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【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!  作者: O.T.I
第三幕 転生歌姫の新たなる旅立ち

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第三幕 9 『治療』

「ちょっと父さん!?大丈夫!?」


 遊撃部隊のメンバーが戻ってきたのだが、父さんはティダ兄の肩を借りて歩いてくる。

 一見大きな怪我はなさそうなのだが…


「…大丈夫だから、大きな声を出すなって。滅茶苦茶疲れただけだ」


「疲れたって……ああ、アレを使ったんだ。それ程の相手だったの?」


 父さんの固有スキル[鬼神降臨]は前に一度だけ見た事がある。

 凄まじい効果を発揮するけど、反動が酷くてそうそう使えるものじゃない。

 確かにあのプレッシャーはただ事じゃなかったけど、そこまでの相手だったとは…

 

「スピード、パワーともに桁違いだったが、何よりも回復力がヤバかった。なんせ、切り飛ばした腕がほとんど瞬時に再生しちまうんだからな」


 うわ〜、何それ…

 相手したくないわ〜。


「…よくそんなの倒せたね」


「ああ、何とかカイトと協力して倒すことができた」


「はっ!?そうだ、カイトさんは!?怪我はないの!?それに、お嬢様は!?」


 よく見たらカイトさんとお嬢様がいないじゃないか!

 思わず父さんに詰め寄って問いただす。


「お、おいっ!止めろっ!?胸ぐら掴んで揺らすんじゃない!!……やめんか!この馬鹿娘が!!」


 ごちんっ!


「!?…っつ〜、痛ぁ〜いっ!何さ、元気じゃないの…」


 目から星が飛び出たじゃないか…


「落ち着け、バカタレ。今リファーナのとこに報告に行ってるだけだ。二人とも怪我もしてねぇ」



 そんな風に、父娘でスキンシップ(?)をとっていたら…


「みなさん、お疲れ様でした!カティアさんも、支援ありがとうございます。おかげで助かりましたわ」


 お嬢様とカイトさんもこちらにやって来た。

 よかった、二人とも元気そうだ。


「カティア、お疲れさま。ずっと歌ってたが喉は大丈夫か?」


 おお、流石はカイトさん…真っ先に私の喉を心配してくれるとは。

 いい男は気遣いが違うね、父さんも見習うべきだよ!


「お嬢様、カイトさんも、お疲れ様です。姉さんに回復魔法をかけてもらいながらだったので大丈夫ですよ。それよりも、そちらのほうが大変だったみたいで…」


「あ〜、確かに厄介な相手だったが、こちらに犠牲は出ていないし、結果としては上々だな」


「ダードレイ殿とカイト殿に助けられたな。私もAランクなどと言ってもまだまだだと痛感させられたよ」


 と、フランツさん。

 もう熟練の域にあるのに、まだまだ向上心を持ってるのが素晴らしい。



 …しかし、父さんとカイトさんが?

 父さんもカイトさんと協力してって言ってたけど…

 確かにカイトさんは強いけど、あの[鬼神降臨]を使った父さんと共闘したと言うのが何か引っかかる…


「ねえ、父さん」


「ん?何だ?」


「私に何か隠していない?」


 じと〜。


「あん?何をだ?(こいつ、鋭えな…)」


 ん〜、特に動揺はしてないように見えるけど…


「いや、何と言われると分からないけど……ま、いっか…」


 みんな無事に帰ってきたんだから良しとするか。








「それじゃあ、私は救護班のお手伝いに行ってくるわね〜。魔力も大分回復してきたしね〜」


「あ、じゃあ私も行くよ」


「カティアちゃんは疲れてるでしょ〜?思ったよりも重症者は少ないみたいだから大丈夫だと思うけど〜」


「治癒魔法の使い手は多いほうがいいでしょ。早く皆も帰りたいでしょうし」


「…そ〜お?じゃあ一緒に行きましょうか〜」


 と言うことで、私と姉さんは救護班のお手伝いに行くことにした。


 治癒魔法は使い手が少ないが、聖職者の中にはある程度使える人もいるので、神殿から何名かが救護班として参加している。

 その他にも、魔法に頼らない通常の医療従事者もいる。

 負傷者全員を魔法で治療すると魔力が足りなくなるので、軽傷者は魔法を使わない通常の治療、重傷者は魔法による治療と言うように役割を分けているのだ。


 本陣より後方にいくつかの大型テントが張られていて、そこに怪我人が運ばれて治療されているらしい。


 テントの入り口に兵士が立っているので手伝いに来た旨を告げる。


「すみません。私達治癒魔法が使えるのでお手伝いに来ました」


「あ!?カティア様!なんと慈悲深き御心…ありがとうございます!さあ、中にお入りください!」


 お、おお…

 凄くキラキラした目で、涙ぐみながら敬礼して中に入れてくれる。

 しかし、カティア…様?

 何だか大袈裟だなぁ…


「あらあら〜、カティアちゃんはすっかり英雄様みたいね〜。なんか宗教ができちゃいそう」


「や、やめて姉さん…何だかシャレにならないから…」


 カティア教とか嫌すぎる…


 そんな馬鹿話をしながら中に入っていくと、つんっ、と薬品の匂いが鼻を突く。


 テントの中には幾つもの簡易ベッドが置かれて怪我人が横たわり治療を受けている。


 私達に気づいた責任者らしき人が声をかけてくる。

 法衣に身を包んだ聖職者らしき女性。

 二十代半ばくらいだろうか?

