんな物を何十発も使うようなことになると、予算は大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、それは私も気になっていた事だったのだがな、先日の研修会でその考えが間違っていたのだと痛感したよ」
「そうなのですか?」
「ああ、例えば兵士一人の値段を計算したことはあるか?」
「兵士の値段ですか?いえ、考えたことはありませんし・・・それに、少々不謹慎な考えのような気がします」
「まあ、不謹慎と言えばそうだが、総力戦とは全てを数値化するところから始めないとならないと言われた。人間一人を18歳まで育てて教育する費用と、軍に入ってから一人前になるまでの教育費用、そして、軍役が終わった後に、その一人が働いて稼ぐお金や納税を合計すると、ばかにならない金額になる。高価なミサイルを使わず艦砲で敵艦とやり合ったら、必ずこちらにも被害が出る。すると、練度の高い兵士の損耗や、修理をする間の戦力減少によって、間違いなく味方の損害が増大するのだ。特にアメリカのような日本より生産力のある敵を相手にする場合にはな。そうなってしまえば、高価な武器を節約したことが本末転倒となってしまう。無理をしてでも高性能な武器を備えた方が、長期的には安上がりになると言うことだ」
「なるほど。確かに戦力が減少してしまっては、味方の被害が増えて、かえって補充の為の費用が増えるのは自明の理ですな」
「その通りだ。その詳細な計算式も学んできたぞ。場合によっては味方の被害を前提とした作戦も立てざるを得ないが、その場合でも、予測されるベネフィット(利益)とロス(損失)を計算し、さらに、そのロスがその後の作戦や国の生産に与える影響まで考慮すると、安易に戦闘をしてはならないと痛感したよ」
「なるほど。中期防で示された“人命第一”の考え方ですね」
「ああ、それに・・・」
「ペギー(哨戒ヘリのコールサイン)より入電“国籍不明潜水艦ヲ発見セリ。深度30m”」
山口少将と松山大佐が話をしていると、無線員から声が発せられた。そしてディスプレイに国籍不明潜水艦の情報が表示される。
「何だと?もう状況(訓練)は終了しているぞ。どういうことだ?」
「はい、艦長。本当に国籍不明潜水艦のようです」
ここは小笠原の硫黄島近くの海域だ。訓練海域に指定して、無関係の艦艇が進入しないように国連と、ロンドン軍縮条約締結国に通達している。
「この太平洋で潜水艦を運用する可能性があるのは、アメリカ・イギリス・ソ連くらいか・・。アメリカ・イギリスなら条約違反だな」
今世のロンドン軍縮条約では、戦闘艦は自国の管理領域から200海里を出る場合は、締結国への通告が義務づけられている。しかし、アメリカもイギリスも、この海域に潜水艦を派遣するとの通告は無い。
「外務省経由でアメリカ大使館とイギリス大使館に問い合わせろ!第九戦隊は国籍不明潜水艦のいる海域に急行する」
第百三十話を読んで頂いてありがとうございます。
いったい、なにが起こるんです?
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!




