学園祭に向けて
「ねえねえ、1組は何するの?」
学園の休み時間、1年1組にて。
カティアたちに、隣の教室からやって来たメリエルを加えたいつものメンバーでお喋りに興じている時のこと。
学園祭の話題になると、メリエルがそんな質問をする。
「ウチはね〜『メイド・執事喫茶』になったよ〜」
「他と被らなければね」
レティシアが答えて、それをカティアが補足した。
先ごろクラス内の話し合いで決まった内容については所定の用紙にまとめ、級長が生徒会に提出しに行っているところだ。
「メリエルさんのところは何をするんですの?」
今度はルシェーラが聞き返す。
「へへ〜……ウチはね『モンスター・メイズ』だよ!」
メリエルは『良く聞いてくれました!』とばかりに、得意げに答えた。
しかし、それを聞いたカティアたちは疑問符を頭に浮かべる。
「なんなの、それ?魔物と戦うの?」
「メイズ……は迷路ってことよね?」
シフィルとステラが続けて質問する。
言葉の意味は分かるが、彼女たちはそれがどういう催し物なのかはピンとこなかった。
「えっとね……迷路ってのはそのとおりなんだけど、途中でモンスター(に扮したクラスメイト)が脅かしたりして妨害してくるの」
((……お化け屋敷みたいなものかな))
メリエルの説明を聞いて、カティアとレティシアは前世の遊園地にあったようなアトラクションを思い浮かべた。
「ふ〜ん……でも迷路って言ってもさ、たかだか教室くらいの広さだとすぐにクリアできちゃうんじゃない?」
「教室に空間魔法の[縮界]を使うよ」
「……神代魔法じゃん」
邪神との決戦前、神界で空間神シャハルと魔法神シェラフィーナから教わった魔法である。
メリエルがその時に習得した魔法の多くは、シェラフィーナの加護がなくなってしまったことから使えなくなってしまったが、いくつかの魔法はまだ使える。
その一つ[縮界]は、その空間に入ったものを縮小する魔法である。
(……ようするに、ガ◯バートンネルだよね)
(メリエルちゃんはドラ◯もんだったのか……)
カティアとレティシアは、前世の某国民的漫画を思い出しながら囁やき合った。
「でも、教室でそんな大魔法を使って大丈夫ですの?」
「ん〜……別に危険な魔法じゃないから大丈夫だと思うんだけど」
学園内での魔法の使用は、当然ながら制約がある。
攻撃魔法は全面的に使用禁止(授業中に野外演習場等で使用するのは例外)。
その他の魔法も場所によっては使用禁止だったり、許可が必要となる。
「面白そうだし、許可が出るといいね」
「ありがと〜!みんなも来てね!」
カティアの言葉に、嬉しそうにメリエルは応えた。
「他のクラスはどんなのがあるのか……楽しみね」
「クラスの出し物も楽しみだけど、クラブもね。特に文化系は力も入ってるだろうし」
「今年は合唱部の期待が特に大きいと思いますわ。何と言ってもカティアとアリシアさんがいらっしゃるから……」
ルシェーラがそう言うと、当のカティアに注目が集まった。
彼女はそれを受け、自信ありげな表情で応える。
「ふふふ……きっと驚くと思うよ。今年はね、演劇クラブと合同なんだ」
(演劇クラブと合唱クラブの合同……なるほどアレかな?)
「演劇と?どう言うこと?」
カティアの言葉にレティシアはピンと来た様子だったが、他のメンバーは疑問を浮かべている。
しかし。
「それは当日のお楽しみだね。みんな、見に来てね〜」
と、彼女はネタバレは避けてそう言うのに留めておいた。
当日まで秘密にしてサプライズ的に盛り上げるのも演出の一つ……とは、シクスティンの言葉であり、他の部員たちにも口止めされていたりする。
「……まあ、どっちにしてもカティアのところは抑えとかないとね。他の皆は?」
今度はシフィルが他のクラブの話題をふった。
「魔道具研は例年通りだって。研究成果の発表会」
とはレティシアの談。
彼女自身はあまりクラブ活動には顔を出せてないが、その分はしっかり準備を手伝うことにしていた。
「武術クラブも例年通り、演武や模擬戦の披露ですわね」
「えへへ〜……私、けっこう棒術が上達したんだよ!」
と言うのは、ルシェーラとメリエルだ。
カティア達は最初、メリエルが武術クラブに入った事にとても驚いたものだが……彼女たちの想像以上に頑張っているようである。
入学からここまでで、一番成長したのはメリエルじゃないだろうか?とカティアは内心で思ったりもしていた。
特に印を継承してからが著しい……と。
「私の化学クラブも、いつも通りの研究成果発表会ですって。私もいくつか発表するから、是非見に来てほしいわ」
ステラもかなりクラブ活動には熱心に取り組んでいる。
かつてのウィラー王国での戦いのあと、伝説の薬師であるメリアドールから様々な話を聞いたことで、薬品調合に関して多くの着想が得られたようだ。
「で、そういうシフィルのとこは……?」
「攻撃魔法研はね……なんと!魔法競技協会との協賛で、新種目のデモンストレーションをやることになってるのよ!」
カティアが最後に残ったシフィルに話題を振れば、彼女は得意げにそれを披露した。
だが……
「へぇ〜、新しい競技種目か〜。それも面白そうだね」
「……しまった。私もカティアみたいにサプライズにしておくべきだったわね……」
と、彼女は少し後悔した。
そんなふうに、彼女たちは学園祭の話題で盛り上がっていたが……学園中のそこかしこで同じような光景が見られ、校内はにわかに活気付きはじめていた。




