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第24話 快進撃

 第二階層のフロア6。

 この階層の最終フロアである。


 そこの道中を今、雅臣たちは快進撃を続けている。


 フロア1から5にかけて、フロア魔物(モンスター)、ボス共に目立った苦戦はしていない。

 死の恐怖を感じるような、慌てふためく状況に追い込まれたことは一度たりともなかった。


 強いて上げるとすれば虫系魔物(モンスター)で構成されていたフロア4で花鹿がほぼ使い物にならなくなったことと、ついさっきのフロア5のボスが『腐ったフレッシュゴーレム系』だったため、凜子が攻撃を防ぐたびキャーキャー言っていたくらい。


 確かに虫嫌いが巨大なカマドウマやカマキリに似た魔物(モンスター)に出てこられたら、どうしようもないだろうと雅臣も思う。

 雅臣とて凜子と花鹿の前で見栄を張る必要が無ければ、ムカデに似た魔物(モンスター)が出てきたときに声をあげていた可能性は否定できない。


 じょう(以下略 がいなくて、一同心の底からほっとしたものだ。


 とはいえそんな状況を雅臣が笑ってみていられるほど、第二階層における雅臣たちプレイヤー側と魔物(モンスター)迷宮(ダンジョン)側の彼我の戦力差は大きく、それはフロアを進める度に顕著となった。


 ちなみにフロア4のボスは巨大な蜘蛛であり、凜子の後ろから出てこなくなった花鹿の代わりに、雅臣単独でHPを削りきって決着をつけている。


 そんなことが可能な程度なのだ。

 

 雅臣の違和感、警戒に反して温いと言っていい難易度で『第二階層(天空城)』の攻略は進んでいると言っていい。

 たとえ生理的嫌悪感を持ってしまう魔物(モンスター)がいたとしても、それは見た目だけのことに過ぎない。戦えば間違いなく勝てる。少なくとも今のところはだが。


 ――城ゆえにフロアが6に区分されてはいるものの、魔物(モンスター)の強さは第二階層として固定みたいなものだな。


 フロアがわかれているため、各フロアでは特徴のある魔物(モンスター)で構成されていたが、獲得経験値や同時接敵(エンカウント)数に大きな変化はない。


 三人共に現在レベル7まで伸ばしているレベルだが、レベル8に上昇すればフロア6の魔物(モンスター)からの獲得経験値はおそらく「1」になるだろう。


 適切に戦闘と成長を重ねてゆけば、ボス戦前にはフロア魔物(モンスター)が『練習相手にも(以下略』になるのが今のところのバランスらしい。


 レベル上昇に伴い大きな伸びを見せるステータスと、フロアボスから得られる『一式防具(シリーズ)』系以外にも多彩な装備がドロップすることで、雅臣たちの戦力は大幅に強化されている。


 まだ言ってしまえば「たかが」第二階層とは思えない大盤振る舞い。

 出し惜しみというものが感じられない――あくまでもゲームとして考えた場合だが。


 中でもさっきのフロア5ボス撃破によって揃った『一式防具(シリーズ)』に身を包んだ凜子には、フロア魔物(モンスター)の一切の攻撃が通らなくなっているくらいである。


 フロア1。胴装備『白金礼装甲冑』。

 フロア2。両脚装備『白金礼装佩楯』。

 フロア3。足装備『白金礼装脛当』。

 フロア4。両手装備『白金礼装手甲』。

 フロア5。頭装備『白金礼装花冠』。


 それらは『一式防具(シリーズ)』というだけあり共通の意匠で揃えられている。

 磨き上げられた純白の地に、薄い金で蔦を意匠とした植物文様を控えめに配されたもの。


 その配色から乖離したように、胴装備と頭装備以外は厳ついと言っていいほどに無骨であり高い防御力を感じさせる。

 ただ両脚装備である『白金礼装佩楯』には佩楯の下から多段で広がる純白の生地が仕込まれており、まるでスカートのように足元を覆っている。


 胴装備は身体のラインにぴったりと重なったデザインとなっており、そのシンプルなデザインと光沢のある金属が、凜子のラインに沿って複雑な反射を放っている。

 頭装備はさすがに女性向け装備として『兜』というわけではないが、なぜか清楚な生花の花冠から薄いレースが広がっているものだ。


 防御力など皆無に見えるが、今雅臣が装備している割と厳つい鉢金よりもずっと防御力は上なのだが。


 ――枯れたら困るな……


 まあ枯れることは無いのだろう、不思議な力で。

 ここまで異常事態を容認しておいて、今更「これはおかしい!」もあったものではない。


 とにかく一言で言えば『純白のドレスアーマー』。

 これが今、凜子が身に着けている『一式防具(シリーズ)』である。


 ――最終装備と言われても納得できるデザインだよなあ……


「お姫様みたい。でも強そう」


 などとはしゃいでいた凜子や、ちょっとうらやましそうに見た後、胸の部分から目を逸らす花鹿などはピンと来ないだろうが、雅臣にしてみれば序盤に揃えられる装備とも思えない。


