第十五幕 41 『神々の決意』
………………
…………
……
暗い……
私の視界の全ては、闇、闇、闇…………だ。
ここはどこだろう?
そして、私はどうなってしまったのか?
邪神リュートの闇に囚われて……
闇の触手が私の身体を這いずり回り、中へと侵入して……
まるで全身が引き裂かれるような激しい痛みに苛まれて……
記憶があるのはそこまでだ。
気付いてみれば、全く光の差さないこの暗闇の中。
私は今……
目を閉じてるのか、開いてるのか。
立っているのか、寝ているのか。
……生きているのか、死んでいるのか。
身体の感覚がなく、思考だけが頭の中をぐるぐると巡る。
怖い…………
このまま、自分の意識は闇に溶けて消えてしまうのではないか……
そんな恐怖が押し寄せてくる。
きっと、このままでは魂が壊れてしまうだろう。
誰か……私を助けて……………
ーーーー ウィラー王国アルマ地方 ーーーー
少し時は遡る。
カルヴァード大陸各国における、グラナ帝国侵略軍との戦いは終結した。
最後まで激戦が繰り広げられていたウィラー王国アルマ地方のグラナ国境付近には、今回の戦いで多大な戦果を上げた12柱の神々が一同に会していた。
つい先程まで、大戦の終結を祝し互いの健闘を称え合っていた彼らであったが……
今は厳しい表情で空を見上げていた。
彼らの視線の先には、突如として現れた大規模な空間の歪み。
全世界で観測されているその現象は、人知を超えた力を持つ神々にとっても驚嘆するものであった。
「……シャハル、イクセリアス、どうだ?」
厳しい表情をしたディザールが空間神と時間神に問う。
「……だめだ。見通せねぇ。時空に干渉しているのは間違いねえが……」
「急激に増大した禍々しい波動…………あれは『邪神』とやらの仕業に間違いあるまい。東大陸で我らの干渉を妨げていた力の根源だ」
「じゃあ……やっぱりカティアちゃんたちはあそこに?」
「……パティエットはどうかしら?何か見える?」
エメリナがカティアたちの身を案じて不安そうに呟き、エメリールが今度はパティエットに聞いた。
「……私の力でもダメね。あそこにはあらゆる可能性が複雑に混じり合い混沌と化しているわ」
可能性を見通すパティエットの力でも、あの空間の歪みの中は確認できないと言う。
「どうする?取り敢えず突貫すっか?」
「……それは得策ではないな。今の我々であれば仮初とは言えど肉体を得ている故、無理をすれば何とかなるやも知れぬが……この邪神の力の波動は、我らとは対極の力。近付けば唯では済むまいよ」
オキュパロスの言葉を、ヘリテジアが冷静に否定する。
その時。
突然何者かの声が響き渡る。
それは全世界で観測された、邪神リュートの宣言。
世界と人類を変革させるというものだった。
その生贄としてカティアの身体と魂を捧げる……とも。
そして、空間の歪にはカティア達の様子が映し出される。
闇の触手がカティアを絡め取って侵食していく様も、彼女の口から迸る苦痛の絶叫も……
「カティア!!?」
「カティアちゃん!!!」
余りにも凄惨なその光景に、神々も悲痛の叫びを上げた。
そして……
「あ!?お姉ちゃん!?」
「カティアを助けないと!!!」
エメリールが普段の穏やかな姿からは想像もつかないほどに取り乱して、カティアを助けようと空に舞い上がる!
「待ってお姉ちゃん!!私も行くわ!!」
エメリナも姉に続く。
そして……
「私も行くぞ。どのみち邪神が完全に復活してしまえばこの世界の終わりだ。……未来のために戦うのだ。例えこの身に終焉が訪れようとも……!!」
「馬鹿野郎、お前たちだけにいい格好をさせてたまるかってんだ。なあ皆!俺等も行こうぜ!!」
ディザールが決意と覚悟の言葉で自らを鼓舞すると、オキュパロスを始め他の神々も次々と声を上げ……
12柱の神々はカティアを救うべく、決戦の舞台を目指して翔び立つのだった。




