第27話 アピールポイント
どの部活も終わりみんなが帰る時間帯。辺りは暗くなってきている。
第一体育館前は人通りも多い。二階建てで、複数の運動部が活動していることもあり、いろんな運動部がここを通っていく。
だからすごく注目される。緋色たちとの待ち合わせはここだ。校門までは距離があるので、一緒に歩いているだけで目立つ。みんなが興味深げに見ていく。
緋色はもちろん気づかない。藤と楽しそうに話しながら自分たちの前を歩いている。里花も全然平気そうだ。
第一体育館前を指定したのは里花だ。
「前から、聞こうと思っていたんだけど」
佐々は隣にいる里花に話しかける。
「なに?」
「なんでわざわざ、人通りの多いところを待ち合わせにするわけ。せめて校門を出てからとか、裏門とか……」
恨みがましいような声になってしまう。学校を出さえすれば、あとは道が何通りかあるので、生徒がばらけるのだ。
「あら、不満?」
心外、とでも言いたげな表情だ。
「みんなの視線が突き刺さるんだよ。おかげでおれたち、毎日のように緋色との関係を聞かれるし」
本当は待ち合わせなんてどこでもいいし、気にはしないが。とにかく、うざい。それだけだ。おれたちも緋色の事は何も言わなかったから、一緒に帰るところを見られたあとは部内でもかなりしつこく聞かれた。友達だから友達としか言いようがないのだが……
ハハハ 里花が笑った。
「こうやって仲の良さをアピールしとけば、そのうち落ち着くわよ」
「目的はそれ?」
「当たり前でしょう? わたしだって目立ちたくないわよ。でもね、無理でしょ。こっちだってよく聞かれるのよ。うざいのはあんたたちと一緒よ」
佐々が吹き出した。眉間にしわが寄っている。本当に迷惑そうな顔だ。
中学では、おれたちのことは周知の事実だったから、興味はあっても、そうそう近づくやつはいなかったけど、高校生になると、なかなかそういう訳にはいかない。
藤と佐々は体育科で、進学科の彼女たちとはクラスも違えば校舎も違う。何度か教室に顔を見せてはいるが、中学と違い、いくら特別に仲が良くても、友達程度では男子達も簡単にあきらめてくれないのだ。
ほとんどがアイドルに対するような気持ちであったとしても、うるさいことには違いない。現にちょっかい出してくるやつもいる。
「ここは私立で、外部入学者も多いからね」
里花も困っているみたいだ。いろいろ考えているのだろう。
「あのさあ。ほら、ユッキーとの試合の時、緋色に何か言った?」
「ずいぶんと話が変わるわね」
佐々の唐突な質問に首をかしげる。
「ごめん。つい思い出したから」
話しは変わりすぎたが、聞いてみたいと思っていた。
「いったわよ。頑張れって」
「……」
それだけじゃないだろうと訴えるような胡乱な目つきの佐々をしばらく見つめ、しょうがないという感じで少し間をおいて里花が口を開いた。
「……それと、目立ち過ぎないようにって」
「やっぱり……」
プレイが変わったのはそのせいだったんだ。勝てないにしても、かなりいい感じだったから、もう少しいけそうな気がしたのだ。始めは気乗りしなかった試合だったが、予想以上の緋色のプレイに魅了された。しかし緋色も途中で里花の言葉を思い出したのだろう。あとはトーンダウンしてしまったから。
「いい試合だったのに。もったいなかった」
(これだから……男子は単純よね)
里花はため息をついた。
「わたしだって、思い切りやらせてあげたかったわよ。これが男子同士だったら……男子は実力主義だからね」
里花は、艶やかな黒髪を耳にかけながら、意味ありげな瞳で佐々を見た。
「何かあったのか?!」
意味深な表情に佐々の顔が曇る。
「三年生がね、あまりいい顔していなかったのよ。総体前だし、横やり入れてほしくなかったんじゃない? まあ、結果的には三年生のメンバーで出るみたいだから、よかったけどね。今一年生は、基礎練ばかりだから助かっているし。それに三年生は総体までだから」
(よく見ているよな。状況判断がすごい。おれたちもダブルスで全中優勝しているけど、トップレベルが集まっているから、そんなものもここでは普通だ。でも女子はそういう訳にはいかないんだろうな。あの時もかなり目立ったから、それ以上になるとどうだったんだろう? 実力を考えると強豪校の方が、思い切りできて、よかったんだろうけど)
佐々も考え込んでしまった。
(ちょっと脅かし過ぎたかな? 悩ませるつもりはなかったんだけど。話題をかえよ)
「男子のほうはどうなったのよ」
黙り込んでしまった佐々に話しかける。
佐々はハッとする。落ち込んでいる場合ではなかった。男子はランキング戦も終わり、今は総体に向けて練習中だ。
「三年生が五人で二年生が二人だね」
「二年生って?」
あえて聞く。
「阿部先輩と……ユッキー」
あまり言いたくない名前らしい。ちょっと間があった。
「ユッキーって、本当に強いのねぇ。普段の彼を見ていたら想像もつかないわ」
「おれも……うちの中で一番強いんだからな。信じられないよ。緋色にさえ、ちょっかいを出さなければね。別にいいんだけどね」
里花もそれには賛成する。
会うたびに緋色に話しかけられて、うんざりしている。緋色も少々困惑気味に相手をするが、あんまりの時には里花が適当にあしらっている。
迷惑なのはわかりそうなものなのに、それでもめげずに話しかけてくるから対処に困る。中学にはいなかったタイプで、とにかくとなりで見ていてイライラする。
「ランキング戦、なぜ出なかったの? もしかしたらレギュラー取れたかもよ。挑戦してみてもよかったのに」
「体力がね。そういわなかったっけ?」
「……そうだったわね」
里花はそれ以上何も言わなかった。
二人は緋色を見つめた。藤がよほど面白い話をしているのだろう。時折、声を立てて笑っていた。




