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【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!  作者: O.T.I
第五幕 転生歌姫ともう一人の転生者

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第五幕 4 『鉄の公爵令嬢』


「はぁ〜……レティ、またそんな格好で…お客様の前ですよ」


 リュシアンさんが天を仰いでため息をついてから、彼女を嗜める。

 この人が噂のレティシアさんか。

 確かに変わった人のようだ。


 もの凄く美少女なのに、全く似合っていない作業着(つなぎ)を着て、ところどころ、その可愛らしい顔にも黒い汚れがついている。


「へっ?お客様…?ああ!?ご、ごめんなさい…久しぶりに兄さんに会えると思ったら嬉しくてつい…」


「…全く、しょうがないですね。皆さん、お見苦しいところを見せて申し訳ありませんが、これが私の妹のレティシアです」


 会えて嬉しいってストレートに言われたものだから、言葉とは裏腹にすっかりご機嫌のご様子。

 どうも、この二人、シスコン、ブラコンであると見た。


「こ、こんな格好で申し訳ありません。私はリュシアンの妹で、レティシアと申します。いつも

兄がお世話になっております」


 羞恥で真っ赤になりながらも丁寧に挨拶してくれた。

 突然の登場に呆気にとられていたが、私達も挨拶を返す。

 父さんやカイトが挨拶してから私の番だ。


「はじめまして、私はカティアと申します。ダードレイ一座で歌姫をやっています。よろしくお願いします。あ、こっちは…『養子』のミーティアです」


「ミーティアです!ママの娘です!」


 私が挨拶してミーティアを紹介…ややこしくなるので養子と言う事に…すると、ミーティアも元気よく挨拶する。


「ふふ、ちゃんと挨拶できて良い子ね。…そうですか、あなたがカティアさんなんですね、こちらこそよろしくお願いします」


 ミーティアを撫でながら褒めたあと、そう返事をしてくれたが…

 レティシアさんにも私の事は伝わってるみたいだね。



「レティシアさん、お久しぶりですわ」


「あ、ルシェーラちゃん!久しぶり!学園楽しみだね」


 続いてレティシアが挨拶すると、私達に対するのとは違って、かなり砕けた様子で返事をする。

 これが素のレティシアさんみたいだ。

 ルシェーラは婚約者の妹とも仲良しのようで、他人事ながらちょっと安心した。


「はい、レティシアさんが一緒だと聞いて嬉しかったですわ」


「うんうん、私もルシェーラちゃんが一緒だって聞いたから学園に行く気になったんだよ。本当はね、商会もあるし、大事な事業もあるし、あまり乗り気じゃなかったんだ。だけど、お父様が人脈を得るためにも学園は行ったほうがいいと仰るから…」


「ふふ、学園はレティシアさんくらいになると退屈かもしれませんものね。そう言えばその格好、今も何かの作業をされていたみたいですが…」


「あ、そうなんだよ、私の夢の第一歩。それがもう少しで実現しそうなんだ。…そうだ、皆さん少し見ていきません?きっと驚くと思いますよ」


 確かに気になる。

 もしかしたらこの人は転生者かもしれない。

 その人が『夢』と言うほどのものが、一体何なのか?


