第百○二話 第一回ワールドカップ(1)
<1930年7月>
時を少し遡る。
1930年7月、南米のウルグアイで第一回FIFAワールドカップが開催された。この大会は、地域予選は開催されず、招待国による大会であった。日本も招待されていたのだが、史実では、昭和金融恐慌のあおりで参加を見送っている。しかし、今世では金融恐慌を最小限に抑えたことと、アメリカにある宇宙軍関連企業のSUN&SONカンパニーからの多額の寄付で参加することが出来るようになった。
宇宙軍が設立された1919年から、サッカー協会の設立を働きかけ、1921年に大日本蹴球協会の設立にこぎ着ける。そして大岬らが中心となり、日本のサッカー普及を牽引していた。
そして、大岬のスカウトや大学選抜、そして宇宙軍のメンバーからナショナルチームが結成される。
主なメンバーは以下の通りだ。
監督兼キャプテン:MF:大岬 太郎(男子)
GK:若森 元三(男子)
DF:岩崎 亮(男子)
DF:中杉 慎吾(男子)
DF:織田 一正(男子)
DF:中川 覚(男子)
MF:深山 アヤ(みやま あや)(女子)
MF:鮫島 綾子(女子)
MF:佐和 誉(女子)
MF:田中 洋子(女子)
MF:沢田 武(男子)
FW:本田 翼(男子)
FW:若島 賢(男子)
FW:比嘉 虎次郎(男子)
FW:新田 隼(男子)
日本は抽選の結果、グループ2に入ることになった。
グループ2には、ユーゴスラビア・ブラジル・ボリビアがいる。いずれも強豪で優勝候補だ。
初戦 対ブラジル
「おいおい、日本はスタメンに4人も女が入ってるぞ。やる気あるのか?」
「日本の男は、いっつも“芸者”を侍らさないとだめみたいだな」
ブラジル選手は日本チームを見て嘲笑の笑みを浮かべる。
当時、一部の国(イングランドなど)では女子との試合を禁止していたが、当時のFIFAでは、特に禁止する規約はなかった。女子サッカー自体は、1895年にイングランドでの地域代表試合の記録があるなど歴史は古い。また、欧州大戦で男性が戦場に駆り出されると、女子サッカーは欧州各地で盛んに行われるようになる。
しかし、いくら女子サッカーが市民権を得てきたとは言え、男女混成チームがナショナル代表チームに対抗できるなど、誰も思わない。
コイントスによって、ブラジルボールからのスタートだ。
ピーーーー!
キックオフのホイッスルが鳴る。
キックオフと同時に、ボールを持ったブラジルFWはそのままドリブルで前進する。彼は、そのままドリブルで抜けていき、自分で最初の得点を挙げるつもりだった。
「パウロのやつ、自分で得点するつもりだな。まったく」
ブラジルチームのメンバーは、パウロのいつもながらの身勝手なプレーに呆れる。しかし、相手はサッカー後進国の日本だ。楽勝の相手なので、最初くらいパウロの好きにさせてやるかと思う。
パウロはドリブルで日本MFを躱す。日本のMFのほとんどが女子なので、接触プレーをして少し楽しもうかとも思ったが、まず自分で先制点を挙げることを優先した。
「ん?意外と速いな」
日本のMFは素早くポジションを取り、パウロのドリブルコースをうまく塞いだ。中央突破はさせてもらえそうにない。仕方なく、右サイドに逃げる。
「このまま右を突破してシュートだ!」
パウロがシュートコースを探すが、日本のDF4人中3人が右に移動してパウロを自由にさせない。シュートコースを見事に塞いでいた。そして、日本DFの斜め後ろには左の日本MFが入りDFを補強している。
日本チームが採用している4バックは、ボールと相手の位置に応じて4人の内3人がプレスをかけるというものだ。3人は、常に二等辺三角形になるように意識し、相手のシュートコースを塞ぐ。ディフェンスにおいて、常に数的有利を作るように動く。
「ちっ!くそっ!」
パウロはシュートを諦めパスコースを探す。
しかし、チームメイトには全てマークがついている。パスの出しどころが無い。
「そこだ!」
パウロは味方MFジョナスの動きをよく見ていた。ジョナスには、小柄な女子日本選手がマークに入っている。しかし、体格差は圧倒的だ。体を入れ替えてパスを受ける準備が出来ている。ジョナスの表情はそう語っていた。
ジョナスはうまく日本選手を躱してパスを受けた。そして、一度フェイントを入れてマークに付いている日本選手を躱す。ジョナスにとっては造作も無いプレーのはずだった。
「えっ?」
マークを躱してドリブルに移ろうとした瞬間、足下からボールが消えた。
彼に付いていたのは“深山アヤ”だ。彼女は、ジョナスのフェイントを完全に読んだ。彼の目の動き、重心の移動、そしてブラジルチームのポジション、それらの情報を瞬時に分析し最適解を出す。彼女の二つ名は“フィールドの魔女”だ。
深山がボールを奪った瞬間、いや、パウロがジョナスにパスを出した瞬間に、日本の両サイドは駆け上がった。そして他のMFも深山からパスを受けやすい位置に駆け出す。みな、深山がボールを奪うことに疑いを持っていなかったのだ。
期待通り深山はボールを奪った。そして、すぐさま中央のMF鮫島にパスを出す。鮫島はそのパスをワンタッチでオーバーラップして来たDF中杉に繋いだ。中杉はサイドをドリブルで駆け上がり、ブラジルゴールの右側を狙う。
「まずい!戻れ!」
ブラジルチームは全力で自陣に戻る。
第百○二話を読んで頂いてありがとうございます。
なんとかサッカー編に入ることができました。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!




