サマーバケーション エピローグ
「……何かあったのか?」
買い出しから帰ってきた男性陣一行。
買ってきてくれた食べ物や飲み物をみんなに手渡しながら、微妙な雰囲気を感じ取ったテオが聞いてきた。
「ん〜……ちょっと勘違いしたお馬鹿さんがね」
「あ〜……すまん、誰かが残れば良かったな」
「だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ。特に問題なかったよ」
レティなんか、お約束な光景が見れて寧ろ楽しんでたくらいだし。
ステラに事情を聞いたフリードが、「このメンツに喧嘩売るなんて……自殺志願者か?」なんて言ってるけど、全くもってその通りだね。
なお、チャーライ一味については、ルシェーラが『貴族の責務と矜持のなんたるか』を滔々と語って聞かせた上で開放となったが……
もちろん説教だけで終わらせやしない。
父親のハーヴェイ卿にチクって余罪を徹底追求するつもりである。
女の敵には容赦しませんよ、私は。
ともかく。
嫌なことはさっさと忘れてお昼ご飯にしよう。
「……賢者様のご褒美?」
「うん。あの岩門に何かが隠されてる……そういう伝承があるみたい」
お昼ごはんを食べながら、先ほど水泳対決で辿り着いた岩門でフローラさんに聞いた話をレティに伝える。
そして、『ダンキチ』の名が出てきたからには、それは事実であろうことも。
「ふ〜ん……何があるんだろうね?」
「さぁ……でも、もしかしたら……」
「お?何か予想してる?」
「うん。……賢者リュートが願いを叶えるために彼が導こうとした人。それは、地球から転生・転移してきた人を前提としていた。だったら、そんな人に対する『ご褒美』は……」
「!!……まさか?」
そこまで言えばレティにも分かっただろう。
異世界転生・転移をしてこの世界にやって来た人にとっての『ご褒美』。
それはつまり、地球へ帰還するための何らかの手段が隠されているのでは……そう思ったんだ。
異世界転移というのは、空間神シャハル様の力を持ってしても成し遂げることが出来ないという。
しかし、邪神はリュートをこの世界に転移させた。
邪神ほどの力があれば異世界転移は可能ということだ。
であれば、邪神の器となるほどの資質を持っていたというリュートなら、あるいは……
「まあでも、完全に憶測なんだけどね。それに、仮に地球に帰れるのだとしても、私は別にいいかな……」
そこまで言って少し後悔する。
私自身は前世の未練なんてほとんど無い。
だけどレティは……
そう思ったのだけど。
「私も……もう、私はこの世界で生きているから。とっくの昔にね」
ハッキリと彼女はそう言った。
しかし。
「でも、ちょっとは未練もあるかな。もし本当に地球に……日本に帰れて自由に行き来ができるなら……前世の家族には会ってみたいかも。そんで、私は元気だよ!……って伝えたい」
「レティ……じゃあ、何が隠されてるのか分かったら、真っ先にレティに教えてあげる」
「うん、ありがとね!」
ちょっとしんみりとなった空気を吹き飛ばすよう殊更に明るく私が言うと、レティも元気よく答えてくれた。
「さて、お昼ごはんも食べ終わったことだし……また泳ごうよ!」
「だね!」
まだ初日ではあるんだけど、こんなにも綺麗な海なんだから……堪能し尽くさないと損だよ!
そして私達は再び海へと繰り出す。
かけがえのない青春の1ページ、大切な人たちと大切な思い出を心に刻むために。
雲一つない空はどこまでも青く高く、穏やかに凪いだ美しい海は太陽の光を受けてキラキラと煌めく。
そんな夏を凝縮したような景色に彩られ、私達の楽しく賑やかな声が響き渡るのだった。




