第25話 コーチとして
放課後、練習の前に香織と優太は監督に呼ばれていた。
部活顧問室の前に来た時、ちょうど中からドアが開いた。出てきたのは女子バドミントン部の三年生、主将と副主将だった。
お互い目が合うと、三年生が先にあいさつをした。
「失礼します。コーチ」
それだけ言うと廊下を歩いていく。その後ろ姿を見送って部屋に入ると、監督の所に行った。二人とも揃っている。
香織は圭吾の机の上の総体の出場メンバー表に目を留めた。三年生の名前。これを提出にきたらしい。
「これが今年のメンバーなんですか?」
香織が不満げに圭吾に聞いた。
「そうだね。三年生は最後だからこれでいきたいそうだよ。ちょうど人数も揃ってるしね」
「そうですか」
香織はそれ以上何も言わなかった。女子部は三年生優先。それが慣例となっているからだ。自分の時もそうだったから意見ができるはずもない。
「水木、そんなにがっかりしなくても」
「そんなにがっかりしてました?」
南だけでなく圭吾と優太も頷く。思ったより表情に出ていたらしい。
香織はペロッと舌を出した。
「それで南監督とも話していたんだけれど、今回は三年生中心でいくけど、二年生に強い選手達が何人かいるし、一年生も入ってきたから来年は期待できるんじゃないかと思っているんだよ」
さっそく話を切り出した圭吾が明るくいった。
「だからお前達をコーチに呼んだんだ」
南がいう。
「えっ」
「桜木と高橋のことはうれしい誤算だが、それを引いても二年生は実力者がそろっている。練習も熱心だしな。しかし全国を狙うとなるとまだまだレベルアップが必要だ。だからサポートしてほしいと思って呼んだんだ」
「もしかして俺もですか?」
優太は話の流れから問いかけた。
「ああ。もちろん男子が中心だが、時には女子の相手をしてくれると助かるんだが」
もともとはそのつもりだったのかもしれないと思った。男子の実力は申し分ない。今のままでも十分だと思う。だからそれはそれでかまわない。
「いいですよ。どうせなら今からでも、女子部専任でいいですけど」
優太はにこにことした表情になった。
「なんか、調子いいわね」
香織が半眼でじろりと睨む。
「そう? 純粋なコーチ心だけれど」
悪びれる様子もなく優太は軽く肩をすくめた。どこか疑うように胡乱な目つきで優太を睨んでいたが、すぐにほっと体の力を抜いた。
「まっ。いいわ」
とにかくレベルアップするには、男子の力があった方がいいのはわかっている。『全国大会出場』これは香織にとっても悲願なのだ。選手達がそこに向かって頑張ってくれるのなら、応援したいし力にもなりたい。
「総体が終わってから、本格的にやっていきたいと思う。その頃には新しい主将も決まるだろうし。練習内容は君達とも選手達とも、話し合わなくてはいけないけどね。とにかくそれからだね」
圭吾もはりきっているようだ。彼も学生時代はバドミントンをやっていた経験者。
今まで女子の方には顧問はいたが、監督らしい者はいなかった。女子の場合は、すでに全国に名の知れた強豪校が二校あったせいか、強い選手はそちらに流れることが多かった。そのため、女子部の強化は二の次になっていた。
専任の監督もいなかったので、細やかな指導ができないというのが欠点だったが、今年からはそれが解消される。これからが本格的な始まりだ。
「じゃあ、そのつもりでいますので」
「ああ。よろしくたのむ」
一礼すると、二人は部屋を出ていった。




