第456話 最大の脅威が貴様だ
セレンの姿に化けていた魔王軍の幹部だというダークエルフが、僕の自宅にまで乗り込んできた。
魔法で作り出したものなのか、放たれた黒い刃が僕のお腹に突き刺さって、そのまま体内にまで入り込んでこようとしている。
「うーん、ぜんぜん抜けない?」
「……というか貴様、先ほどから平然と会話をしているが、痛くないのか?」
「痛くないよ。だってこの身体、影武者だから」
「なに?」
驚くダークエルフに、僕は自分でも「ほんと理不尽な能力だよなぁ」と思いつつ教えてあげる。
「影武者を好きなだけ作り出せて、しかもそこに本体の意識を移して操作することができるんだ」
「ば、馬鹿な、そんなことまでできるというのか……?」
「うん。ついでに敵対的な存在や不法侵入者が近づいてくると、マップ機能で分かるようになってるんだよね。だからミリアに化けてても、すぐに分かっちゃったよ」
まぁ、たまにそのミリア自体が、マップ上で危険な存在として表示されることがあるけど。
「暗殺すら完全に防ぐなど、理不尽にもほどがあるだろう……っ!」
「……そうだよねぇ。あ、でも、さっき僕のこと、『村長様』って呼んでたよね? ミリアはあの呼び方しないから、どのみち見破られてはいたよ」
完璧に見た目をミリアにできても、さすがに中身まで完全にトレースするのは難しかったようだ。
というか、喋り方とかまでほぼ一緒だった時点ですごいけど。
「……ここはいったん退くしかなさそうだ。だが今回の件で、改めて確信した。やはり我が魔王軍の悲願を達するうえで、最大の脅威が貴様だ。必ずや全軍を挙げて、貴様を排除してみせる」
そう宣言した直後、ダークエルフの身体が足元にできた自分の影の中へと沈み込んでいく。
「逃がさないよ」
〈牢屋:脱出困難な堅固な牢屋。己の罪を悔い改めよ!〉
僕は素早く牢屋を設置する。
「っ、この一瞬で牢屋をっ……。だが無駄だ」
完全に影に隠れたダークエルフ。
声だけを外に響かせながら、その影だけが滑るように移動し、
「私のシャドウハイディングは、鉄格子など軽くすり抜けることが……なに? で、出られない!? どういうことだ!?」
「この牢屋、鉄格子のすり抜けを防止する機能があるんだ」
「隙間は確かにあいてるだろう!?」
「うん、でも、隙間がないのと同じ状態になってるってこと」
「どんな原理だ!?」
ちなみに鉄格子の間を抜けられるサイズの妖精アリーでも、この牢屋から出ることができなかったりする。
「ならばこの牢屋自体を破壊してやろう!」
ダークエルフの身体から濃密な魔力が高まっていく。
さすがは魔王軍の幹部、凄まじい魔力だ。
うーん、牢屋自体はかなり堅牢なので、簡単には破壊できないはずだけど、そもそもこんな狭い場所で強力な魔法を使ったりなんかしたら、本人がただじゃ済まないだろう。
色々と聞きたいこともあるし、勝手に自滅してもらうのは困る。
「施設グレードアップ」
膨れ上がったダークエルフの魔力が、いきなり風船から空気が抜けるように萎んでいった。
「なっ……何が起こった!?」
「牢屋内で魔法を使えないようにしたんだ」
この牢屋は、施設グレードアップによって、内部での魔法使用を封じる効果を付与することも可能なのだ。
「ついでに自害を防止する機能も付けておこう」
各地に救援のために派遣されていた各部隊が村に戻ってきた。
「えっ、村の中で魔王軍の幹部に襲われたっ? 大丈夫だったの!?」
「うん、攻撃されたけど、影武者だったからね」
セレンをはじめ、みんなが心配してくれたけど、僕は見ての通りピンピンしている。
「しかしまさか、直接ルーク殿が狙われるとは。さすがは魔王軍の幹部というだけのことはあるか」
「あちこちで情報を集めたみたい。姿を人間そのものに変える能力を持ってるから、そう難しいことじゃないはずだよ」
「なるほど。今やルーク殿の存在は、世界中が知るところだからな」
「……そんなの望んでたわけじゃないのに」
頷くフィリアさんに、僕は小声でぼやく。
「私の姿に化けていたようなのです。その美しさにルーク様が見惚れている隙を狙うとは、敵もなかなかの策士です」
「あんたが偽物だったら今すぐ叩き斬ってやるのに」
ミリアの補足に、セレンが思わず剣を握った。
「……で、そいつはどこにいやがる?」
「こっちだよ」
ラウルに催促され、ダークエルフを捕らえている牢屋のところへ連れていった。
「なるほど、こいつが魔王軍の幹部か。はっ、確かになかなかの魔力だな。しかしこうして敵に捕まっちまうなんて、幹部にしては随分と間抜けじゃねぇか、くくく」
「……貴様、この私を愚弄するか?」
ラウルに嘲笑されて、ダークエルフが鋭い目つきで睨みつける。
「煽らない煽らない。色々と話を聞きたいんだからさ」
「はっ、そう易々と喋ってくれるとは思えねぇがな」
ラウルの言う通りだった。
実は彼らが戻ってくるまでの間に、ネマおばあちゃんにお願いしてみたのだけれど、
「今まで色んな連中を拷問してきたけど、正直こいつは骨が折れそうさね」
と、その難しさを断言されてしまっていた。
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