閑話 ノーラ視点
こういう話も必要かなぁ、と。
「遅くなったかしら。」
「いえ、私も今ついたところよ。」
リーゼが微笑みながら迎えてくれる。
「こちらはせっかくココに来るなら食事したいとルカが言い張ってな、朝からつき合わされてるよ。」
シオンが疲れたように言う。
ルカは満足そうに座っている。また結構食べたのかしら?
アレだけ食べてあの体型が変わらないと言うのに同じ女性として嫉妬してしまう。
「呼び付けて悪かったわね。」
まずは謝る。どう切り出そうかしら?
「彼は?」
リーゼが気にする。
「ミランを付けてる。今日の昼の段階でここに来ることはないわ。」
「何の話なんだ?競技祭の話か?手伝える事があるなら手伝うが。」
そうね。競技祭の話もあったわね。
競技祭のパーティ対抗戦で一位を取れば『学年選抜』として1期生のうちから外の迷宮に入れるようになる。
早い段階から迷宮に入れるというのは大きなメリットだし、このパーティが実戦でどこまでやれるか試せるというのは大きい。
ただまあ、『それだけ』だといってしまえばそれだけだ。
正直あのボンボンにこれ以上好き勝手されるのは流石に腹に据えかねているところはあるので、手は打つが、うまく行かなければシオンを説得して負けるのはありだ。
『彼』の特異性をあまり多くの人に知らしめたくはない。・・見てほしいという相反した気持ちもあるんだけどね。
うまくいえないけど。
「・・手は打っているわ。むしろそれよりも『彼』のことを知りたいのだけど?・・いったい何者なの?」
「それについてはこちらのほうが知りたいな。・・騎士爵程度では調べれることに限界もある。」
まあ、知り合ったのはあちらのほうが早いのだから当然調査はしてるでしょうね。
優秀な冒険者であれば誰しも引き込みたいのは当然だし。
「それでも、よ。」
「・・シオン。」
「ルカ・・分かった。都市『ゼイラト』出身で両親は不明。孤児院育ちで図書館の手伝いをしていた。学校で推薦状を貰っている。ここでの適正判断では『魔法使い』。」
不承不承、と言う感じで伝えてくる。
「そう・・。こちらと変わらないのね。」
適性判断はあくまで向き不向きだから、適正とは違う職業についても問題はない。
・・問題はないが、普通適正からわざわざ外れた職業には就かない。
「それ以上にそちらが知っていることは?」
「特別に手先が器用だったわけでも、足が早かったわけでもないみたいよ。・・人並みと言う程度で。孤児院についても調べてみたが、冒険者を出したことは何度もあるけど、大きく活躍した人はそういない。」
隠すつもりはない。特に重要な情報と言うわけでもないし。
シオンが考え込む。
「彼が何者かはそんなに重要じゃないでしょ?」
リーゼが割り込む。
「重要なのは、彼ほどの人物が今のところ誰からもチェックされていない、ということでしょ。ここにいる人はともかく。」
「まあ、そう・・かな。」
「・・隠すの?」
ルカが訊ねてくる。
「出来ればそうしたいところか?」
出来るか?そう思いながら返す。
「無理でしょ」「無理だな」
シオンとリーゼから即答される。
「・・私ね、この前同室の僧侶の娘から相談されたの。『敵と接触した時に、よく攻撃されてしまうけど、どうしてる?』ってね。」
「・・ありえない。」
そんな状況を許すという事がまずありえない。
「ね、困るでしょ?しかも同室の他の娘も『よくあって困る』とか話してるのよ?・・話をあわせるの大変だったわよ。」
「私もそうだ。『倒す敵の優先度がうまく意思疎通出来ない』だ、そうだ。正直、何を言ってるんだとおもったな。うちのパーティのようにあらかじめ想定される状況を打ち合わせているようなパーティというのは、かなりの少数派らしい。」
「前衛が一人倒れると、もうそこでパーティ崩壊の危機とか・・ね?」
シオンとリーゼが苦笑しあう。
「・・隠せない?」
「ああ、無理だな。多分私達の誰かがぼろを出すさ。発想や着眼点が違いすぎる。2期生や3期生なら違うのかもしれないが、1期生のうちからたどり着く考えではないのだろう。」
・・彼の特異性については十分理解していたつもりだったのだが、な。
「シオンがそういうなら、それは間違いないだろう。」
大きくため息をつく。
「あらかじめ聞くまでも無いと思うのだが、『彼』をあきらめる人はいない前提で良いのだよな?」
周りを見回しながら確認を取る。
かなり遠回りしてきたがようやく本題に入れた。
「ならば、せめて学生の内に迫るのは禁止としないか?・・特に色仕掛け禁止。」
彼を手に入れるためならそのぐらいする人もいるだろう。
なんといっても、優秀な冒険者を引き入れるためにあの手この手が使われる時代だ。
学生時点で突出しすぎている才能なのだ。仮にここが頂点だとしても騎士爵程度であれば十分に狙える。
騎士爵程度と思うかもしれないが、評価の低くなりやすい『探索者で』騎士爵と言うのは相当に凄いことだ。
冒険で希少なアイテム等を見つけれれば『永続爵』も夢ではない。
さすがにウチのパーティ内でそういったことをする人はいないとおもうが、釘を刺しておくに越したことはない。
地位や金といったものにはあまり興味はないようだし、とりあえずそれが防げれば当面は問題ないだろう。
実際にこういった事でトラブルになるのは勘弁してほしいしな。
「うちのパーティ内はそれでも良いかもしれないけど、他の人への対抗にはならないんじゃない?」
リーゼが言ってくる。
「そこは考えているよ。『本申請』で良いんじゃないか」
本来、2期生や3期生になってから出す『パーティ本申請書』。パーティメンバーをこれ以上変えるつもりはありません、という宣言に近い。
誰か一人の単位が足りないだけでパーティ全体が進級できなくなったりと何かとデメリットが多いため、あまり使われない。
最後まで申請しないパーティもあるくらいだ。
「・・考えたわね。とりあえず他のパーティからの引き抜きは防げるわけね。」
「そういうことだな。・・まあ、禁止しておいてなんだが、彼は『そういう』つもりはあるのか?」
正直、まったくそういう視線を感じない。
そういう風に見ないというのは同じ仲間として好感度高いが、まったくそういう対象として見られないというのには女としてやや不満もある。
まるで女性としての魅力がないと言われているようなものだし。
「・・意図的。」
ルカが呟く。
「意識してそう見てない、と言うことらしい。」
シオンが説明を入れてくれる。
「つまり意識させることは出来るということだな?」
「あらあら、早速抜け駆けするつもり?・・フェアに行きましょうよ。」
「手ごわい敵になりそうだがな」
「・・全員貰ってもらえば?」
「「「ルカ!!」」」




