第455話 なかなか侮れませんね
第一部隊、第二部隊の加勢もあって、都市パルスとローダ王国王都での大勢は決した。
魔族の大半は敵わないと判断して逃走、あるいは捕縛された。
さらに、それによって彼らの支配が及ばなくなったのか、押し寄せてきていた魔物も逃げ去っていったのだ。
すぐに第一部隊をバルステ王国に、第二部隊をゴバルード共和国へと再派遣。
そこでも次々と魔族や魔物を蹴散らし、あっという間に鎮圧してしまったのだった。
「クランゼールの帝都は元々放っておいても大丈夫そうな感じだし……問題は第三部隊が戦ってるモルコ王国の方かな」
地中海南岸部に位置する大国モルコ王都。
以前クランゼール帝国の侵攻を受け、属国化されてしまっていた国だが、今度はダイモン族の襲撃に遭っていた。
魔人とも呼ばれるダイモン族は、強靭な肉体と高い魔力を有し、言ってしまえば人間の上位互換のような魔族だ。
他の都市と違い、支援役の魔物がほとんどおらず、しかも百人にも満たないような部隊であったというのに、瞬く間に都市内に侵入し、一時はその中核にまで迫っていた。
そこへ現れたのがバルラットさん第三部隊。
強力な助っ人であるラウルの奮闘もあって、魔人たちの快進撃がついに止まった。
ただ、そこから魔人と第三部隊の間で、一進一退の攻防が繰り広げられる。
高い戦闘力を持つ魔人の集団が相手では、いかにラウルといえ、そう簡単には打ち崩せなかったようだ。
第三部隊はポーションで回復しつつ戦っているのに、魔人にはそれがない。
それなのに疲弊している様子も負傷で動きが鈍くなっている様子もまるで見えず、信じられないタフさだ。
「というわけで、みんなで加勢しに行って!」
それでも第一部隊と第二部隊も送り込むと、さすがの魔人たちも大いに動揺した。
「また新手か?」
「しかも強い」
「撤退だ。さすがに敵わぬ」
彼らの判断は早かった。
即座に踵を返すと、散り散りバラバラに逃げ出したのだ。
恐らくあえて分散したのだろう。
結果それがこちらの判断を迷わせ、タイムロスを与えることになった上に、追跡を難しくしてしまった。
どうにか手分けして後を追いかけていくも、建物の陰などを上手く利用しながら逃げられ、ことごとく見失ってしまう。
「ちっ、逃げ足の速い連中だ」
「しかしあの決断の早さ。なかなか侮れませんね。戦闘能力だけだと考えていては痛い目を見ます」
ラウルが腹立たしげに舌打ちし、マリンさんは少し感心したように頷く。
僕のマップ機能を使えば、魔族の居場所がリアルタイムで手に取るように分かるのだけれど、生憎と常に移動し続けているため言葉で伝えるのは容易ではない。
街中のどこかに隠れ潜むのを待つとしよう。
「あ、そのまま街からも撤退していくみたい」
どうやらいったん街から完全に逃走するようだ。
高い身体能力を持つ魔人たちは、街を守護する防壁を軽々と乗り越えていく。
「簡単に防壁を突破できるなら、わざわざ街に隠れておく必要もないわけか」
「ふぅ。とりあえず何とかなりそうだね」
いったん宮殿最上階の自宅に戻ってきた僕は、安堵の息を吐く。
各地が同時多発的に魔族と魔物の襲撃に遭うなんて、一時はどうなることかと思ったけれど、みんなの頑張りのお陰で最低限の被害に抑えられそうだ。
後は捕まえた魔族たちを問い詰めれば、魔大陸のどこに魔王がいるのか分かるかもしれない。
すでに魔大陸に上陸している父上たちを追って、その情報と共に後続部隊を派遣できるだろう。
「村長様、お疲れ様です」
「ミリア?」
僕が戻ってきたと知ってか、ミリアが部屋に入ってくる。
どうやら紅茶とお茶菓子を持ってきてくれたようだ。
「状況はいかがでしょう?」
「うん、どうにか無事、各地の襲撃を抑えられそうだよ」
「……そうですか。さすがは村長様です」
ミリアが頷いた、次の瞬間だった。
「もっと早く仕留めておくべきでしたね」
彼女の素早く手が閃いたかと思うと、放たれたのは黒い刃だ。
それが僕の腹に突き刺さる。
「ミリア……っ? 何をっ……」
「ふふふ……ははははっ! いかに規格外の能力を持っていようと、こうして懐まで入り込まれたら一溜りもあるまい。少しは周囲に手練れの護衛を残しておくべきだったな」
ミリアの姿が靄のようにぼやけたかと思うと、やがて別人の姿へと変貌した。
褐色の肌に、長い銀髪、瞳は赤みを帯び、耳はエルフのように先端が鋭く尖っている。
現れたのは、魔族の一種、エルフとよく似た外見を持つ、ダークエルフだった。
男女の区別が難しいけど、たぶん女性だろう。
「我こそは魔王軍幹部〝六魔将〟が一人、ダークエルフのビビルバ=ルバルベ=ベベル=バルルベ=ルベだ」
ビビルバルバルベ……?
長いだけじゃなくて、同じ言葉が繰り返されてるからエルフたちより覚えにくい!
「何で魔王軍の幹部が、僕を……?」
「人間どもに紛れ、情報を集めたのだ。まるで神のような、いや、神そのものの力を持つ者がいるとな。この私がけしかけた樹海の魔物も、貴様がその力で蹴散らしてしまったそうではないか」
「あれって、魔族の仕業だったんだ」
「せっかく他の六魔将に先駆けて、盛大な戦果を挙げてやろうとしたのだがな」
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