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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


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side 内田五観


 何やら大国魂神社が騒がしい。確かに今年の恵方は南西、江戸市中からは大国魂神社ちょうど恵方だし、行きやすい距離だ。あの神主も、今年の年明けはウハウハだろう。


 ってそんなことじゃない。色んな方面から「新しい」、「見たことない」、「流石は関流」、「やっぱり算法は関流」などなど。関流宗家預かりとしては、この賞賛は気持ちが良い。









儂が絡んでいるのならな。




 「内田殿」。唐突に声を掛けられる。よりによって最上流の宗家預かりだ。


 「何だか関流の調子が良さそうで羨ましい限りですな。市中でもちきりですぞ。何でも今までにない算法とか?そんなものを隠し持っておいたなんてお人が悪い。流石は天下に名高い関流、次々と人が出て来て羨ましい限り。跡を継げる人材を分けて欲しいくらいですな」。


 儂は何も知らぬ。外山からも何も聞かされていない。一体何が府中で起きているんだ。だがそれを悟られる訳にはいかぬ。「最近は何故か入塾希望が増えましてな。増えたら増えたで大変ですぞ。最上流こそ、もっと人を広く取ればいかがですか?」


 「増えたら増えたで心労が絶えませんのでね。関流みたいに師範代が多ければ苦労はしないんでしょうが」。


 ネチネチしつこい奴だ。「算法の有用さを広く伝えるのも、我が流派の大事なお役目と思っておりますのでな、では」。


 最近は幕府の仕事にかかりっきりで、完全に流派のことは外山に任せている。アイツならワシの教えを完全に理解し、間違いなく次の関流を担える。翻意もない、算法に対し実直で真面目な男だ。でも、なぜ何も報告がない?新しい算法が生まれたならば、間違いなく報告があるはずだ。


 そんなモヤモヤの日々を過ごしていたら、ようやく外山から文が届いた。なになに、神主が会いたがっている、宗家預かりにしか渡せぬものがある、自分では判断できない、今まで出会ったことがないものと出会ってしまった、神主は憑かれてしまったのか、もしくは自分が憑かれたのかもしれない、意味が分かるが分からない。





 ええい、一体コイツは何を言っているんだ。こんなもの文でも何でもない。こんなことでは天下の関流を任せられんではないか。




—-----------------------------------


時間が遡り、2週間ほど前の神主と関流筆頭の外山殿



 「神主殿、そろそろお話を聞かせてもらいたく参った次第です」。


 「わざわざ足を運んでもらって悪かったの。また遅くなってすまんかった。今年の恵方からして、忙しかったのは分かっておると思うが」。


 「ええ、だからこそここまで待ったんですよ」。


 「何をそんな喧嘩腰なのじゃ?」


 「そりゃ怒りもしますよ。なんですか、あの数独とやらの算額は?関流のお膝元であんなわけの分からんもん奉納されては困りますな」。


 「これまた妙なことを。いつからこの神社は関流のための神社になったのじゃ?ワシは神には仕えておるが関流に仕えた覚えも、まして神社を関流に売るなどという罰当たりなことをした覚えもないぞ」。


 「確かに言い過ぎました。いや、しかしですな」。


 「分かっておる、分かっておるから、ちと落ち着け。お主がその調子なら、ワシはもう何も喋らんぞ。そうしたら困るのは内田殿でありお主だろ。良いから落ち着け」。


 「…申し訳ありませんでした」。


 「お主、あの算額をきちんと見たか?」


 「かような方陣の出来損ないのようなもの、見るまでもなくわかります!」


 「頭が固いのぉ。まだ若いのにそんなに固くしてどうする?もっと柔軟に考えんと、解けるもんも解けんぞ」


 「そんなことは今は関係ありますまい!」


 「じゃから落ち着けって。あれは良くできておるぞ。方陣に似ているが、方陣に非ず。あれはただ、数字を用いた遊戯じゃ。算法のように、秘伝の解法などいらぬ。順を追って考えれば解ける。だが、考え方を違えると解けん。その部分だけは算法と似ておるかもな」。


 「そのような物を何故奉納された?」


 「あのな、勘違いしているようだから改めて言うとくが、何を奉納されようが、何を飾るのかを決めるのはワシじゃ。そこは関流の関与するところではない。事実、お主らのもあっちに飾っておる」。


 「その数独とやら、もしや最上流から?」


 「そんな狭い了見の話をしておらん。いい加減黙って聞かんか!」


 「……すいません」


 「とある人物が数独を持って来た。ワシが以前、ちょっとした贈り物をした、その返礼としてだと言っておった。その人物には、お主らから渡されておる算法の問いも、一緒に渡した。そして、その解が今ここにある」


 「見せて下さい」


 「今日お主と会って、お主を見て、渡す気は無くなった」。


 「なぜですか?神主殿が目利きし、問いを渡し、解があるならそのまま渡してもらえれば…」


 「危険じゃ、なんならお主は破り捨てかねん。会ってそう思った。お主は関流の算法に実直な男じゃ。だからこそ、これを認められんはずじゃ」


 「あの問いは関流の問い。ならばその解も関流の解のはず。見せて下さい」


 「そうじゃ。その話のスジは通っておる。だがな、勘違いするでない。ワシは内田殿にその依頼をされたのじゃ。筆頭のお主ではなく、宗家預かりの内田殿とな」。


 「なっ、内田先生に直接とおっしゃるのか?私は内田先生から直接門下を任せられているのですぞ!」


 「それはそちらの道理。ワシの関与するところではない。どうもお主は頭に血が上り過ぎている様子。解を直接は渡さん。その旨内田殿に伝えてくだされ」。


 「しかし、何も分からぬ状態でお忙しい先生に来いなどとは…」


 「分かっておる。こちらに数独と、解の一部を書き写してある。お主にはそれを渡す。持ち帰ってじっくりと見てみよ」






 「分かりました。ですが、先生に便りを出すかどうかは、それを見させてもらってからの判断とさせていただきます」


 「構わぬ」


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