「レティ、お客様たちは旅の疲れがあるんですよ。それはあとで…」


「あ、私凄い気になります!ごめんなさい、リュシアンさん、少しだけお時間頂けませんか?」


「え?ま、まあ、カティアさんがそう仰るなら…」


「カティア?何か気になるのか?」


「だって、『神童』って言われれる人が『夢』って言うほどのものだよ?カイトもそれが何なのか気にならない?」


「まあ、確かに…」


 と言う事で、レティシアさんに案内されて公爵邸にほど近いその場所へ向かうのだった。










「じゃ〜ん!これです!」


「うわ〜!ママ、すごい大きいよ!」


 それを見たミーティアは、目をキラキラさせて興奮する。


 …間違いない、やはり彼女は転生者だ。

 こんなものを創り上げるなんて…


 レティシアさんに連れられて向かった先で見せられたもの。

 私の目の前にあるのは、巨大な黒い鉄の塊。

 力強さを感じるそのフォルム。

 今も多くの人が整備を行っている。

 それは…


「これは…まさか、『蒸気機関車』?」


「えっ!?…カティアさん、いま何と?」


 あ、この世界で該当する単語が分からなかったので、思わず日本語で呟いていた。

 まあ、いっか。

 彼女が転生者なら、何とか話ができないかな、と思ってたし丁度よい。


『レティシアさん、これは蒸気機関車なんですか?』


『!!…いえ、機関車には違いないけど、蒸気で動くものではないですよ。私達は魔導力機関車と呼んでます』


 日本語で質問する私に、驚きながらも日本語で答えるレティシアさん。

 やはり、彼女は日本人の転生者で間違いないようだ。

 その事実にじわじわと嬉しさが込み上げてくる。

 カティアの魂は一つになり、完全にこの世界の住人となった認識ではあるが…やっぱり【俺】の記憶もあるのだから、同郷?の人に会えたのは素直に嬉しい事だ。



「カ、カティアさん?レティシアさん?いま何を話したのですか?」


 あ、いけない…

 つい気が急いて周りが見えてなかったよ…

 ここは誤魔化さないと。


「レティ?」


「あ、ああ、ごめんなさい、ついつい専門用語を多用しちゃったね…それにしてもカティアさんは凄いですね、ひと目でこれが何かを見抜くのですから。確か、今日はうちに泊まっていかれるんですよね?是非詳しい話をしたいから、あとで私の部屋でお話ししましょう!」


「は、はい、是非!」


 少々強引だが、専門用語で会話したことにしたようだ。

 いまいち納得しきれていないようだったが、まあカティアだしな、みたいな雰囲気だった。

 これも普段の行いの賜物だね。

 …いや、ちょっと複雑。




「それで…結局こいつぁ何なんだ?」


「これはね、機関車…つまり乗り物なんだって」


 父さんの問いに私が答える。


「これが…ですの?でも、大きい割に人が乗るところがあまり無いみたいですわ…」


「ああ、これは純粋な動力車であって、人が乗るのは…この機関車の後ろに幾つもの客車を連結するんだよ。幾つもの車両が列をなして走るから『列車』って言うんだ」


 ルシェーラの疑問にはレティシアさんが答える。


 私は鉄道のことは詳しくないけど、一昔前はこうした機関車と客車の組み合わせが一般的だったのは知っている。


「この二本のレールの上を走るんだけど、これは鉄で出来ているの。だから、『鉄道』ね。いま実験を重ねてるところなんだけど、大体駅馬車の10倍くらいのスピードになる予定だよ」


 駅馬車だと時速数キロ〜10キロくらいかな?

 日本の在来線で時速100キロ前後くらいだったと思うから、それと同じくらいを目指すなら大体10倍くらいにはなるね。


「10倍!?」


「そう。実験線での計測ではそのくらいは出せるね。実用化もほぼ目処がついて、実験がこのまま順調にいけば、イスパルナ〜アクサレナ間の建設ももうすぐ始められると思う。完成すれば…そうだね、半日とかからずに走破できるかな?」


「はあ〜、鉄道と言うのは凄いのですね…」


「この鉄道に因んで、最近ではレティのことを『鉄の公爵令嬢』なんて呼ぶ人もいます」


 …見た目とのギャップが激しすぎるね。




「そうだ、皆さんイスパルナを出発するのはいつなんですか?」


「ああ、カティアが神殿に用があるらしいからな、明後日の予定だ」


 レティシアさんの質問に父さんが答える。

 そう、今日はもう無理なので、明日にはディザール神殿に行きたいところだ。

 だけど、別に全員に待っていてもらう必要はないかな?


「父さん、あとから追いかけるから先に行ってもらっても良いよ?」


「そうですよ、俺達のために皆待たせるわけには…」


「…二人きりになれますものね(ボソッ)」


「「!?」」


「あ〜、すまねぇな、気が利かなくてよ」


「いやいやいや、何いってるのさ!他意は無いよ!?そ、それにミーティアもいるし!」


「あら?二人きりにはなりたくないんですの?」


「そ、それとこれとは、べ、別だよ…?」


 なりたいけども!




「あ、それだったら、これに乗っていけば良いんじゃないですか?」


「え?これ?列車のことですか?」


「そう、実験中といってももう殆ど実用レベルに達して安全性も担保できてますし、実験線も開業に向けて少しづつ延長して…いまはトゥージスの街まで繋がってますから」


「あぁ、次の宿泊予定地だな」


「午後に出発しても十分日が落ちる前までに到着しますよ」


 それならこの街で用事を済ませてから出発しても日程変更せずに済みそうだね。


「でも、よろしいのですか?」


「ええ、こちらとしても乗客を載せたときの挙動をモニタ出来ると有り難いですし、感想も頂ければ」


「しかし、うちのメンバーは結構大人数だぞ?全員乗れるのか?」


「着席定員80名の客車を5両連結して合計400名、貨車も連結すれば荷馬車ごと運搬もできますよ?」


「…十分過ぎるな」


 多いと言っても50人くらいだからね。

 前世と同じ感覚ならば余裕でしょう。


「これに乗れるの?」


 と、ミーティアが期待の眼差しで聞いてくる。


「うん、乗せてくれるって。お礼を言わないとね。レティシアさん、ありがとうございます」


「お姉ちゃん、ありがとう!」


「ふふ、どういたしまして」




 と言う事で、出発は明日の午後、一座のみんなを列車に乗せてもらうことになった。


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