ダブルデート
学園祭初日の午後。
カティアとレティシアはメイド喫茶の当番を交代し、約束通りカイトと合流した。
待ち合わせ場所は学園正門にほど近い、今年の学園祭のシンボルとなっているモニュメントの前。
彼女たちと同じように待ち合わせする人々が多く見られる。
そして、更にもう一人の人物がやって来た。
「あ、リディー!!こっちだよ!」
人混みの中にのリディーの姿を見つけたレティシアが声を掛けると、彼は波をかき分けるようにして三人に近付いてきた。
「ふぅ……レティ、直ぐに会えて良かったよ。凄い人出だな。カティア様とテオ……カイト様も、お待たせしました」
「こんにちはリディーさん。私達も今さっき来たばかりです(リディーさん、何か前よりも柔らかい雰囲気になった気がする)」
穏やかな笑みを浮かべるリディーを見て、カティアは挨拶を返しながら内心でそう思った。
(レティに告白できたから、余裕が生まれたのかな?)
長らくレティシアに対する想いを内に秘めたままだったリディーであったが……
先ごろ、レティシアの長年の夢である鉄道開業がようやく果たされ事を機に、彼はついに彼女に告白をした。
レティシアも、自分が既に女性の意識を持っていることを自覚し、彼の告白を受け入れた。
そして二人は正式な婚約者同士となるのだった。
「それじゃあどこから見て回ろうか。カイトはうちのクラス以外にどこか行った?」
「いや、何となくうろついて雰囲気を味わってたくらいだ。せっかくの機会なんだから、どこか入るならカティアと一緒に……と思ってな。カティアが見たいもので良いぞ」
なお、彼と一緒に1年1組に来ていた他の面々は……ダードレイは食べ歩きに、ティダ一家はリィナが興味を持った出し物を中心に回っているらしい。
「そっか、ありがとね。レティは何か見たいものはある?」
「う〜ん、そうだねぇ……取り敢えずメリエルちゃんのとこはメチャ気になる。凄い人気みたいだったから、かなり並ぶかもしれないけど」
カティアに聞かれたレティシアは、少し考える素振りを見せてからそう答えた。
メリエルのクラス、1年2組の出し物と言えば『モンスター・メイズ』だ。
以前聞いた話によれば、神代魔法[縮界]によって擬似的に空間を広げて……などという大掛かりなアトラクションらしい。
大規模な魔法を使うということで許可が下りるかどうかは微妙なところだったが、無事に通ったようだ。
というか、最初は却下されそうだったところ、魔法オタクのリーゼが猛プッシュした……という経緯がある。
「確かに凄く気になるよね、そこは。出掛けにチラッと見たけど、ウチよりも長い行列が出来てたよ。結構並ぶと思うけど……」
「私はもう予定ないから大丈夫だけど、カティアはこのあとがあるでしょ?大丈夫?」
「ん〜……まあ、まだ結構時間があるから大丈夫だと思うよ。むしろ明日の方が予定は埋まってるから、今日しか見れないかも」
「そか。じゃあそこで……あ、リディーもそれで良いよね?」
「ああ。神代魔法が使われてると言うのは興味深い」
リーゼ程ではないが、彼もアスティカントで魔法学を研究していた身として興味は尽きないのだろう。
そうして4人は、道中の雰囲気を楽しみつつ1年2組の教室を目指すのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
カティアたちが1年2組の教室に向かう道すがら、誰かが声をかけてきた。
「姫さんたち……もしかして2組に行くところか?」
「あ、フリード?ステラも……って、どうしたの?二人とも何だか凄く疲れてるみたいだけど……」
声に振り向いたカティアだったが、二人の様子に目を丸くして言う。
彼女の言葉通り、二人ともかなり疲れた様子を見せていた。
特にステラは呼吸が乱れ顔を紅潮させて……何だか妙に色っぽく見える。
それを見たカティアは、ジト目になって……
「フリード……あんた、まさかステラをどっかに連れ込んで……」
と、問い詰めようとした。
しかしフリードは慌ててそれを否定する。
「おいおいおい、そんなわけねーだろ。俺もステラさんも、さっきまで全力疾走してたからだよ」
「ちょっとカティア!?変なこと言わないでよ!?」
ステラも、カティアが言わんとしたことを察して、恥ずかしさで更に顔を真っ赤にして否定した。
「全力疾走……?」
「ああ。『モンスター・メイズ』……ありゃあ、ヤバいぜ……」
「メリエルが張り切り過ぎなのよ……。カティアたちはこれから行くんでしょう?……気を付けてね」
そうして二人は、どこかで休憩すると言って立ち去って行った。
残された4人は顔を見合わせ……
「……そんなにヤバいの?」
「メリエルちゃんの本気かぁ……ちょっと怖いね……」
本人自身のもともとの才能に加え、短期間ながら神々から直々に魔法の知識を教わった彼女は、史上稀に見る魔導師となっている。
そんな彼女が本気を出したというアトラクションに……カティアとレティシアは目眩すら感じ始めていた。
「……やめておくか?」
「まあ、学園祭の催しである以上は安全だとは思いますが……」
彼女たちが戦慄する様子に、カイトとリディーはそう言うが。
「……いえ、行ってみましょう。やっぱり気になるし」
「まあリディーの言う通り、本当に危険だったら許可が下りるわけないもんね。……さっきの二人の様子は引っかかるけど」
そうして一行は一抹の不安を感じながらも……当初の予定通り1年2組の教室に向かうのだった。
果たしてそこで待ち受けるのは……!?




