第七幕 5 『襲撃』
その後、レティやルシェーラも交えてステラ(歳も同じだったので、お互い呼び捨てで話すことにした)と交流を深めた。
私達は学園で同級生になる(予定)という事で最初の不安そうな表情は払拭され、大分打ち解けることができたと思う。
そして、それぞれダンスの誘いがあったので、お喋りは終わりとなった。
テオは私のお願い通りにレティを誘ってくれたよ。
そしたらレティに感謝された…『これで公爵令嬢としての一応のメンツが保てるよ…』って。
でも、テオと踊った後に他の人に誘われていたので、もともと注目はされてたみたい。
勇者が行ったので、じゃあ俺も…ってなったんだろう。
そりゃそうだ。
レティみたいなハイスペック美少女が放っておかれるはずはないんだよ、本来ならば。
だから余計に『やらかし』の内容が気になるわけだが…
ともかく、他の男の人と踊るのは少し面倒くさかったけど、パーティー自体は概ね楽しんでいたのだが…
異変が起きたのは祝宴も半ばを過ぎた頃だった。
突然、前触れもなくフッと照明が落ちた。
会場中を照らしていた光がいきなり消えたことで視界が闇に閉ざされる…!
窓からの月明かりがあるから完全な暗闇ではないはずだけど、明るさに慣れていた目は直ぐに闇に順応することができない…!
『きゃーーっ!!』
『何っ!?何なの!?』
『陛下をお護りしろ!!』
突然の事態に会場中がパニックになる。
「落ち着け!!誰か、明かりの魔法を!!」
父様が場を落ち着かせようと声を張り上げるが、私はそれどころではなかった。
会場の明かりが消えたと同時に複数の殺気を感じたのだ。
狙いは……やはり私かっ!!
私に向かってくる気配を察知して、迎え撃つべく身構える。
…?
別の方にも向かってるヤツがいる…?
狙いは私だけじゃない!!
確かあっちにいたのは…ステラ!?
ちっ!
私は内心で舌打ちしながらも、即座に戦闘モードに意識を切り替える。
印の常駐にはまだ馴れてなくて集中する時間がそれなりに必要なのだが、もうその余裕もない。
相手がどれ程の力量か分からず、かつ自分は無手の状態…やれるか?
だが、護衛騎士たちが駆けつけるまで何とか凌げれば…!
しかし、ステラに向かったヤツはどうすれば…
いや、確かさっきまでテオがダンスの相手をしていた。
少し離れてるけど、私よりは近いし間に合うはずだ!
「テオっ!ステラを守って!!」
多分彼のことだから既に察知してるはずだけど、私は声を張り上げてお願いする。
彼も丸腰だけど…きっと何とかしてくれる!
とにかく今は目の前の危機を何とかしなければ!
と、気配がもう目前まで迫ったところで、誰かが明かりの魔法を使ってくれたらしく僅ながらも暗闇が払われた。
よしっ、相手が見えれば十分だ!!
敵は二人、双方共に黒装束に黒頭巾という出で立ち。
それぞれが短刀を片手に連携を取って襲いかかってくる!
先を走っていた一人が横凪に振るった短刀を僅かに後ろに飛んで躱す。
刀身は何だか濡れているように見えたが、おそらく毒でも塗ってあるのだろう。
かすり傷一つでも危険ってことか!
こっちはドレスで動きづらいってのに…!
一人躱したところで、影に隠れていたもう一人が地を這うようにして左側に回り込んで斬り上げてくる!
私はそれを上体を反らしてギリギリで避けながら、もう一人の動きにも注意しつつ短刀を持った方の腕を捕らえる。
そして、関節を極めながら後方に引き倒すようにして投げ飛ばす。
その間にもう一人はもう次の攻撃体制に入っており投げの直後を狙ってくるが、私はそれを予測していたので投げ技の勢いのまま身体を回転させ、しなるように後ろ回し蹴りを放つ!
狙い違わず相手の顎先を蹴り抜いて、どうやら昏倒させる事ができたようだ。
…ドレスの裾が邪魔だったので、片手で少したくし上げながらだったんだけど…み、見えてないよね!?
投げ飛ばした方はまだ戦意喪失しておらず、まだ立ち上がろうとしたいたが…そこでケイトリンや他の騎士たちが駆けつけてきて、昏倒させたヤツ共々取り押さえられた。
「カティア様!!ご無事で!?」
「私は大丈夫!!それよりステラは!?」
ばっ!とステラがいた辺りを振り返ると…
「大丈夫だ、全員倒した。カティアは大丈夫…みたいだな。全く…肝が冷えたぞ」
と、ステラの前に立って彼女を護ったのであろう、テオが答える。
見ると床に倒れ臥す黒ずくめが二人。
良かった…
でも、やっぱりカイ…テオは無手でも強かったね。
「うん、私は大丈夫だよ。それ程の手練ではなかったみたいだし…」
「カティア!無事か!?」
と、父様がやって来た。
会場の照明はまだ消えたままだけど、[光明]や[灯火]の魔法を使っている人が何人もいるので大分明るくなった。
さっき照明が消えたあと、父様も暗殺者が私達の方に向かったのに気付いたらしく、こちらに向かおうとしていたみたいなんだけど、少し距離があったね。
「私は大丈夫です。他に…お客様に被害はありませんか?」
「ああ、それは大丈夫みたいだ。狙われたのはカティアと…」
「ステラ様です。しかし、一体なぜ…?」
私が疑問に思っていると、テオが何事かを思案し…ステラに質問する。
「ステラ様、一つお聞きしても?」
「は、はい…テオフィルス様」
「ステラ様はもしかして…印をお持ちなのではないでしょうか?」
「えっ!?」
私は驚いて思わず声を上げて彼女の方を見る。
でも、そうか…彼女はアダレットの王女だ。
彼女が印持ちでも何ら不思議ではない。
そして、アダレットが引き継ぐのは確か…
「は、はい。私はアダレット王家に伝わるパティエット様の印を持っております」
そう…アダレットが受け継ぐのはパティエット様の印だ。
つまり…彼女が狙われたのは印持ちだから?
テオ、私、そしてステラ。
何れも印持ちで暗殺の標的にされている。
これはますますテオの仮説が信憑性を増したのではないだろうか?
と、賊を取り押さえた騎士たちが何かに気付いたみたい。
「…こいつ、何か言ってますね」
「おい!何を言ってるんだ!」
すると、黒ずくめの一人がブツブツと何かを呟いているのが私にも聞こえた。
「…黒き神に仇なす者に、報いを…死をもって償うべし…」
…!!
黒き神……やはりか!!
「テオ、あなたの推測が当たってたみたい」
「そのようだな…狙われたのは印持ちで、こいつ等は邪神教団ってことだな」
「お、おい!コイツ様子がおかしいぞ!?」
「な、なんだぁ!?」
!?
マズイ!!
「皆!離れてっ!!」
私が警告を発するとほぼ同時に、ブツブツと繰り返し呟いていた男からブワッと黒い靄が吹き出した!!
騎士たちは辛うじて退避出来たが、ヤツは自由になってしまった。
だが、あの黒い靄は危険だ。
アレに触れたらただでは済まないはず…!
「…!他の奴らは!?」
と、他の三人の賊も同じかと思って確認する。
だが、他の連中は床に倒れて気を失ったままだ。
取り敢えずはホッとして、改めて変容した一人に注意を向ける。
とにかく…こいつを何とかしなければ!




