第十五幕 46 『真・最終決戦』
上空に舞い上がった私の目の前には巨大な蠢く闇。
だが、それは次第に収束を始めて……やがて、再び邪神リュートの姿となった。
「よく、あの闇から脱出出来たものだね……あともう少しで、君の魂は私と一つになり……私は完全な邪神として復活を果たせたのだけど」
そう言うリュートの表情は特に悔しさを感じさせるものではなかった。
薄く笑みを浮かべているが、その瞳はゾッとするほどの虚無を宿しているように思える。
「今度こそ決戦の時かな?でも、人間の身である君が何度私に挑んでも、結果は変わらないよ。救いの手を差し伸べてくれる救世主も、全てを無理やり解決させる機械仕掛けの神もここにはいない。君自身の力で切り開かなければ、未来は存在しないんだ」
「……私自身の手で決着を付けなければならないのは分かってる。今ここで全てを終わらせる。そのためにここまで来たんだ」
「出来るのかい?君に。この世界は幻想。所詮電脳世界の中の出来事なのかも知れないよ?全ては予めプログラミングされた通りに動いてるだけかもしれない」
「そんなことは関係ない。今ここに、生きて存在するのは私なんだから。ゲームに囚われてるのは、あなただよ」
「……流石は私だね」
「別に私だからじゃないよ。これまで歩いてきた道筋が、私を私足らしめている。様々な人の思いを受け止めて、ここに辿り着いた。今この時を精一杯生きる。その積み重ねの先にこそ『未来』がある。誰だって、未来に生きることが出来るんだ……」
「…………」
「私自身の手で決着を付ける……でも、私のこの力は皆からもらったもの!!これまで出会った人たちが私に力を与えてくれるんだ!!未来を切り拓くために!!……さぁ、問答の時間は終わりだよ。決着をつけようじゃないか琉斗!!」
それを最後に、私達は口を閉ざす。
言葉を交わす時は終わりを告げ、後は刃を交えるのみ。
そして私は……この世界で歩んできた道程と、出会った人々と、この先の未来を思い描きながら、歌声を紡ぎ始める。
歌声は光となって私の身体を包み込む。
神々から預かった印が次々と発動する。
私に届いた皆の想いが力を与えてくれる!!
身体を包んでいた印の光は、あるいは翼となり、あるいは剣となり…盾となり、鎧となる。
私だけじゃない。
皆も一緒に戦ってくれる!
「いくよっ!!その呪縛から解き放ってあげる!!」
世界の命運をかけた最後の戦いが、いま始まる!!
先ずは先制!!
私は星剣とリヴェラを胸の前で交差させ、一気に薙ぎ払う!!
凄まじい衝撃波を伴った虹色の光の奔流がリュートに襲いかかった!!!
「この力……ここまで私の力に迫るか!!」
リュートの前に無数の光の格子が現れる!!
ドォーーーーンッッッ!!!
結界に阻まれ、私の初撃は凄まじい轟音を立てて爆風をまき散らす!!
そして……リュートがいない!?
咄嗟に空間の歪みを察知して、そちらの方へと星剣を振り下ろす!!
ガキィンッッ!!!
「これも察知するか!!」
さっきまでは成すすべもなかったリュートの攻撃を私は完璧に防いだ!!
……大丈夫、私は戦えている!!
ガンッ!!
キキィンッッ!!!
ガィンッッ!!!
超高速の斬撃の応酬が繰り広げられる!!
その攻防は全くの互角だ!
「いいぞ!!カティア!!」
その言葉は自身の滅びを願う琉斗のものだろうか?
もしかしたら、今この瞬間も彼は自らの矛盾と戦っているのかもしれない。
激しい剣戟は衝撃波を生み出して嵐を呼ぶ。
轟音が雷鳴のごとく轟く。
人知を超えた力の余波が周囲の空間すら歪める。
その光景はまさに神話の戦いと呼ぶに相応しいものだったのかも知れない。
剣戟の応酬に、いつしか魔法が加わる。
炎が、雷撃が、暴風が……恐るべき魔獣のように荒れ狂う。
空間を超え、時間にさえ干渉する。
魂と生命と精神を奮い立たせて、恐るべき邪神の力に対抗する。
やがて私の思考は白く塗りつぶされ、時間の間隔が失われた。
それは果たして、刹那だったのか、永遠だったのか。
『カティア!!』
『ママ!!』
『『『カティア!!!』』』
闇から私を救い出してくれた皆の声が、再び耳に届いた気がした。
そうだ……!
皆も一緒に戦ってくれてるんだ!!
私は星剣イクスヴァリスを頭上に掲げ、その力を極限まで引き出す!!
皆から貰った力が剣の力を更に増幅させる!!
茜に染まった空が急激に暗くなって満天の星空が広がった。
「星剣イクスヴァリスよ!!私と皆の想いを乗せて……真の力を解き放て!!!」
そして……数多の星々の輝きが流星となって邪神リュートに降り注いだ!!!




