第26話 覚悟
突然声を上げた雅臣に、凜子も花鹿も一瞬恐怖を忘れて目をぱちくりとさせている。
それはそうだ。
絶望や恐怖から諦観に至っても仕方がないような状況で、突然雅臣のような言動をされても理解できるはずもない。
とはいえ少なくとも、パニックや絶望に二人が陥ることをとどめた効果があったことは確かだ。
意思と視線で『ステータス画面』を操作することにもずいぶん慣れた雅臣が、『悪魔』にまるで攻撃を通すことのできない『シルバー・ファング』の装備を解除し、素手となる。
右の拳で地に這いつくばって汚れた己の頬をぐいと拭う。
浮かべる表情は絶望でも、恐怖でも、諦観でもない。
勝てぬ相手、避けえぬ死を前にしたとしても、そういう表情を浮かべて下を向く者ばかりとだと思うなよ、とばかりに不遜な表情を浮かべている。
勝つか負けるかは重要ではない。
どう勝ち、どう負けるかが重要なのだ。
そんな悟りきったような、死の美学みたいなものはクソくらえだ。
みっともなかろうが、他力本願であろうが、何としても目の前の『悪魔』をぶっ飛ばす。
ぶっ飛ばしてきっちり三人揃って現実へ帰還して見せる。
借り物の力が通用しなければ、社 雅臣がもつ、本来の力でこの状況を何とかするまでだ。
そんなものは当然虚勢でしかない。
力及ばず自分が死ぬことも、自分の責任で凜子や花鹿が死ぬことも、心の底から恐ろしい。
気を張っていなければ、めそめそと泣き出しそうなくらいの恐怖も雅臣の中にはしっかりと存在している。
一ヶ月ばかり早朝ランニングと筋トレ、笑顔の練習をしたからと言って、それでどうにかなる状況だと本気で思っているわけではない。
その恐怖を、これも確かに雅臣の中に存在する『怒り』で塗り潰す。
一方的に叩きつけられた『理不尽』に対して、絶望でも恐怖でも諦観でもなく、怒りをたたき返してやる。
そしてそれに協力すべき相手に、言いたいことも言っておく。
最終的にどうなるかはもう、知ったことではない。
雅臣は腹を括ったのだ。
次話 錬金術の存在意義
3/3投稿予定です。
申し訳ありません。
週末一気に完結まで投稿予定です。