 淡い金髪に翠眼の、まさに聖職者という感じで優しそうな人だ。


「あなた達は…カティアさんにアネッサさんですね。こちらに何か御用でしょうか?」


 あ、私達のことは知ってるんだ。


「あ、はい。ある程度魔力が回復したので、何かお手伝い出来ないかと…私も姉さんも治癒魔法がある程度使えますので」


「まあ!助かります!今回カティア様の支援のおかげでかなり怪我人は抑えられてるとは言え、やはり人手は不足がちですので。…あ、申し遅れました、私はエメリール神殿より派遣されましたティセラと申します」


「「よろしくお願いします(〜)」」


「では、早速お願いしたいのですが…治癒魔法はどのようなものが使えますか?」


「私は〜、[快癒]、[大快癒]、[天恵]が使えるわ〜」


「あ、私も同じです」


 ホ○ミ、ベ○○ミ、ベ○○ラーって感じね。

 例によって元々の【私】は使えないけど、ゲームでは使えていたものだ。


「そういえば〜、カティアちゃんいつの間に治癒魔法使えるようになったのかしら〜?」


 あ、今頃聞きますか、それ。


「超頑張った」


「そっか〜」


 それでいいのか…



「あれほどの攻撃魔法が使えて、治癒魔法もそれほど使えるとは…お二人とも宮廷魔導師並みか、それ以上の実力がお有りなのですね…」


 う〜ん、私の魔法使いの基準って姉さんなので、あまりピンと来ないんだよねぇ…



 私達の使える魔法を確認したティセラさんからは、重傷患者を見てほしいと頼まれた。


 そうして、まだ治療が済んでいない重傷患者のところに行って姉さんと手分けして治癒魔法を施していくのだった。










「カ、カティアちゃん!?」


「あ、どうも〜。治療に来ました〜」


「え?あ、はい!お、お願いします!(くぅ〜っ!ツイてないと思ったけど…何という幸運!神様!ありがとうございます!)」


「え〜と、ちょっと患部を確認するので触らせてもらいますね」


「は、はい!どうぞ!(うひょ〜!カティアちゃんの手が!…わが人生に悔いなし!)」


「ここの骨折にこっちの打撲ですかね?では……[大快癒]!…どうですか?」


「おお!もうどこも痛くない!ありがとうございます!!」


「いえいえ、お大事に〜。では私は次の人のところに行きますね〜」




 …と言った感じで次々と治療を施していく。

 大分魔力も回復して、これなら結構力になれるんじゃないかな。


 今のところ命に関わるような怪我をしている人は本当にいないね。

 あれだけの規模の戦闘で本来ならあり得ないことだよ。

 我ながら凄まじい支援効果だねぇ…




 と、しばらく治療を続けていくと、慌ただしい気配が外からするのを感じた。

 テントの中の重傷患者はあらかた治療したので、様子を見に外に出てみると…





「これはもう…残念だが手の施しようが無い…」


「そんな!?お願いします!何とかコイツを助けてください!俺を庇ってこんな事に…」


「……」



 どうやら瀕死の重傷を負った人を何とかここまで連れてきたみたいなんだけど…


 …確かに、あの傷では無理だ。

 お腹を大きく切り裂かれて、恐らく内臓もかなり損傷してるだろう。

 ここまで運んでこれたのが奇跡に近い。


 救護班のメンバーで使える最も強力な魔法は私達と同じ[大快癒]だ。

 だが、あの傷を治すにはもっと強力な…[命寿回生]とかじゃないと無理だ。


 …いや、本当にそうか?

 何か忘れてる気がする…



『私の加護は、治癒系魔法の効果を極限まで高めるわよ!』



 !?

 そうだ!

 リナ姉さんの加護!

 極限まで高める、と言うのがどれくらいなのか分からないけど…

 まだ諦めるのは早い!



「私が診ます!」


「えっ!?カ、カティアさん?し、しかし、この傷では」


「いいから!まだ諦めるのは早いです!」


 強引に割って入って、切り裂かれたお腹に手を当てる。

 無詠唱でも使えるが、少しでも効果を高めるために詠唱を行う。


『癒やしの女神よ。その慈愛の御意(みこころ)にて、傷付き倒れ伏したるものに救いの光を与え給え[大快癒]!』


 パァ、と眩い光が私の手から放たれ、傷ついたお腹に吸い込まれていく。

 すると、たちまちのうちに傷口が塞がっていき、光が消えたときには血に濡れてはいるものの傷口は跡形もなく無くなっていた。


「凄い…[大快癒]であの傷を治すなんて…」


 いや、まだ分からない。

 確かに傷は塞ぐことができた。

 だが、本当に内部まで治療できたのだろうか?


 そう思ったとき、患者の目が開いて…


「うっ……お、おれはどうなって…?」


「!ランディ!!ああ…良かった!…カティア様!ありがとうございます!ありがとうございます!」


 …良かった。

 助けることが出来て本当に良かったよ。


 リナ姉さん、ありがとう…



 何度も何度もお礼を言う二人に、私は少し嬉し涙を流しながら笑顔で応えるのだった。




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