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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


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side 内田五観


 この和尚、ビビりすぎだろ。そんな怖いか?やっぱり幕府を出すのはやり過ぎだったかな。でも関流の名前だけで行くとなると、何故ワシが、となりかねん。なにより関流のためというよりは、藤二の才を見極めたいって興味が一番なんだが。


 あれ?藤二なんだか怒ってるのか?ちゃんとワシのこと覚えてるし、お礼も言って来たのに。そんなに怒らせることしたか?


 「…なんとお呼びすれば良いですか?」だと?この間、内田殿と呼んでただろ。あれか、ちゃんと説明せんかったからか?でも、説明したらしたで構えさせてしまうだけだろ。だから言わなかったのに。


 そんなにヒマなわけでもないから、とりあえず持って来た問いを解いてもらおう。もはや解などどうでも良い。その過程こそを見たいんじゃ。藤二の言う「美しさ」の深淵を、とくと見せてもらおう。


 問いを見ずして目を瞑り、何をしておるのだ?儀式が何かか?外に行って良いか?バカを言うな。それはダメじゃ。過程を見れればなんだって良い。解法の解説?そりゃあるに越したことはない。というか、それを書くのが解法ではないのか?


 急に立ってどうした?子供が石盤なぞ重いもの持とうとするな、危ない。そんなことで怪我でもさせたらどうなることやら。


 おっ、ようやく問いを見始めた。ん?すぐに取り掛かるのではなく、全ての問いを確認しておる。あれも、藤二なりの向き合い方なのか?ん?筆は取らんで最初に石筆?


 洋算の文字ではないか!おお、あの◯!!あれの意味を掴むのに半年掛かったぞ。それを使いこなしておる!!・もそうじゃ。なぜあれを理解できるのだ???


 見たことないミミズも多く使っておる。二乗、三乗次々と使っておる。あれはずっと分からず、恥を偲んで小野殿に仕方なく聞きに行き、ようやく理解したのに。ミミズの三乗、一体何をしている?


 解が合うておる…


 どうやって算木も使わずに、こんな速さで解いておる?見ていても全く追いつけん。なんじゃ?何を見ておるのだ?


 あぁ、消すな!消すな消すな!!!


 全部紙にせよ、と言えば良かった。


 



 ん?全てに「ニ」が入っておる。きちんと縦に並んでおる。これが藤二の言う「美しい」なのか?「ニ」を並べるだけでか?




 無理じゃ、この時間だけで理解しようなんて到底無理じゃ。神主殿の言うてた「理外」の正体はこれなのか?駄洒落のようなつまらぬこと考えてたら消されてしまった。






 ん?終わり?まだ解いておらぬ問い、八つほど残っておるぞ?



—-------------------------


 気分はさながら期末テストか?でも一対一だと、追試っぽい雰囲気でやだなぁ。


 いきなりの三次関数。解き方1ヶ月前に思い出せたんだよ。もう大丈夫。この脳なら今んとこ、一度覚えれば忘れない。チラッと内田殿を確認。目を丸くしてる。「異端だ!」とか「隠れキリシタン」とかにされちゃうのかな?


 図形。補助線を引く閃きも、始めは忘れてたんだよ。今は大丈夫。


 また三次関数。算法ってこういうとこあるよな。同じ公式で解けるものを、出されたお題によって解き方変えろ、みたいなルール。ルールなのかよく分からんけど。




 時間にして60分は掛かってないかな。12問は解いた。ここまでなら聞かれてもちゃんと答えられる。はず。


 「出来ました。これ以上は解けません」。











 無言。なんで俺の周り、無言の人ばっかり集まるの?婆様の周り、無言になる人いないのに。



 「あのー、内田殿?」


 「んっ?あぁ、すまんかった。解いていない問いに関しては解けぬということかな?」


 「いえ、解けます。解けますが、何故解けるかを問われると、その説明が出来ません。なので、解きません」


 「は?説明出来ぬが解ける?何を言っておるんじゃ?」


 「ですから、説明が出来ないため、聞かれても答えられぬ。これは内田殿に対して不誠実。ゆえに、解きません」


 「いやいや、解いてくれ。聞かぬ、聞かぬから」


 「それでしたら、まぁ、はい…」。


 追加5問確定。大体さ、球の表面積とか、体積とか、公式覚えるだけだからさ、「なぜこの公式で解けるのか」までの記憶はないよ。そりゃ無理だって。学生時代だって、それを説明出来たかどうかが怪しいもんだ。確か積分使えば出来たはずなんだけど、まだ微分積分のやり方、思い出せてないんだよ。解けないと判断した問題、まさにそれ。思い出せない、覚えてない。だから解けない。


 「終わりました。残りの2問はまだ解法を見出せてません。これは本当に解けません」。



 目見開いて口開けてる。おーい。目の前で手を振ってみた。



 「そ、そうか。分かった」。


 急に喋んなくなっちゃったよ。どうすりゃ良いのかね、これ。やっぱりやりすぎちゃったのかな?どう考えてもこの世界ではおかしな解き方だもんな。また狐憑きって言われたり、石投げられたりすんのかな?家族にだけは迷惑掛けるのやだなぁ。


 2人無言で石盤を戻す。






 また無言だよ。もう勘弁してくれ。







 「あのーー、剣術の稽古もあるので、そろそろーー」



 「あ、あぁ、そうじゃの。時間取らせて悪かった。これは駄賃というわけではないが、褒美だと思ってくれ。饅頭でも団子でも買って、家族への土産にしなさい」。


 さっさと帰る時には剣術って言葉は便利だ。本当は今日ないけど。嘘も方便。



 思ってたよりもらった駄賃が多かったので、饅頭と団子、両方買えた。踊り狂う3兄弟。そこはかとない将来への不安を抱えながら。


 俺、殺されたりしないよね?


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