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第百二九話 九七式戦闘攻撃機

1937年7月


「シナモロールよりリトルツインへ、バンディッド(敵)を捕捉。機数65、12時の方向、距離300km、高度6,000m、450km/hで接近中。400秒で射程距離に入ります」


 シナモロール(哨戒機のコードネーム)から無線が入る。九七式戦闘攻撃機(五試戦闘攻撃機)の操縦席に座る源田大尉はコクピットのメインディスプレイを確認した。そこには哨戒機から送信された、敵編隊の情報が表示されている。


「こちらリトルツイン、敵編隊を確認した。距離100kmで攻撃を開始する」


 源田大尉率いるコードネーム:リトルツイン中隊18機は敵編隊を捕捉し、戦闘体勢に入る。


 各機、空対空ミサイルのセーフティを解除した。すると、火気管制システムによって自動的に目標の敵機がロックオンされる。しかも、各機が重複して攻撃しないように適切に目標が割り当てられている。


 ディスプレイには敵を示す光点が示され、みるみる近づいてくる。そして、彼我の距離が100kmに縮まったときに源田大尉は命令を発した。


「全機ミサイル発射!」


 中隊18機のパイロットは、操縦桿にあるミサイル発射ボタンを親指で押し込む。ディスプレイには「FIRE」の文字が表示され、ミサイルが発射されたことが示された。


 中隊はミサイルを発射後、すぐに旋回して敵編隊から距離をとる。放たれたミサイルは遙か後方に居る哨戒機からの強力なレーダー波によって誘導され、敵編隊に近づいていく。そして、最終誘導はミサイル自体からレーダー波を照射するアクティブ誘導に切り替えられ、敵機に命中する。


 発射から70秒後、シナモロールから無線が入った。


「シナモロールよりリトルツインへ。敵機65機全機の撃墜を確認。状況終了。全機帰投せよ」


「リトルツインよりシナモロールへ。状況終了を確認。これより全機帰投する」


 “これが、これからの空中戦なのか・・・”


 源田大尉は訓練を終了し、空母大鳳へ機首を向けた。今日は哨戒機と連携した空母防衛訓練なので、実際にミサイルは発射していない。それ以外にも対艦ミサイルを想定した訓練などをこなしている。


 ※“状況”とは実戦を想定した訓練のこと


 訓練を終えて、源田大尉は休憩室でコーヒーを飲んでいた。


「源田大尉殿。訓練はいかがですか?」


「ああ、加藤中尉か。今日は哨戒機と連携した遠距離での攻撃訓練だが、なんと言うか、味気ないな。敵の姿も見えず、ただ画面に表示された敵を見てボタンを押すだけの簡単な仕事だよ。目標もコンピューターが勝手に決めてくれる。これで、敵機65機全機撃墜と言われても、全く実感はないな」


 九七式戦闘攻撃機の秘匿のため、陸軍と合同で小笠原の硫黄島沖200km地点で訓練を実施している。本来、陸軍のパイロットには着艦の技術は必要ないが、現状九七式戦闘攻撃機の秘匿のため、洋上での訓練がメインとなるので習得してもらっている。


 現在日本軍では、“パイロット1万人計画”を策定し、戦闘機だけではなく、回転翼機や輸送機のパイロットを含めて合計1万人の育成を進めている。


「そうですね。しかし、戦艦もアウトレンジで敵の攻撃の届かないところから攻撃を加えるのが極意と聞きます。そうであれば、中長距離ミサイルによる一方的な攻撃は理にかなっているのではないでしょうか?」


「たしかにそうだな。味方の危険を極限まで排除し、戦果だけを得るか。それに、接近戦では一撃離脱を絶対として、巴戦はできる限り回避するようと教本が改訂されたしな。一対一の決闘はもう古いと言うことか。昭和11年中期防衛計画では、作戦行動に於いて最も重要なのは“国民の生命”で二番目が“兵士の生命”と明示されている。戦場で一番大事なのは人の命ということだ」


 ――――


 陸海宇軍合同で十一試戦闘機の開発が始まってはいるが、完成はまだ先なので、何時までも複葉機を主力戦闘機とするわけにもいかない陸海軍は、昭和11年に九六式艦上戦闘機を、昭和12年に九七式戦闘機を制式化していた。設計も性能も史実とほぼ同じだが、寿エンジンには、宇宙軍で開発したピストンリングや軸受けや鋳造技術が供与され、信頼性がかなり向上していた。


 ――――


 現在日本軍内では、天皇が中心となり人命軽視の考え方の徹底的な排除をし、意識改革を進めている。また、軍内に於いて部下への体罰を厳禁とした。それに伴い下士官への教育プログラムを見直し、P・ドラッガーの“マネジメント”や、モトローラの“シックスシグマ”などをベースにした教育を実施している。


「それでは、上官としての“唯一の資質”とはなんですか?」


 宇宙軍の永井大尉が、陸海軍の士官および下士官達を前に講義をしている。濃紺の宇宙軍制服を身に纏った女性士官だ。


「はい、それでは藤井少尉、どうぞ」


 手を上げた受講者の中から藤井少尉を指名する。


「はい、それは“真摯さ”であります」


「はい、その通りです。さすがですね、藤井少尉」


 藤井少尉は永井大尉に褒められて顔を赤らめる。女性と接点のほとんど無い軍人にとっては、凜々しい女性から褒められるのはやはり嬉しい。


「もし、皆さんの上官が、気分によって態度を変えたり、お気に入りの部下を優遇して、気に入らない部下を冷遇していたらどうでしょう?そのような上官を信頼できますか?」


「いえ、信頼できるはずがありません!」


 藤井少尉が返答する。


「そうですね。その通りです。上官は信頼を得るためにも、常に“真摯”でなければなりません。その事を良く覚えておいてください」


 史実で戦艦陸奥が爆発事故を起こして沈没したのも、艦内でイジメに遭っていた水兵が自爆をしたのが原因とも言われている。組織内の人間関係によっては、とんでもない損失を出すこともあるのだ。


 こうして、日本軍内では意識改革が進んでいった。



第百二九話を読んで頂いてありがとうございます。

九七式戦闘攻撃機となりましたね・・・・陸軍の九七式戦闘機と紛らわしい・・・


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 酸素気化弾の開発を希望します。
[一言] 言われただけで改革できるなら誰も改革で苦労しないんですよね……
[良い点] 日本軍が人命重視し、損害を少なくすべく努力をしている事と 技術開発をしている事。 パイロット1万人計画を進めている事。 それにしても味方は12機なのに誘導ミサイルを100km先から発射…
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