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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: dora


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 何故だか分からんマイルールが、いつしか出来上がってた。それは、爺様に報告しに行くのは、爺様から貰った問題を解き終えるだけではなく、塵劫記も終わってからだ、と。だから、同じくらいのタイミングで終わらせたいというルールに、何故か縛られていた。そして、その日は近付いている。


 剣術道場は、大して変わりない。真面目にやる。それだけ。ごくごく近くに、好きと才能が同居してる奴がいると、そいつが眩しく見える。でも自分は自分。だから弥一よ、そいつと自分を比べちゃだめだぞ。腐ったらそこから伸び悩むようになるからな。って親みたいなことを思ったりもする。


 宗次郎に声を掛けられた。「藤二、お前剣上手いな」。子供の声は時に残酷だ。そして本人こそ、その言葉の残酷さに気付かない。俺は剣の振り方、止め方、足捌きを知っている。知っているから出来る。それだけだ。知らないことは何もできない。だからこそ、天才宗次郎の言葉は嫌味にすら聞こえる。


 前世の剣道の先生は、立ち姿から綺麗だった。竹刀を振る姿、止める姿、所作、その全てに憧れた。その姿を愚直に追い求めた。その一方で、明らかに汚い剣道をしてる奴に試合で負ける。その事実を受け止めきれないことがあった。「勝つための剣道を求めちゃダメだぞ。基本が出来てこその剣道だ」。勝てば良いと思って臨んだ試合の後に言われた言葉だ。


 「綺麗≠強い、本当に強い=綺麗」。これが前世で出した結論。故に自分は綺麗さを求めた。求めた結果、周囲との認識がズレまくり、結局諦めた。言い方悪いが、ちょうど良いタイミングで怪我をした。


 そういう気持ちを無視するかのような、勝太さんのスパルタ。イヤになる。体作りと体力作り、と割り切って付き合うしかないのかな。チラッと石田さんを見ると「そんな追い込んでやるな。みんながみんな、お前みたいに何としてでも剣で生きていきたいって思ってるわけじゃねーんだぞ。はい、休憩休憩」。いつもこの流れだが、石田さんがいない日は地獄。塵劫記に向かう体力が残らない。「知ってるか?俺には立ち向かうべき本当の敵がいるのに、ヘロヘロになるから立ち向かえないんだぞ」と言ってやりたい。怖いから言えないけど。



 おっさんが寺で騒いでから、絵馬を警戒するようになった。というか、解く価値を見出さなくなったって表現が正しいかもしれない。あのレベルでの算額絵馬ごっこは、もう飽きた。解いてもらえないのが悔しいなら、もっと骨のある問題を出せば良いと言ってやりたい。そう考えていたら、いつの間にか俺が解いた問題含めて消えていた。誰か捨てたのかな?それはそれで、不謹慎だとは思うけど。


 ある日、寺子屋から帰ろうとしたら師匠に呼ばれた。「もう年の瀬も近いし大掃除をしてたんだ。いつも寺子屋を手伝ってくれてるからな、算法の本が出てきたからお前にやろう。多分先代が揃えたんだろうが、ここで眠らせておくよりも良いだろう。もしかしたらお前みたいな者にやるために、ここにあったのかもしれんな」。





 「括要算法」




 その本のタイトルだ。ザラっと眺めた感じ、確実に算法書だ。塵劫記終わらせちゃうの勿体無いなんて、意味はないが感傷的になっていたタイミングでこのプレゼント。キタコレってやつだ。何度も何度も何度も何度もお礼を言い大事に抱えて帰宅した。塵劫記をさっさと終わらすために。どうせ途中で美祢に絡まれて終わるんだけどね。良いんだ美祢なら。どうしても絡まれたくなければ、父の仕事部屋へ行けば誰も入って来ない。いつの間にかこの部屋の第二の主になっていた。




 ついにその日がやって来た。「終わった…」。多分足掛け1年半くらい。達成感凄い。やれと言われたわけじゃない。強要されてない。ただ欲望のままに算法と向き合った。改めてこの和算という学問、凄い。算盤と算木と呼ばれる計算道具だけで、良くもまあここまで精密に出来るもんだと感心する。大学数学かじったわけじゃないから分からんけど、やっぱり相当レベル高いと思う。円周率を手計算で出してるなんて、勿論古代ギリシャでも同じだけど、ある種取り憑かれた人に違いない。俺にはそこまで出来ないなぁ。こんな効率の悪い計算方法でやり続けるなんて尊敬しかない。


 父に神社に行きたい旨を伝えると、何も聞かれることなく「分かった」と。正直拍子抜けだ。理由聞かれたりするのかと、色々考えてたのに。年始は忙しいだろうから、年末にでも年の瀬の挨拶を兼ねて、また府中へ行くことが決まった。


 「あと一つ、見てもらいたい文章があるんですが…」


 せっかく爺様からプレゼントを貰ったんだ。ちゃんとお返しをしないと。


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