8玉め!:麺類天使、集まる
「ワンシャンハオー。ふたりとも、良いもの食べてるアルネー」
「あれ、ジァンじゃん。なにしに来たの?」
「その、どこで聞きかじってきたか分からない変なしゃべり方、相変わらずですね」
小結は、とりあえず醤をリビングに通した。
なんかもう、今さら追い返したところですでに面倒くさいのが二匹いるわけで、それなら一匹増えても変わんねーかな、と思っているようだ。
ちなみに正式な天使の数え方は一竿二竿である。嘘だ。自分で調べてほしい。
「先に言っとくがお前ら、もしケンカを始めたら全員ゲンコツだからな」
一応釘は刺しておく。
もうだいぶ夜更けなので、騒いだら近所から怒られてしまう。
「アイヤー。ケンカなんてそんな、ワタシ、そんなことしないアルヨー。ずるずる」
醤は、小結が食べるつもりだった銀ちゃんヌードルを勝手に食べながら、返事をした。
小結の額に青筋が浮かぶ。
「……おいテメェ」
「オニーサン、ここでオニーサンがラーメン食べたら、ワタシもオニーサンをラーメン派閥として認定することになるアルネ」
ずるずるとだん兵衛を食べていたさぬきとにはち子が、バッと顔を上げて小結を見てくる。
話が違うぞ、裏切るのか。と、言わんばかりの目であった。
「そうしたら、あのふたりとワタシがケンカになるアルヨー? ケンカ、しちゃダメだって言ったのはオニーサンのほうアルネ」
「…………そうだな。よぉく分かった」
小賢しいやつめ、と思いながら小結は、醤の頭を掴んだ。
「ただし、そういう時は一声かけるもんだ。次、ひとの飯を勝手に食ったらこの頭のお団子を引っこ抜くからな」
「アイヤー、肝に銘じておくネー」
醤はニコニコ笑っている。本当に分かっているのか分からない笑い方だ。
小結は醤の頭から手を離すと、別のカップ麺を戸棚から取り出した。
「うどん、ソバ、ラーメンがダメなら……、これか」
小結が取り出したのはスパゲティ。スパの皇帝たらこ味である。
焼きそばでも良かったが、あいにく切らしている。
「スパ皇食べんのも久しぶりだ」
お湯を注いで一分待ち、湯切りしてかやくと混ぜ合わせる。
最後に刻みノリを振りかけたところで、リビングの窓ガラスを外から叩く音が聞こえた。
「あれ、また誰か来たの?」
「この気配は……」
さぬきとにはち子が顔を合わせた。
小結は、猛烈に嫌な予感がしながら、リビングのカーテンを勢いよく開けた。
「あ、開けて、開けてほしいでし。パスタの美味しそうな香りがするのでし……!」
小学校低学年ぐらいにしか見えない天使が、泣きそうな顔で窓を叩いていた。
◇
「お、美味しい、美味しいでし……! はふはふ、はむっ……!」
「ナポリータ、そんなに急いで食べるとノドに詰まりますよ」
ナポリータ、と呼ばれた天使は、プラスチックスプーンを逆手に握り込んでスパ皇を口いっぱいにほお張っていた。
一足先に食べ終わったにはち子が口元を拭いてやっているのを見ながら、小結はさぬきに聞いてみる。
「なぁ、このチビは」
「見てわかる通り、パスタ天使のナポリータだね。ボクはいつも『ナポリたん』って呼んでる」
「! ナポリたんを呼んだでしか!」
「ああ、こら、口のものを飲み込んでからにしてくださいよ」
好物を食べて少し元気になったナポリータが、 元気よくフォークを突き上げた。
「ナポリたん……ね」
小結はなんとも言えない表情をしている。この男は、一人称が自分の名前の女と自分の名前に「たん」とか付ける女のことが嫌いなのだ。見た目が小学校低学年でなければ脳天チョップをしていたかもしれない。
「ナポリたん、こっち来てからパスタ食べれてなくて、お腹ペコペコで倒れそうだったでし。兄ちゃん、ありがとうでし!」
スパ皇を食べきったナポリータが、ペコリと頭を下げた。
素直にお礼が言えるところは、小結の中では加点部分である。
「で、そっちのエセ中華とパスタチビは、どうしてまたこんな夜更けに俺の家に来たんだ?」
「パスタチビ!?」
「アイヤー、なんか変な意訳が聞こえた気がするけど、答えるヨ。ワタシは夜の散歩をしてたら、さぬきの気配を感じたからネ」
「な、ナポリたんもにはち子しゃんの気配を感じて来たでし」
小結は、お前らのせいじゃねーか、という視線をさぬきたちに向けた。
さぬきとにはち子は揃って目を逸らした。
「てゆーか、天使の気配ってなんなんだ?」
「人間の気配がふわふわー、なら、天使の気配はシュピピピーン! ネ」
「全然分かんねぇよ」
聞いた自分がバカだった、と小結は諦めた。
「……腹減った。握り飯でも作るか」
結局カップ麺を食べ損ねた小結は、冷蔵庫の冷飯をレンジでチンして握り飯を作って食べた。
その間に勝手に四人でスマシス(大混戦スマッシュシスターズ)を始めていた天使たちを、小結は徹夜でボコボコにしていったのであった。




