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第03話 スキル構築

『All arranged values are now achieved!』


『Welcome to a tabletop labyrinth in Hermes Trismegistus!』


「ヘルメス・トリスメギストスの……卓上迷宮? 机上迷宮? 偉大な錬金術師の迷宮、か」


 ゲーマーゆえにその手の知識も多い雅臣が表示された文言に反応する。

 ひとり言の声には確かに緊張や恐れも含まれているが、それ以上に期待の要素が強く現れている。


 それらのメッセージが表示された後、謎の置物――『トリスメギストスの几上迷宮』はかなり強い光を発しながら明滅をはじめる。

 常は立体映像で『天空城』を映し出している位置に、雅臣には読めない、だが間違いなく何らかの文字、文章であろうモノが無数に表示され、流れてゆく。


「すごいな……」


 半ばわざと思考停止しているとはいえ、この「謎の置物」が尋常ならざるものであることを雅臣も当然理解している。

 VRグラスやARがかなりの普及を見せているとはいえ、これだけの『立体映像』を実現しているAV機器が未だ存在していないことはゲーマーでなくともすぐにわかるレベルだ。

 もしもそんなものがあるのであれば、雅臣はそれを入手するために全力を挙げて好成績を取ることに集中していることだろう。


 ()()()()送られてくるような代物ではない。


 どこかのゲームメーカーの新機種モニターでした、などというオチなんてありえない。

 そんな予想が自己欺瞞に過ぎないことを、自分がすでに非日常に片足を突っ込んでしまっていることを、今目の前で展開している状況で今一度強く認識する。


 実際はもう、首までどっぷりつかってしまっているのだが。


 たった一ヶ月で飛躍的に身体的ステータスが伸びることなどありえないし、多少洒落のめしたところで魅力が倍になることなどもっとありえない。

 雅臣自身が未だ実感できていないだけで、上昇した数値は現実に反映されていて、雅臣が思うよりもずっと数値「1」の影響は巨大なものなのだ。


 全ては謎の置物――『トリスメギストスの几上迷宮』に触れたからこその現象。


 雅臣がもっと日頃から運動に親しんでいれば、たった一ヶ月で毎朝10kmの距離をかなりのスピードで息が大きく乱れることなく走れるようになることがどれだけ異常か理解できただろう。


 だが今はそんなことよりも「何が起こるのか?」という興味と興奮が、それはそれなりに存在する不安や胡散臭さを遥かに凌駕している。


 だからこそたかが一ヶ月とはいえ、早朝ランニングや腕立腹筋はともかく、ファッションの勉強やフェイスケア、笑顔の練習などという普通ならバカバカしくなることを続けてこられたのだ。


 それらの行為が「謎の装置」の基部に触れるだけで数値として反映されている時点で異常と言えば異常といえる。


 そして今、本質的にはこの装置が届いてから潜在的には非日常化していたあらゆる事象が顕在化する。


『思考言語トレス完了。以後各種表示を「日本語」に固定(フィックス)


『各ステータスの基準値クリアを確認。当迷宮の挑戦者として「(やしろ) 雅臣(まさおみ)」を登録。死亡まで固定(フィックス)


 ――なんか今、物騒な文字が表示されたような……


 キ、キャラが死んだらデリートされて一からの育成になるタイプなのかな~、などと現実逃避をしてみるが、思わず生唾を飲み込むことを止められない雅臣である。


 ――ない。

 

 ――いくらなんでもそれはない。


 そうは思っているものの、目の前で展開されている常識外の光景を見るにつけ、恐怖と恐れ、それを上回る期待で雅臣の鼓動ははやくなってゆく。


 雅臣の趣味の軸はゲームだが、それゆえに漫画、アニメ、小説なども広く嗜んでいる。

 ゲーム好きだからこそ、こよなく愛する創作ジャンルがあることも確かだ。


 好成績を取るための参考書が並ぶ本棚の一角はその手の本が並んでいるし、PCのお気に入りにはその手のサイトが登録されている。


 VRグラスがここまで普及してもなお実現できていないゲーマーのある種究極の夢。

 実際にその場にいるような()()()()としての迷宮攻略ができるかもしれない、という期待は雅臣の中に確かにある。


 いやそれ以上、実際に『異世界迷宮』を攻略できるという――


『スキル構築を開始します』


 来た!


