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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


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 side 内田五観


 外山を叱りつけるつもりだった。だが、あの憔悴しきった姿、苛立ちをぶつけようと握りつぶし、それでも耐え、破ろうとしては踏みとどまった。最後の最後で踏ん張った。火熨斗でやや焦がしてしまった跡からも、端が切れた箇所の数からも、その心中が荒れに荒れたことだろう。


 確かにこれは、算法としては認められない。関流とか最上流とか、その流派の違いどころの話ではない。その生を算法に捧げると心に決めた人間ほど、これを認められないのも分かる。とりあえず外山を少し休ませることにし、塾の運営の負担だけでも軽くしてやらねばと差配をする。


 天文方として洋算を学んでおいたことが、仕事以外に役に立つとはな。この解は洋算の手法に限りなく近い。それよりこの数独、これは本当によく出来ている。これは八十一マスでも作れるのではなかろうか。斬新とはまさにこのこと。洋算には手法の違いで唸らされることはあったが、数独は手法云々ではない。順序立てて考える。ただそれだけなのに、最初に書かれる箇所と数でいくらでも難易度を変えられそうだな。


 ここに来るのも久しぶりだが、おそらく外山は多少のことをしでかしたかもしれん。ここは様子見で下手に出た方が良いかも分からんな。



—------------------------------

内田五観と神主



 「久しぶりですな。だいぶご無沙汰してしまって」


 「幕府のお偉いさんにこんなとこまで足を運ばせて悪かったの」


 「いえいえ、とんでもない。我々関流とこちらの神社、持ちつ持たれつではありませんか。神主殿の目利きに、ワシらも随分と助けられておりますゆえ。むしろ多忙を言い訳になかなか顔を出さずに申し訳ない」


 「ま、そんな話より、その感じだと見たんじゃろ?」


 「ええ。なんですか、あれは。今回ほど神主殿の目利きに感謝したことはないですよ。外山も相当弱ってましたわ」。


 「お主が見たい物はあちらにある。茶でも飲みながら話すとしようか」。


 「数独とやらも見ました。あれはあれで凄い。見事な数字を使った遊戯。驚きましたぞ」。


 「そうじゃろ?きちんと見ればそう見えるはずなのだが、外山殿はまだまだ若いの。自分の信じる道、信じたいものしかまだ見えぬようじゃ。まだまだ宗家預かりの立場も譲れんぞ」


 「天文方のお役目にばかり目が行って、弟子の指導が足りてなかったようです。申し訳ない」。


 「いやいや、どちらにせよ、あれはお主じゃなければ判断つかん。ワシはあれをどう見れば良いのか分からんのだ」。


 「拝見させてもらいましょう。……なっ!えっ?はっ?」


 「そうじゃろ?流石にこれは刺激が強すぎると思ってな、外山殿には渡せんかった。実際に書き写して改めて思ったが、これはこれでスジが通っておる。ただワシには理外というだけでな。こやつにしか分からぬ理にて、算法の問いを算法以外の理で解いておる。そして見た感じ、解は合うておる。これもまた、算法の不可思議なところよの。」


 「私が思いますに、算法は関流、最上流、そのほかの流派いろいろございますが、結局のところ解法が違えど辿り着く解は同じ。書で言うなれば、ただ書き順の違いだけ。最後は同じ字になるような物。だが、これはどう判断すれば良いのやら。これは預かってよろしいですか?」


 「これを渡したいためにお主を呼んだんじゃ。持って行ってくれ。もうワシの手を離したい」。


 「神主殿も、外山ほどではないものの、だいぶ参っておる様子ですな」。


 「そりゃそうじゃろ。これから書き入れ時って時分に、数独とこれを受け取ってしまったんだぞ。おかげで、急ぎ算額を書き据付なんて余計な仕事まで増やしおって」。


 「ん?ということは、この解と数独、同じ御仁が?」


 「そりゃそうじゃろ。理外の生き物をこれ以上増やされたら堪らんわ」


 「数独はどういう経緯で?神主殿が奉納できそうな問いを考えよ、とでも指示されたのですか?」


 「いやいや、藤二に以前、ちょっとした贈り物をしたんじゃ。そしたらその返礼だと申しおった」。


 「返礼?では本当に算額にするつもりもなく、神主殿があの遊戯の不可思議さに気付き、奉納という形にされたのか」


 「さよう。お主もあれは面白いと思うたか。外山殿は見もせず、方陣の出来損ないと称しておったが」


 「神主殿、それくらいにしてやってくだされ。あやつもあれはあれで関流算法に真面目なヤツですので」。


 「すまん、ワシもまだまだのようじゃ」


 「それでその藤二殿、どんな御仁なので?何故これほどまでの異質な才が今まで隠れておった?話の様子から、贈り物をされるほどということだと、何やら近しい縁かと。どれほどの付き合いで?」


 「そうじゃ、それをまだ伝えてなかったな。藤二と初めて会ったのは、一年半程前かの。そして、一年ほどしてから問いを渡し、年末に持って来たな。その時に塵劫記が終わったと申しておったので、発微算法をくれて喜んでおったわ」


 「ほう、塵劫記を終わらせたと。ですが、一年半も掛かるなら特別な才とも思いませぬが」


 「初めて会うた時にな、『読めぬから解けん』と言っておったんじゃ。で、父親が塵劫記を読み物として与えて、それから読みを覚えたと言っておった」。


 「読めぬ?読み物?どうも話が見えぬのですが…」


 「おぉ、肝心の藤二について説明してなかったな。藤二はな、府中から日野に婿入りした、ワシの弟子の息子じゃ。今は七つか八つか、それくらいじゃろ」。


 「は???こども?えっ???」


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