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寺子屋の師匠がよそよそしい。既視感あると思ったら、あれだ。関係ない生徒をついでに叱って、謝れない教師。生徒側視点だけならクソ教師だろうけど、一度大人目線を知ると、さもありなんだ。一人の子育てだけで理解できる、それが30人以上ともなれば、そりゃ、ね。だから、やられたことに対しての怒りはあるけど、個人的には別に怒ってないよ。多分、肩書きからして、完全にビビり倒すレベルなんだろう。それにしては、この師匠のわりにって言ったら失礼だが、腹芸が過ぎる流れだった気がする。
あのあと1週間くらい、正直ビビってた。突然役人が来て連れて行かれるんじゃないかとか、寝てる間にどっか連れてかれるんじゃないかとか、いつの間にか殺されるとか。でも結局俺に起きた悲劇は、勝太さんのしごきだけ。そして、石田さんは前にも増して優しくなった。
そして恐怖心も薄れてきて、すもも祭りの時期が来た。また大国魂神社へ。どうも美祢も楽しみのようだ。「広い市のあった神社だよね。覚えてるよ」だって。残念、その記憶の中には俺はいないんだ。だって俺、あそこ行って、市を見たことないもん。美祢もあのウインドウショッピングを楽しめるのか。ごめんよ、兄ちゃんはそれを楽しめないんだ。今回はどうやって女性の買い物から逃げよう。弥一も懲りたのか、いとこと剣術稽古するなんて言い始めた。
ということで、女性陣と俺が神社へ。俺はその後、1人で境内へ。父と弥一が父の実家へ、弥一を置いたあと父は神社へ。俺拾って、女性陣に合流、弥一を回収の流れに決まる。ってことで、もう何度目かの神社。ん?あれ数独?9×9の数独がある。まだ簡単だけど。どういうこと?なんで?爺様はどこだ?
「おぉ、藤二、久しぶりじゃの」
「こんにちは。お久しぶりです。あの、会って早々なんですが」
「数独のことか?」
「そうです。あれは?」
「年末にお前からもらっただろ?あれをワシが算額にして奉納したんじゃ。そしたらの、それがどうも評判になってな、関流で今、算法とは別に数独も研究しとるそうじゃ。まずかったか?」
「いえいえ、もう81マスが出来たんですか。凄いですね」。
「なんじゃ、その口ぶりだとお主も八十一マスを作っておったのか?」
「いえいえ、結局作れませんでしたので、16マスを爺様に渡したんです。上手いこと、ちょうど良い難易度にすることが出来なくて」。
「ほう、ちょうど良い難易度とな」
「はい。見るだけで埋まるマスが少なければ少ないほど、しっかりと手順を追わねば埋められないほど、良い問いです」。
「まるで良い問いを知っておるような口ぶりじゃの」
やべー、知ってる人だからって油断しすぎた。作れないのに知ってるって、明らかにおかしい。
「ま、それを関流の者に伝えておくとするか。で、今日も一人ではなかろう?」
「はい」
ってな感じで今日も今日とて雑談。
「そういえば、幕府の役職のある内田殿と爺様は知り合いなんですか?」
「そうじゃ、お主の所へ行ったじゃろ?」
「はい、そんな偉い方との話し方なんて知らないんで困りました」。
「子供みたいなことを」
「子供です!」
「そうじゃったの。たまにそんなことないような気がするもんでの」
あえてスルーで。
「失礼な」
「そういえば、寺子屋の師匠にいろいろ指南したの爺様でしょ?ウチの師匠にしてはあまりにも手際が良すぎて、逆に怪しかったですよ」
「子供はそういうことにいちいち気付かんから子供なんじゃぞ。ま、あっちに行くとするか。来るかも知れぬと思って菓子を用意してあるぞ」
「お菓子に騙されましょうか」
「そういうとこが子供らしくないと言うておるのだ」
結局、父が迎えに来るまで談笑。
「あっ、父が迎えに来ました」
「そうか、ちとお前の父上と話があるゆえ、そこで待っておれ。少々長くなるかもしれぬから、ワシの分の饅頭も食って良いぞ。算額も増えておるし、ゆっくり見ておれ」
本当に今日は父と爺様の話は長かった。
女性陣が来てもまだ話し込んでた。分かりづらいけど、父の表情が困ったり喜んだり苦悩したりしてるくらいは分かる。女性陣と一緒に饅頭を食べながら待ってた。
やっと話が終わったみたいだ。もう夕暮れも近い。急いで弥一を迎えに行くが、結局タイムアップ。弥一は待ちくたびれたのか、いとこと2人並んで昼寝してた。急遽泊まらせてもらうことになった。
だけど、爺様と話してからの父の様子がおかしい。奥へ行って、伯父さんと爺様と話し込み始めてしまった。子供たちはそんなこと関係なく、ワイワイしていただけだが。
翌日、まだ様子のおかしい父。
その翌日には、母と祖母の表情もおかしくなった。何が起きた?