 来るんじゃないかと思っていた状況に興奮を隠し切れないものの、その後に表示された立体映像にさすがに絶句させられる。


 立体映像には半透明となった雅臣自身の姿が精密に描写され、ゆっくりと回転している。

 各種ステータス毎に選択可能なスキルが表示され、髪の色や瞳の色も選択可能となっている。


 どういう仕組みなのかはわからないが、空中に映し出された半透明、ただし見慣れたキーボードの形をしているもので入力するようだ。

 適当にキーの部分に触れてみると、薄く発行してきちんと反応する。


 表示されている選択可能なスキルは、各ステータスの数値に左右されるようだ。

 数値が未だ低いSTRやVITの下にツリーかされているスキルの数は少なく、INTやMNDのものは初期からかなり多い。


 ――各ステータス依存のスキルと見ていいかな?


 ゲーム慣れしている雅臣はそう当たりをつける。

 CHRにはスキルがぶら下がっていない事が、その予想がそう間違っていないことを証明しているようにも思う。


 ――だがここは慎重な判断が必要だ。


 ()()とは思いつつも、雅臣が予想、あるいは恐れ、それ以上に期待している事態を迎えるのであれば、ここでのスキル構築は文字通り生命線となる。


 常のゲームであれば雅臣は前衛職を好んで選択する。

 パーティー前提のゲームが多いこともあるし、最近はプレイヤースキルが介在するPRGも増えてきていることもある。

 そういう状況ではやはり物理的に敵を屠る職を好む程度には雅臣も男の子だ。


 だが先もなにやら物騒なメッセージが表示されていた。


 今目の前に表示されている立体映像の如く精密なアバターが生成され、装置内の迷宮を攻略していくことになるとしても「一度死んだら終わり」というルールの可能性が色濃く薫る。


 ――考えてみれば当然の話なんだよな。


 現実に迷宮が現れたとしたら、「死に覚える」などということは不可能だ。

 いや蘇生魔法などが存在するにしても、現実世界に当てはめて考えるのであればそれは神の御業に等しいものだし、可能としてもずっと後半、いわゆるレベルが上がった後だろう。


 最序盤から所持金の半分と引き換えになぜか生きかえらせてくれる仕組みがあるとも思えない。

 あるとしても、とても「試してみよう」などとは思えない。


 まさかアバターが死んだら本物もおっ死ぬなどということは無いだろう。

 だが未だ実現できていない、フルダイブ型VRゲームような世界で死んだ場合、現実の自分がどうなるかなどわかったものではない。


 目の前の「装置」が無ければ我ながら正気を疑う考えだが、そこまで想定しておくべきだと雅臣は思う。


 ゲームで好きなキャラを選ぶのではなく、過酷な世界で生き残ることを前提としたスキル構成を心掛けるべきなのだ。


 ――回復系のスキルは必須だな。


 現状表示されている『(やしろ) 雅臣(まさおみ)』のステータスは次の通り。


 Level 1

 HP 52/52 MP 88/88

 STR 36 DEX 45 VIT34 AGI 61 INT 88 MND 101 CHR 100

 取得スキル0 スキル取得ポイント100

 スキルセット 0/5

 ジョブ 空欄

 サポートジョブ 現状選択不可

 状況 通常


 なかなかに血沸き肉躍る表示ではある。


 基準をクリアするまでは赤字と黒字だったものが、今は黒字と青字になっている。

 青字はAGI INT MND 黒字はそれ以外のもの。


 レベル1にしてステータスごとの上昇上限値に到達しているのは三つだけで、それ以外はまだ伸び代があるということだ。

 それに関わる行動を重ねていけば、レベルキャップである青字までは到達する仕組みだろう。

 逆にレベルが上がったとしても、青字にする行動をとらなければ、レベルアップ時に基礎数値が上昇するだけ、もしくは上限があがるだけという可能性もある。


 まあゲーム世界であろうが、現実で明日からも早朝ランニング腕立腹筋を続けることであろうが、ステータスを上げるためにすることは雅臣にとって苦にならない。


 表示されている情報から判断すれば、とりあえずスキル取得ポイント分好きなスキルを取得でき、レベル1の現状では5つまでそれをセットできることが可能だということらしい。


