強化合宿(海の洞窟)
・・予想以上に苦戦した。
シオンは切り込もうとして足を滑らせて攻撃を外すし、ノーラも足を滑らせて地面を突いたりとかなりグタグタな状態になった。
足を滑らせなくても、踏み出した先で足をしっかりと踏みしめられないというのは厳しい。
ところどころ深い穴に海水が残っているところがあり、予想以上に体制を崩したりと敵の強さというよりは地形の悪さに苦戦した。
インプとウイスプがかなり素早いのも原因だろうが。
陸魚のような魔物(鑑定した所『レイギョ』という魔物らしいが)は身動きこそ遅いものの、口から吐く粘液混じりの水鉄砲がクセモノだった。
足場さえ悪くなければ避けるのはわけないが、当たってしまうとベトベトと張り付いて身動きを阻害するという嫌らしい攻撃。
直接打撃はほとんどしてこないためよほどのことがない限り死ぬことは無さそうだが、これは学園もなかなかうまい狙いをしているな。
本物の魔物相手とはいえ、足場さえ悪くなければすぐ退治できるような魔物をようやく退治し、魔物の残す魔石を拾い集めた。
魔石は魔物のランクによって大きさが変わる。正直この程度の相手だと100円玉を円形にしたよりやや小さい程度のものだ。
ぼんやりと発光しているため見つけやすいといえば見つけやすいが。
「一度戻るか。さすがにこれは効率が悪い。」
「・・!まだまだ戦えるぞ。それにまだ1戦目じゃないか」
ノーラがこちらに言ってくる。
「それはもちろん、これで探索を終わるつもりはないさ。・・足場が予想以上に悪い。せめて対策をしてこよう。」
「なにか、あてがあるのですか?」
不思議そうにしているミラン。
そりゃ、もちろんあるさ。
藻に隠れてわかりにくい部分もあるが、明らかに岩に付いているギザギザの傷。
スパイクのように足場を固めれる装備が有るのは確実だ。考えてみればそういうアイテムが無いわけないんだよな。登山などでも使うんだし。
・・来る前に気がつければ無駄を省けたな。
早速戻って、お婆さんに要求する。
「・・なんの事じゃ?」
「岩に付いている傷の多さから言って、そういったアイテムがここにないとは言わせませんよ。それでも知らないとでも?」
「・・今まで色々な一期生をみてきたが、初日から・・しかも1時間もせずに要求してくるパーティは初めてじゃ。」
そうは言うが、別にうちのパーティが特別に優れているわけではないだろう。
探索者がいれば早々に気がついても不思議はない。
初めての本物の迷宮ということでうちのパーティも舞い上がっていた部分はあるし、今までのパーティも同様だろう。
思っていた以上に苦戦したため、我に返れたのが早かっただけ。
足場にいつも以上に注意していたから気付けた、というのもあるが。
今の靴に取り付けれるスパイクのような金具がついた装備を借り、再アタックに行く。
予想はしていたが、色々な靴に合うように複数の種類がおいてあった。
最初からこれの説明をしないあたり、よくもまあ考えているというべきか、いやらしいというべきか。
足場さえしっかりと確保できるようになれば、道中に出てくる魔物は苦戦する相手ではなかった。
たまに滑ることはあるものの、無い時のように体勢を崩すまでは至らない。
昼休憩を途中の部屋でとって、ボスの扉の前までは問題なく着いた。
扉の前にカードをかざすと、扉の封印に反応して到着が記録されるようになっている。
まだ時間的には余裕があったが、初日ということもあったし、潮の満ち引きの時間を計るのが未だ慣れないため、一旦引き上げることにして来た道を戻る。
踏破済みということもあってマップ通りに進めば迷うことなく、無事に出口までは戻れた。
本物の迷宮では魔素によりある程度自動的に再度同じような魔物が生成される(仕組みはよくわからないのだが・・)のだが、一度倒したところはまだ復活はしていないようだった。
必ずしも同じ魔物が生成されるわけでもなく、魔素の総数(?)とでも言うべきものがあって、その枠内で生成されているらしい、というところまでは特定されているとのこと。
わからないことが多すぎだろう、とは思うが、迷宮については割と経験則で攻略されている部分が多いため、仕方ないのかもしれない。
マップがあるのは楽ではあるが、新しい発見もなくつまらない部分もあるな。
そんなことを考えながら戻り、魔石をすべて提出する。
個人でも売れなくはないが、学生のうちは学校に提出し、ポイントに引き換えるのが普通だ。
魔石以外にもアイテムなどをドロップする場合もあるが、今日の探索では魔石以外のドロップはなかった。
魔石のポイント交換比率は結構高めなようで、このまま合宿の残りの5日間を探索に使えれば昇級は間違いないだろう。
明日は迷宮ボスの扉ではなく、洞窟奥に生えており、回収するとこちらもポイントに変えてくれる海藻を回収しに行くことにし、今日の打ち合わせは終了となった。




