ストレートな愛情表現
それはたぶん、本当だろう。
幽霊に対する先程のフェリスの、怒りのこもった目つきと発言には、単にハッタリでビビらせようとしているのではなく、『やると言ったら絶対にやる』という凄味があった。
「田舎からやって来た、大人しくて優しい『フェリス・ノーム』の正体は、頑固で短気な、問題だらけの爆弾みたいな女なのよ。幻滅した?」
まるで、私が以前、『悪役令嬢ミリアムの過去』を告白したときのように、『幻滅した?』と聞いてくるフェリス。
私はかつてのフェリスのように、彼女を抱きしめ、耳元で囁いた。
「全然。むしろ、天使みたいな女の子の、人間的な部分がわかって、ホッとしたわ。ふふっ、それに……」
「それに?」
「私も問題だらけの人間だから、きっとうまくやっていけるわ。ほらほら、割れ鍋に綴じ蓋って言うでしょ?」
「うん……」
フェリスは、私の胸に顔を埋め、柔らかな頬を擦りつけてくる。
その温もりは、こそばゆく、面映ゆく、それでいて、心地よい。
「だいたい、あなたが怒るのは、いつも私のためじゃない。……自分のために怒ってくれる人に、幻滅なんてするわけないでしょ」
「ふふ、実を言うと、ミリアムならそう言ってくれると思ってたわ。だから、これまで思ってたこと、全部吐き出しちゃったの。あー、なんだかスッキリしたわ」
「あら、そうなの。あなた、随分甘えん坊になったわね。今日の『犬のしっぽ亭』での働きぶりなんか、凄くしっかりしてたのに」
「私はもともと甘えん坊よ。9歳になるまではね。誰にも甘えられないから、しっかりするしかなかったの。……いえ、しっかりなんて、してなかったわね。この聖都フォーディンに来て、すぐミリアムに出会わなかったら、世間知らずの私は、今頃いったいどうなってたか、想像するだけで恐ろしいわ……」
言いながら、嫌な想像をしたのか、それを振り払うように、先程よりも強く、私の胸へスリスリと顔を擦りつけてくるフェリス。彼女の後頭部を静かに撫でながら、私は子守唄でも歌うように言う。
「まあ、『出会わなかった場合』の話はいいじゃない。こうして、出会えたんだから……」
「うん……大好きよ、ミリアム……ずっと私と、仲良くしてね……」
「抱きついて『大好き』って……あなた、グイグイ来るわね……ストレートな愛情表現は嬉しいけど、照れちゃうわ」
「何言ってるの、初対面で、『好き好き大好き』って言ってきたのは、ミリアムの方が先じゃない」
「あはは、そうだっけ?」
「そうよ……」
私の胸に、顔の半分を埋めるようにして、こちらを見上げてくるフェリス。その、どこか蕩けたような、熱い視線にちょっぴりドキッとし、気持ちをごまかすように、私は話題を変えた。
「そ、そういえば、話したいことって、いったい何だったの?」
「えっ?」
「いや、ほら、あなた、言ってたじゃない。確か『ちょっと話したいことがあるから、下宿先に寄ってかない?』ってさ」
「あっ、そうだったわね。ミリアム、カールトンさんと相席になって、何か話してたでしょう? その後、少しだけど落ち込んだ様子だったから、どうしたのかなって思って」
「カールトンさん?」
「ほら、あの体の大きなおじさん」
ああ。失礼ながら、ずっとならず者だと思っていた、鉱山で働いているおじさんのことね。あの人、カールトンさんっていうんだ。
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