 この辺はゲーム慣れしている雅臣であれば説明なしでもほぼ正確に把握可能。


 ゲームスタート時の条件としては悪くない。

 と言うより破格と言っていいだろう。


 そのせいで「一度でも死ねば終わり」という仮定が、逆により強く感じられる。


 その他髪の色や瞳の色なども変更可能なようだが、雅臣にそこを弄るつもりはない。

 せっかく自分そっくりのアバターを作れるというのにわざわざいじるのは無粋の極みだ。

 冴えない外見でも、強くなって強敵を苦も無く屠るというのがいいのである。


 まあパーティーメンバー(妄想するのは当然女性だ)の場合、丸一日かけて微妙な色合いを再現することを苦にしない自信はあるのだが。


 幸いにしてMNDのツリーに『治癒(ヒール)』と『解毒(キュア)』は存在する。

 この二つは鉄板として雅臣は選択した。


治癒(ヒール)』 必要ポイント15


解毒(キュア)』 必要ポイント15


 残りは三つ。ポイントはあと70。


 とりあえず攻撃手段、しかも武器に頼らなければならないモノは避けたいのでSTRツリーに在る『寸勁(ゼロ・ショット)』――必要ポイント20を選択し、魔法系でなければ攻撃が通らない敵を想定してINTツリーに在る『魔力付与(エンチャント)』――必要ポイント20を取得する。


 あと一つのセット欄と取得ポイント30は念のため未取得未設定で行くことにする。


 『警戒』や『隠形』などの役に立ちそうな補助スキルが鉄板なのだろうが、一度状況を把握してから選びたいし、そのスキルが無ければ対処不可能な状況がある可能性を考慮してそうした。


 序盤からそんな鬼仕様はないとは思うが、念には念を入れる。

 出来る限りの強化をして臨むという原則からは外れるが、不測の事態に対応可能な状況を常に維持する事の方が重要だと判断したのだ。


 選択したスキルは灰色反転し、選べなくなる。

 スキルのセットと解除は自由なようで、将来的にはスキルスロットが増えればいろんな組み合わせが試せるようになるのだろう。


 迷宮挑戦中は選択不可になる可能性も高いが、今はあまり問題ない。


 セットするスキルによってステータスにボーナスが付くことも確認できた。

 スキルの組み合わせでジョブ名も変化するようで、MND系スキルを二つ選んだせいか空欄だったジョブ欄には『治癒術士』と表示されている。


 ――スキルボーナスやジョブボーナスがどういったものが詳しく組み合わせを調べる必要があるな。


 雅臣がそう思ったと同時。


『スキル構築完了。第一層の攻略を開始。転移門(ゲート)を開きます』


 のメッセージとともに、雅臣のけっこう広い部屋に光が満ちる。

 

「……マジか」


 社 雅臣の日常が終わる。


 冒険(非日常)が始まる。


次話 トリスメギストスの几上迷宮

2/4投稿予定

次々話 よくあるボーイミーツガール、ただし迷宮にて

2/5投稿予定


すいません、今話が挟まってしまいました。

明日こそ冒険の始まりです。


一度はやってみたかった主人公ステータス報告


現状の社 雅臣

Level 1

 HP 52/52 MP 88/88

 STR 38(+2) DEX 45 VIT34 AGI 61 INT 91(+3) MND 108(+7) CHR 100

 取得スキル4 スキル取得ポイント30

 スキルセット 4/5

 『寸勁』『魔力付与』『治癒』『解毒』

 ジョブ 治癒術士

 サポートジョブ 現状選択不可

 状況 通常

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