チャレンジ
カティアが学園祭の出し物について提案を行った、その数日後の放課後のこと。
カティアと、彼女が所属する合唱部の部員たち……だけでなく、演劇部の部員たちも学園大ホールへと集まっていた。
カティアが出し物について、演劇部代表のオーレリーに話をしたところ、彼女は大きな興味を示し……最終的に演劇部員たちの賛同も得てカティアの提案を快諾したのだ。
そう……今回の学園祭では、合唱部と演劇部の合同による演目が正式に企画されることになったのである。
そして、その場にいるのは学園生だけでなく、シクスティンとロゼッタの姿もあった。
カティアの協力依頼に応じ、『指導』を行うためにやってきたのだ。
もっとも、今日は初回ということで、顔見せ程度のようではあるが。
カティアが二人を紹介する。
「こちら、エーデルワイス歌劇団の劇作家のシクスティンさんです」
「よろしく」
カティアの紹介を受けて、軽く頭を下げながら簡単に挨拶をするシクスティン。
そして、カティアは続けてロゼッタを紹介しようとするが……
「それでこっちの人が……」
「お〜っほっほっほっ!!エーデルワイス歌劇団が誇る情熱の赤い薔薇!!大女優ロゼッタとはワタクシのことでしてよ!!」
カティアの言葉を遮って自分で名乗りを上げるロゼッタ。
あいも変わらず絶好調である。
ロゼッタの名乗りに、合唱部の面々はやや引き気味だったが、演劇部の部員たちは目を輝かせていた。
エーデルワイス歌劇団といえば、俳優女優を志す者にとって憧れの劇団なので彼らの反応は当然とも言える。
「まさかエーデルワイス歌劇団の方々にご指導いただけるとは……光栄の至りです。あの、ロゼッタ様……よかったらサインしてもらえないでしょうか!?」
「あ!?ずるい!!」
「部長!!抜け駆けはダメですよ!!」
「私も!!」
オーレリーが感激した様子で言い出すと、他の演劇部員たちも挙ってサインをねだり始める。
「お〜っほっほっほっ!!そんなに慌てなくても、サインくらい幾らでも書いて差し上げますわよ!」
そしてロゼッタは上機嫌でそれに応じるのだ。
(おぉ……ロゼッタさんが大人気だぁ……)
彼女が女優として大変有名で人気があることは知っていたつもりだが、実際にそれを目の当たりにすると、身内としては何だか微妙な気持ちになるカティアである。
(う〜ん……ちょっとテンションがおかしいだけのオバ『お姉様っ!!』……お姉様じゃないんだねぇ……。っていうか今、念話使ってこなかった……?)
彼女の謎能力については今更だろう……
落ち着いた頃を見計らって、今度はそれぞれの部の代表であるクラリスとオーレリーが、その場を仕切り始める。
「さて、今回エーデルワイスの方々にお越しいただいたのは……今度の学園祭で発表することになった演目についてご指導をいただくためよ」
「最初カティアさんからお話を頂いた時は驚きましたが……演劇部と合唱部の合同ということもさることながら、その演目自体も初の試み。成功するかどうかは未知数ですが……成功すれば学園の歴史に名を残すことになるでしょう」
二人の言葉に熱がこもる。
そしてそれは彼女たちだけではなく、他の部員たちも新たなチャレンジに対する興奮を抑えきれない様子だ。
「まあ、僕も初めての試みですからね。カティアさんからコンセプトは説明してもらってますけど、僕たちが指導するというよりは、皆さんと一緒に舞台を作り上げていきたい……そう思ってます。みなさん、よろしくお願いしますね」
シクスティンは控えめにそう言うが、その目には熱い火が灯っていた。
彼にとしても、今回の話は劇作家として成長する機会と考えている。
そしてその姿を見つめるロゼッタの瞳には、普段の騒々しさからは想像もつかない優しい光をたたえていた。
「大丈夫!みんなが力を合わせて頑張れば、きっと成功させられます!さあ、始めましょう……私達の『ミュージカル』を!!」
「「「おーーーっっ!!」」」
カティアの宣言に、部員たちが呼応して歓声をあげた。
こうして、彼ら彼女らの青春の1ページがまた始まる。




