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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


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 非常に困っている。蘭学を習い始めて早一月。一向に面白くない。杉先生(杉亨二と言う名らしい。またまた知らんから何の参考にもならん)が悪いわけじゃない。むしろ優秀だろう。この若さで(具体的には分からんが20歳そこそこだろう)他言語を習得し、人に教えるレベルにまで到達してるんだ。賢くないはずがない。長崎出身らしい。本場のオランダ語も知ってるっぽい。そこで身に付けた発音まで披露してくれる。問題は俺自身にある。


 面白くない。テンション上がらない。向学心の一番の邪魔である「何のために?」が出てくる。それを消さないと上達しない。でも付き纏う。更に足枷があった。前世で学んだ英語の学習経験が、明らかに邪魔だ。文法を学んでも、「この表現の時は英語と同じ並び。でも、一個単語を足すだけで位置が変わるのはなぜ?」と、必要ないことが浮かぶ。そして怒られる、呆れられる。訝しげな表情をされる。失望してんだろうな。しょうがない。使ってる文字が似通ると、どうしても引っ張られる。「そういうもんだ」にどうしても辿り着けない。


 さらに問題がある。この世が史実の江戸なら、何年後かは分からんが、蘭学は廃れる。英語に取って代わられる。それくらいの知識はある。過去の遺物になりかねないモノを、真剣に学ぶのはいかがなものかと、悪いと思いながらも思ってしまう。好きなものの無駄な努力なら構わない。でも、好きでないものが無駄な努力になる可能性があるなら、そもそもしたくない。


 ここは改めて、自己分析と状況確認をする必要がある。


史実通りの江戸→蘭学は不要になる可能性高い

史実ではない江戸→当面、読む能力だけあれば事足りる

何のため→洋算書を読むため、解読するため、望むべくは教科書が欲しい。自分が解けていた問題を記憶の底から呼び起こしたい

オランダ行くか→絶対に行かない

オランダ人と喋りたいか→今んとこ必要ない。来るのは商人。専門家は自国にいるはず。わざわざ船乗ってこんなとこまで来ないだろう

何が必要→読む能力

今必要としてない能力→リスニング、ライティング、トーキング

必須の能力→リーディング


 うん、だいぶスッキリした。一点突破だ。


 「杉先生、いろいろ分析した結果、私は蘭学を身に付けたいのではなく、蘭学書に書かれている内容を理解出来ればそれで構いません。なので、私の教育方針をその様に変更してもらえないですか?単語を詰め込めば、ある程度読める様になるはずです。単語だけ覚えて、それでも訳がおかしなところを指摘して下さい」。


 さて、どう出る?















 やっぱり俺の周りに来る人、無言になるキャラ多くね?




 「…分かった。では、こうしよう。藤二が辞書を片手に好きな蘭書を訳してみろ。そして、それを見ながら、俺が内容を確認する。それで良いか?」


 「はい!」


—---------------------------


side 杉亨二


 正直、ガッカリしていた。なんで俺がこんなガキの相手をしなきゃならんのだ。確かに洋算を解く速さは凄かった。そこで驚いて引き受けた俺を叱りたい。


 かのご高名な内田様からの依頼と、師匠から聞いてそれだけで昂ってしまった。なんなんだ、このガキは。やる気があったのは始めだけ。明らかにやる気がない。こんなことなら、家で書を読んでいた方がよっぽどタメになる。初歩の初歩でいちいち止まる。大体蘭学を学ぼうとする人間なら、誰もが必死になって学ぶのが普通だ。それがなんだコイツは。


 もう良い。三ヶ月の約束だ。それまでの我慢だ。子守料として、貰えるもんだけ貰ってさっさとずらかろう。これからもこういうことがあるかもしれない。その勉強のつもりで、週2回、我慢しよう。途中で辞して師匠に迷惑を掛けるわけにはいかない。




 分析だ?このガキ、なんて生意気な。俺が長崎で身に付けた表現だったり発音だったりを必要ないだと?それを欲しがって、江戸で名のある蘭学者が訪ねてくることもあるのに。それなら俺である必要もないじゃないか!大体、師の教育方針に注文付けるなど、聞いた事もない。内田様は弟子の教育すら出来んお人だったとは。


 いかん、取り乱すな。コイツはあと二ヶ月の付き合いの金蔓だ。我慢だ。師匠の顔に泥を塗るな。師匠と内田様がいなければ間違いなく殴っていそうだ。こんなガキの相手するために江戸に来たわけじゃないんだけどな。




 なんだ?急に読める様になったのか?訳せる量がどんどん増えていってる。物理とはなんだ?化学?これは錬金術の意ではないのか?圧力?体積?そんな単語あったか?これか、この単語を圧力と訳したのか?圧力とは何だ?気圧?気温、これは暑さ寒さのことではないのか?こいつはなぜこんな訳し方を出来るんだ?つい二ヶ月前まで、ただの出来損ないだったのに。俺の知らん言葉が次々と。訳し方の分からんかった単語を、俺の知らん言葉に訳されても正しいのかどうか判断つかん。


 なぜ急に蘭語に強くなった?分析結果?必要条件?最低条件?こんなに急に蘭語に強くなったのに、読めればそれで良い?読めるだけで構わない?話すことも聞くことも書くことすら不要?何を言っている?なぜここまで出来る様になったのに極めようとはせんのだ?コイツの冷めた態度はなんだ?


 自分の習得方法は邪道?本来は俺の身に付け方こそが正道だと?なにを言っている?ではなぜ、正道を教えようとした俺が否定され、邪道のお前が俺を圧倒するんだ。


 読み方が分かったから、後は自力で何とかなる、、、だと?分からないことが出て来たら連絡するから助けてくれ?


 俺はお前の様な意味不明なヤツとは、もう付き合いたくない。コイツは何なんだ?結局分からん。江戸にはこんな訳の分からん奴がいるのか?恐ろしい。自分の蘭語を過信してた。もっともっと精進せねば。


ここから1日1話ずつの投稿となります。

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― 新着の感想 ―
昨晩、あまりの面白さにイッキ読みしました 今日も帰宅後に一話から読み直しました 砂浜で宝石を見つけた気分です これからも意欲的な執筆をお願いいたします
いつか主人公殴られる日が来ると思うw
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