 この手の『派手で清楚』系装備は、気が遠くなるくらい滑車を回すか、MMOなどでは大規模組織に入って「貢献ポイント」などを溜めつつ自分が入手できる日を夢見るレベルの物なのだ。


 間違っても最序盤でぽんと入手可能な代物ではない。


 実効性能はともかく序盤でそんな豪奢なデザインを放出してしまえば、最終装備に求められるデザインの難度が跳ね上がってしまうからだ。

 最終装備が、序盤で手に入る装備よりも地味というのはあまりよろしくは無かろう。

 好き好きは人それぞれとはいえ、序盤装備には序盤装備の、最終装備には最終装備の、()()()というもはやはり必要なのだ。


 それに性能も段違いである。

 防御力は言うに及ばず、各装備にそれぞれスキルが付与されている。


 胴の『HP自動回復』、両脚の『MP自動回復』、頭の『再使用時間(リキャスト)短縮』は微々たる数値とはいえ破格の性能である。

 両手の『装備した盾の防御力25%上昇』も、盾役としては必須の性能だ。

 盾の性能如何によっては、ただ防御値が高いだけの両手装備を凌駕しかねない。


 それ以上に両足の『常時空中機動(エアリアル)展開』はラスボスドロップで、「この装備でどんな敵と戦うんだよ!」と言いたくなる装備についているクラスである。


 空中機動しまくる盾というのもどうなんだと思わなくもないが。


 その上『一式装備』することによって効果を発揮する『即死回避』は、個々に付いたスキルをパーティーメンバーで分割使用する利点すら霞む性能と言える。


 どれだけオーバーキルの攻撃を受けても、防御力やその時点でのHP量に関係なく『即死』はしない。

 極論、凜子に攻撃を集中させた状態で雅臣が『回復(ヒール)』を詠唱可能な回数、どんな攻撃でも受け続けられるということだ。


 そんな攻撃があるのかと思うとぞっとするが、盾役に必須のスキルであることは間違いない。

 敵が多段で致死攻撃をして来るのでもない限り、自動HP回復などで1でもHPが増えれば、凜子が倒れることは無いのだ。


 もっともそんなひやひやする戦い方を凜子にさせるつもりは雅臣には全くないが。


 ――違和感とか、僕の考え過ぎだったか?


 今目の前で、複数の魔物(モンスター)の攻撃をノーガードで無効化している凜子を見ているとそうも思える。


 『白金礼装シリーズ』以外にrare装備である『銀の剣(シルバー・ソード)』と『銀の盾(シルバー・シールド)』を装備する、金髪碧眼バージョンの凜子はまさにアーマードプリンセスといった風情だ。


 たかが第二階層のボスに後れを取るようにはとても見えない。


――純白に赤と金糸をあしらった巨大なマントが欲しい所だな……第二階層のボスがドロップしてくれないものかな。


 実効性能よりも、今の凜子の見た目を完成させる方向で背装備を希望する雅臣である。


「?」


 見惚れていた雅臣の視線に気づいた凜子が、首をこてんと傾けて「なあに?」というように笑顔を向けてくる。

 可愛いしあざといといってもいいのだろうが、魔物(モンスター)を屠りながらとなればなかなかに怖い光景でもある。


 照れと笑いを堪えるのを綯交ぜにしたような感情でそんな凜子から目を逸らすと、今度は隣で凜子の()()を一緒に眺めている花鹿の脚が雅臣の目に飛び込んでくる。


 花鹿も凜子の装備ほどではないが、なかなかに高性能な防具で身を包んでいる。

 防具のくせに攻撃力が高いのは、長くて美しい花鹿の脚を引き立てる艶めいたデザイン故だろう。


 ふくらはぎから膝、その上くらいまではラインを忠実に沿っているとはいえ金属製で、艶めかしいとはいえ防御力があることも納得できる。だが――

 

 ――なんで防具なのに、絶対領域があるんだよ!


