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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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 「お前は悪いヤツだな。ここでお前を『幕府を批判しおって』と断じてしまおうもんなら、どうせ『一言も幕府などと言っておりません』くらいのことを言うし、お前の言う『阿呆』を幕府だと深読みしたワシが悪いとすらさせる言い草。しかも会って早々に、『そのままで良い』と言った手前、お前を責められん。こんな簡単に縛りおって。お前は何者じゃ?」


 「ただの内弟子の小童ですよ。ただ、これくらいの立ち回りくらい出来ねば、調所の天才たちに簡単に潰されます。そうならないための処世術の一つかと」


 「『知を金にする』と先ほど申したな?他には何か考えておるのか?」


 「連理玉は身分で言うなら、上から伝える。それとは別に、下から広げたいと考えておるものがあります」


 「見せてみろ」


 やっぱ話が早いね。石鹸を取り出す。


 「これは確か泡が出るものだったか」


 「そうです。これを庶民が買える金額で売ろうと考えています」


 「理由も聞かせろ」


 「まず、泡で汚れを落とせる。これが最大の利点。誰しも汚いよりも綺麗な方が好ましい。ですが、これは分かりやすい利点。もう一つの狙いは、手を洗うことの副次的な効果としては、病気の予防です」


 「予防?そんなことが本当に可能なのか?」


 「分かりません。だからこそ、より多くの人を対象にした『社会実験』をしたいのです。そのためには、上から下ろすよりも、下から広げる方が手っ取り早い」


 「社会実験……。聞いたことない言葉だが、それでも何となく分かるのが不思議だな。しかし、そんな簡単に作れる物なのか?」


 「可能です。今すぐにでも」


 「今すぐ?どういうことだ?」


 「蝋燭を作る工程と、ほとんど一緒なのです。蝋燭を作る際の灰水、そこにある物を加えるだけで、出来上がるものが石鹸になるんです」


 そうなんだ。箕作様の所でやった自由研究の石鹸、失敗作が蝋燭なんだ。弱アルカリだと蝋燭、強アルカリなら石鹸。職人のおっちゃんたちに教わった蝋燭屋さんで確認した。アルカリを強めるための焼き貝殻足してもらった。実際に出来た。量産は簡単だ。蝋燭屋さんも、売れる物が増えるのラッキーって感じだった。


 「最後、これだけ確認させろ。どんなきっかけで『蕃書調所が金を溜め込んでる』と疑いを掛けられるやもしれん。そこからも守る方法は考えているのか?」


 やっぱり来たね。想定内。


 「こちらをご覧下さい」


 取り出したのは出納帳。


 「こちらで、日々のお金の出入りをこちらに記しております。そしてこちらはまだ仮の状態ですが、こちらも確認下さい」


 まだまとめきれていないが、ざっくり作った貸借対照表。B/S。


 「この2種の書式にて、入出金の管理、資産と負債の管理が明確になります。数字は嘘を付きません。現在の調所の資産は、ほぼ蘭書です。試作品をどう扱うかはまだ決めきれていませんが、お金の出入りは激しいので、半年に一度この書式にまとめておけば、おかしな金の動きは見えてきます」


 「見方は判然とはせぬが、見慣れれば分かるようになるものか?」


 「はい。時間の経過に合わせて見比べていけば、溜まったお金の増え方、なにがどれだけ増えたのか。そこを残していきます」


 「それはお主がやるのか?」


 「あそこにいる人たちは皆、学者としては一流ですが、それ以外の部分では無頓着すぎるきらいがあります。それならば、私がやった方が手っ取り早いかと(なんちゃっての簿記と決算書知識しかないけど、調所のものならアラビア数字使っても違和感もたれにくいだろうしね)」


 「そうか、では箕作殿の補佐をきちんとせよ。ワシからはそれだけじゃ」。


 「ありがとうございます」


 「連理玉の売上は、蕃書調所の金にすれば良いんだな?」


 「はい。それでお願いします」


 「それで、ワシには九つの連理玉は来ないのか?」


 「しばしお待ちください。いずれお渡しします。もちろん、手に入れた上で迫真の演技がお出来になるのでしたら、先にお渡ししますが」


 「先に貰って失敗したら、何を言われるか分からんな。やめておこう」


 よし、まずは9個のを量産しておこう。あとは石鹸について、蝋燭屋のおっちゃんと打ち合わせだな。


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