表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/32

1-30

 内田様からの指示は「蘭学を身に付けろ」だ。その意味は「蘭学書を読める様になれ」だ。会話能力も作文能力も不要。単語をとにかく覚える。文法も知らなくても、意味の分かる言葉だけを繋いでいって、「何となくこうかな?」のざっくり読み。これがハマった。英語の長文対策と一緒。一語一語意味を追ってたら時間が足りない。何となく読んで、何となく何が言いたいかを掴み、分からない単語は最後に推測で埋める。内田様の所有してる本が、数式の本ばかりなのも良かった。


 でも、あの本に書かれてたのボイル=シャルルの法則だったよな。温度と圧力って。なんで内田様が持ってんだ?公式が書かれてるから、洋算の本だと思ったのか?それとも男なら誰もが持つ収集癖?久しぶりに物理と化学を思い出した。


 もともと三ヶ月の予定だったし、内田様からも杉先生からも延長の話は特に出てない。やっぱり子供の脳って凄いな。辞書丸暗記出来るんじゃないか、ってくらいのペースで覚えてった。我ながら信じられん。


 正直、今一番欲しいのは教科書。記憶頼りだと正直断片だし、一番大事な「なぜ」が分からない。困ってたところでの、思わぬ蘭書。これ、もしかしたら教科書になり得るんじゃないか?いちいち蘭語から日本語に直して覚える、そこから思い出すって手間だけど、記憶ベースからよりもよっぽど明快なヒントになりそうだ。教科書ってよく出来てたな。体系立てて学べる素晴らしいものだったと、改めて気付かされた。


 ところで物理とか化学とか、実験設備まだないだろ。分子とか原子とか理解出来るのかな?和算では「0」を表記する「必要がない」と考えられてる世界で、「目に見えぬものなど存在しているはずがない」とか言いそうだぞ。遺伝子なんてもってのほか。ん?遺伝子は海外でもまだない?ある?


 ってとこで、初めて気付いた。俺は自分の持ってる知識基準で考えてる。下手にポロッと言ったことがまだ無かった場合、歴史を変えることになりかねない。本を読んで出て来たことは「ある」ってことになるから誤魔化せるけど、どこにもないものを出すのは危険だ。史実だった場合の歴史を変えかねない。それは望むところではない。早急に、今あるものとないものの選別と、知識の振り分けをしなければ。


 蘭書を見ていて気になったのは、明らかな誤字誤用、表記間違いの多さだ。イラついた。でも、これは仕方のないことだ。文字通りの、人の手による「写し」だ。写した人のミスなのか、その前の人のミスなのか、はたまたその前か。しょうがない。写した人は、意味を分からずに、ただ目に見える様に写しただけなんだから。uとvはもうミスがある前提で見るようになった。そもそも辞書すら間違ってる可能性すらある。本当の綴りを知らんし。スペルミスだけじゃない。記号もだ。+と÷もミスが多い。これ、輸出で同じことしてたら、多分3回目には解読不能だろうな。全部縦棒だけになって、誰も解読不能とか。印刷技術ってそりゃ大事なわけだ。


 内田様所蔵の蘭書の要約と、ミスの赤入れ、それが今の俺の仕事になった。別に言われてはいない。教科書を求めた末の行動だ。内田様に+と÷について教えた日には、またダッシュしてった。元気だ。本という体裁になってたら、それが正解だと思い込むよな。まさか間違えてるなんてって。数式じゃなかったら、俺も気付かなかったかもしれないもん。


 解読と赤入れ、ホントにこの年はこれしかしなかった。たまに聖書的な読み物とか、哲学書的な読み物とか出て来たから、それはそっと避けといた。価値はあるかもしれない。あるのだろう。自分の食指が動かないだけで。何気にワクワクしたのは、蒸気機関についてだ。


 石炭入れる→熱する→蒸気の熱エネルギーを運動エネルギーに変換→黒煙あげながら動く、くらいの認識しかなかった。前世で息子がアンパンのヒーローよりも、喋る機関車にハマってた。全く知らなかった「どうやって」の部分が、「こうすれば」で事細かに。凄いな。熱エネルギーを実際に運動エネルギーに変える方法なんて、前世で理解してる人どれくらいいるんだろ。必要ない知識だもんな。こういう「当たり前だけど知らないこと」だらけだもんな、俺の知ってることって。


 でだ、蘭書に立ち返って考えてみると、これを書かれた本が、今、何人もの人の手を経て何年か過ぎて、俺の手元に存在する。つまりだ。この蒸気機関の知識は、外に出しても問題ない知識、として扱われてるレベルってことか。だから技術と知識を入手のために、本があるわけだよな。ペリーって史実だといつだ?黒船って蒸気船だったよな、確か。


 結局、読めなきゃ意味ない。読めても理解できなきゃ意味ない。理解できても作れなきゃ意味ない。ないない尽くしだな。


 あと、読み物かと思って実は違ったものが、反射炉。学術書だった。これはちょっと興奮した。日曜夜の手作り番組で反射炉作ってた時は、全部をすげーな、って思いながら「さっさと島やれよ」って追いかけてた。この本だけで日本人、最終的にあの形に辿り着けたんだろ?職人気質を追いかけさせると、この国の凝り性は力を発揮するのかね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ダッシュ島! 初期メンバーがそろっていた頃は面白かったな~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