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あの日の夏はまだ終わらない  作者: きさらぎ
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第45話 避けたはずなのに1

 小アリーナと表示してある体育館の扉を開けた。


 中ではバドミントンコートが一つだけ張ってあり、数名の若い男女がいた。

 よく見ると見慣れた顔だ。


「藤と佐々?」


 それから、一人の女の子に目がいく。


「緋色ちゃんだ」


 裕幸は緋色の姿を見つけると、後先考えず駆け寄ろうかとした時、龍生に肩をつかまれた。


「なんだよ。じゃまするなよ」


 止められて裕幸は口をとがらせる。


「上。上」


 龍生は二階の観客席を指さす。裕幸はその方向を見上げる。


 (うあっ!)


 いた。翔と晃希だ。

 しばらく見ていたが何を思ったのか、裕幸が体育館を出ていく。


「練習は?」


「するよ。その前にあいさつしてこようと思って」


 観客席には中からは入れない。すたすたと階段を上がっていく裕幸の後を龍生はしかたなしについて行く。


(わざわざトラブル作りにいかなくてもいいのに。あれだけ敵意をむき出しにされているのに、懲りないやつ)


 観客席は彼ら二人だけだった。緋色たちのコートの正面。一番動きが見えやすい所だ。

 一番前に翔がいた。その斜め後ろに晃希が座っている。


「晃希。来てたんだ」


「ああ」


 邪気のない顔で裕幸が声をかけると、晃希は困惑気味の表情で軽く手をあげた。

 翔に視線を移すと、いきなり睨まれた。あの日と変わらない敵意のある鋭い目つきだった。


「?」


 そこまで敵視される理由が、裕幸にはわからない。


(うあぁ! やっぱり……トラブル作りに来たんじゃん)


 龍生はしまったと思った。険悪ムードは今でも続いているらしい。こんなことなら強引にでも引き止めればよかった。


(できれば、帰りたい。あれ以上の修羅場はごめんだ)


「ストーカーかよ」


 翔が睨みつけた。しかしそれだけ言うと、ビデオの準備をはじめた。これ以上口も利きたくないというところだろう。

 晃希は何も言わない。われ関せずということなのか、薄っすらと笑って黙ったままだ。

 

(ストーカー! 何でそんなことを言われなきゃならないんだよ)


 裕幸は一方的な敵意に理不尽さを感じながら、手を握りしめた。言いたいことはあるのに、言葉が出てこない。くやしいぃ。


(だから、いわんこっちゃない)


 このままいても、事態が好転するわけでもない。時間の無駄だ。翔が沈黙している間にこの場から引き上げることが得策だ。


「練習しようか」


 龍生の言葉を合図に、下りて行こうとしたときだった。


「練習するなら、隣の大アリーナに行けよ」


 冷たく、言葉が投げつけられた。


「勝手だろ」


 翔の言葉にカッとなって、それだけ言うとダンダンと階段を下りていく。


「あれはちょっと、きつかったんじゃない?」


 裕幸たちの姿が見えなくなってから晃希が言った。

 翔は何も言わない。淡々と準備をしているだけだった。まだ、相当怒っている。


(あれで、ユッキーのやつ、すっかり悪者だよ。緋色も元気になったし、そろそろいいと思うんだけど)


 あの日の緋色を思い出す。


(あれだけ泣かれたら、無理か……翔にとっては緋色が一番だから、事情の有無は関係ないよな)

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