第十五幕 48 『神よ、その黄昏よ』
その時……もう一つの別れの時が迫っていた。
穏やかに、満足そうに微笑む12柱の神。
その身体は夕日に透けて、少しずつ存在感が薄れていくのが分かってしまった……
「リル姉さん…………お別れだなんて……嘘でしょ?」
私の縋るような言葉に、だけどリル姉さんは首を振って……
「いいえ。全ての力を使い果たした私達は、もう存在を維持することは出来なくなって来ている。もうすぐ……私達も輪廻に還る時がやってくる」
「そんな…………」
「お姉ちゃんたち!!やだよぉっ!!」
呆然と呟く私と、泣きながらリル姉さんに縋り付くミーティア。
他の皆も言葉が出てこない。
「悲しまないで、カティア、ミーティア……皆も。今はお別れだけど、またきっと会えるわ。あなたは知っているでしょう?…………もう少し、あともう少し……そう思ってこれまで人間達を見守ってきたけど、もう大丈夫。私達は安心して旅立つことができる。……いえ、ただ単に、私達が子離れ出来なかっただけかもしれないわね」
穏やかな口調で、リル姉さんは言う。
他の神様たちも、リル姉さんの言葉に頷いている。
「カティアちゃん、大丈夫だよ!またすぐに……今度は人間として生まれ変わって……あなた達に会いに行くんだから!!」
「そうだぞ。せっかくこの世界から邪神なんてものが消えたのだ。今度は人間として世界を旅するのも良いかもしれないな」
「リナ姉さん……リリア姉さん……」
私は知っている。
魂が生まれ、そして還る場所を。
死は誰にも等しく訪れ、一つの終わりを告げる。
だけど、それは新たな始まりでもあることを。
「……本当に、また会いに来てくれる?」
「ええ、もちろん」
「約束するよ!!」
「すぐに会いに行くさ」
だから……今はその言葉を信じて、再会の日を楽しみにしよう。
それでも、溢れ出る涙は止めることができない。
「ねぇ、カティア……あなたの歌を聞かせてくれないかしら」
「……歌?」
「ええ。別れの歌じゃないわ。新たな門出を祝う歌……再会を約束する歌……かしら?」
「少なくとも鎮魂歌なんて辛気臭ぇのは勘弁してくれよ?」
「オキュピーの言う通りね。明るい歌じゃないと」
「派手なのがいいな!!」
悲しい雰囲気を吹き飛ばして、神様たちが口々に言う。
そうだね……また、いつか会えるなら……!
「うん、分かったよ!!とびっきりの歌を、聞かせてあげるよ!!」
そして私は歌声を紡ぎ出す。
これが別れではなく、再び会うことを願いながら。
春の芽吹き、生命の輝きを祝福する歌を。
新たな門出を祝い、共に喜びを分かち合う歌を。
夕日に照らされた舞台で私は……リル姉さん達が消え去るその時まで、一心不乱に歌い続ける。
そして、神々の時代は……本当の意味で終わりを告げた。
この場所はリュートが言った通り、まさに世界変革の舞台だったんだ……
「さようなら……そして、いつかまた……」
「カティア、ミーティア……大丈夫か?」
テオが心配そうに声をかけてくれる。
ルシェーラたちも、私に何と声をかけたらいいか迷っているようだ。
……そんなに心配するような顔をしてるかなぁ?
「……うん。大丈夫。また会えるって約束したから……今はちょっと悲しいけど。でも、約束したから……その時を楽しみにしているよ」
「ぐすっ……ミーティアも……楽しみに待ってるの!」
きっと、約束は果たされる。
だから、今は前を向くんだ。
「さあ!!みんな、帰ろう!!みんな私達の帰りを待っていてくれるよ!!」
私は気持ちを切り替えて、元気な声で言う。
空元気も元気だよ!!
……でも、ここからどうやって帰ろうか?
そう思っていると、ミーティアの服の中からミロンが飛び出してきて……
「まだ邪神の……リュート様の力の残滓が漂ってます。これを使えば……」
すると、みるみるうちにミロンは大きくなって、黄金の竜に変じた。
『さあ乗ってください。それほど時間もありませんが……幸いにも空間の歪みを通じてイスパルに降りられます』
「ミロン、ありがとう!!みんな、行こう!!」
「「「おーーっ!!!」」」
沈みゆく夕日に照らされる中、私達は地上に向かって飛び立つ。
大切な人たちが、私達を待っている。
さあ!!凱旋だ!!