 雅臣心の叫びである。


 ラインに沿って太ももなかばまで覆った金属部分はそこで凝った意匠の縁と共に途絶え、結構際どいラインで短いスカート部分との間にいわゆる『絶対領域』を発生させている。

 性能的に何の意味があるのかわからない、細いガーターベルトのようなものも意味不明だ。

 そもそも金属のような手触りと高度なのに、問題なく稼働する事こそ意味不明なのだが。

 何故雅臣が手触りを知っているのかは特に秘す。


 ――これ、不思議金属で出来た色っぽいストッキングだよな、もはや。


 そんな感じだ。


 そんなものが長く美しい脚に装備されていれば、男の視線はどうしたって引きつけられる。

 先の花鹿と同じく、「ん?」というような表情で雅臣を見る花鹿だが、間違いなく雅臣が何処を見ているか、二人ともキッチリ理解している。


 まあ恥ずかしい思いもして装備して見せているのだから、その目的に見られることに拒否感は無かろう。「見せてんのよ」ってなものだ。


 パーティー内に別の男性が居る事になれば、また事情は変わってくるのであろうが。


 そこは雅臣も男の子、妄想パーティーにわざわざ他の男を加えていることは無いのだが、この先パーティーが雅臣の妄想通りに構築されていくという保証もない。


 一人だけ何をアピールするわけでもない装備に身を包んでいる自分が、実は一番真っ当な気がしてくる雅臣である。


 女性陣は女性陣で、男の子の見るべきところ、というモノは存在するようだが。


 例えば汗の浮かんだうなじや、ステータスの影響によるものか、同世代の高校生ではそうそう存在しない引き絞られた二の腕アタリが凜子のストライクゾーンだが、雅臣はそんなことに気付かない。


 花鹿に至っては、腰回りからお尻あたりをぼーっと見ていることが多いのだが、今のところ雅臣には感づかれていない。


 凜子と花鹿は、お互い「ははーん」ってなものでお互いの急所を理解し合ってはいるのだが。

 冒険後にそのネタで話せば大概盛り上がることは間違いない。


 話し相手が居ない雅臣ではあるが、そういう話題を他の男と共有して語り合いたいかと問われれば、非常に困った顔をすることだろう。


 男にも女にも、独占欲というモノは厄介な代物であるのだ。


 ともかくあと数度戦闘を繰り返せば、レベルも8に上昇する。

 そうなれば後は第二階層のボスへ挑むだけである。


 ここまで快進撃と言っていい勢いで進んできた。

 これまでのバランスからみて、ここで急にボスだけ鬼難易度というのは考えにくい。


 もしも自分の「違和感」が杞憂でないにしても、それが表面化するのは攻略中盤以降かな? などと雅臣は少しだけ安心している。


 念のためレベルが8にあがれば各種スキルを再検証、ボス戦前に取得、セット。

 その実効性能確認も兼ねて、ある程度の時間まで第二階層の稀少(レア)魔物(モンスター)狩りを行い、ボス戦に挑戦する。


 それが今雅臣の考えている予定だ。


 朝一から第二階層の攻略を開始したため、迷宮(こっち)でかなり時間が経っているとはいえ現実(あっち)ではまだ午前中。


 現時点でボス戦前にまでたどり着けているということは、時間的余裕は充分だ。

 慎重な打ち合わせと、スキル慣れ。そのついでの稀少(レア)狩り程度は問題なくこなせる。


 アルは雅臣たちが『第二階層』をクリアすることに並々ならぬ期待をしてくれているようだし、クリアしたらさっさと報告するべきかと、まだクリアもしていないのに雅臣は考えている。


 それを油断とは言えまい。


 実際もはや第二階層の魔物(モンスター)は雅臣たちの前に脅威とはならず、レベルももう一つ上がることが確定している。

 この状況でボスにだけ必要以上に警戒しろという方が無理がある。


 当然今の雅臣たちが知る由もないが、実際『第二階層』のボスの戦闘力はそうたいしたものではない。

 フル装備の凜子はもとより、レベル8に到達した雅臣や花鹿のHPも大きく削ることはできない程度に過ぎない。


 雅臣の単独(ソロ)戦闘でも、安全に倒せる強さ。


 だが雅臣は失念している。


 ()()()『トリスメギストスの几上迷宮』がゲームベース――それも雅臣がそう予想したように、オフゲベースで構築されているということ。


 アルたち『超能力者』たちが、どうして雅臣たちが『トリスメギストスの几上迷宮』の第二階層クリアすることにそこまで執着するのかということ。


 

 歴代の『有資格者(Deserver)』たちは一度迷宮から帰還して人とは隔絶した力を手に入れた後。

 再び『トリスメギストスの几上迷宮』へ赴き、帰ってきたものはいないのだ。


 誰一人として。

  

 そして雅臣たちの『第二階層』クリアも、今はまだ確定していない。


次話 選べぬ選択肢

3/1投稿予定です。


二月中に着地点へ至れませんでした、申し訳ありません。

もうあと数話、お付き合いくだされば嬉しいです。

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