第452話 手を繋いでください
父上たちは本気で魔王を倒すつもりらしい。
「仕方ないなぁ……どうせ言っても聞かないだろうし……」
「おい、何だ、その聞き分けのない子供に向けるような目は?」
僕のぼやきを聞き取って、父上が睨んでくる。
「もちろん無謀なことはしませんよ。敵地に乗り込むわけですから、いくら我々でも慎重に行かなければ生きて帰ってこれませんからね」
「ふはははは! 作戦は安全第一だな!」
「ほほほ、そういうあなたが一番、心配なのですけれどね」
「……最低でも……魔王と……相打ち……」
当然、父上たちだけに任せておくわけにはいかないだろう。
なにせ本当に魔王という存在が復活し、人類を滅ぼすことが目的だとしたら、僕らにも無関係の話ではない。
ただ、魔族に襲われている各地を放っておくわけにもいかないし、村としてどう戦力を分配して対応するのか、セレンたち狩猟チームが戻ってきたら、すぐにでも作戦を練らなければ。
なお、すでに影武者たちには、彼女らを連れ戻してくれるよう命じてある。
『各国にいる影武者たちは、状況をリアルタイムで報告して。状況が悪そうなところから、助っ人を派遣していくから』
『『『りょーかーい』』』
さて、それじゃあ要望に応えて、父上たちを魔大陸に送ろうか。
「なるべく早い手段がいい。空を飛んでいくか、それとも地下を通るか?」
「もっとずっと早い方法がありますよ。皆さん、手を繋いでください」
「……おい、冗談に付き合っている暇はないぞ?」
「冗談じゃないです。それが一番早いんですよ」
父上は眉間に皴を寄せながらも、四将たちと手を繋いだ。
大の大人たちが仲良く手を繋ぐなんて、なかなか見ない光景だね。
「じゃあ、行きますよ。瞬間移動」
一番近いネオンの腕を掴むと、瞬間移動を発動する。
視界が一瞬で切り替わった。
「っ? ここは……?」
「魔大陸……のはずです」
そこは海岸線だった。
周囲はごつごつした岩が転がる浜辺だけれど、すぐ近くは鬱蒼とした森だ。
「まさか一瞬で移動したというのか!?」
「はい。瞬間移動です。村の領域内ならどこにでも飛べます」
「……出鱈目にもほどがあるだろう」
父上は驚きつつも少し呆れている。
「ご覧ください。向こうに見えるのが、恐らく一瞬前まで私たちがいた大陸でしょう」
海の向こうにはうっすらと陸地らしきものが見えた。
間には何とも荒々しい海域が広がっていて、確かに普通の船ではこれを渡るのは難しそうだ。
「念のため、ここに拠点となるような施設を作っておきますね」
僕はホテルを設置した。
〈ホテル:宿泊・休憩用の施設。調整次第で多目的に使えるよ!〉
「探索に疲れたら、ここで休んでください。適当に食材も備蓄しておくんで、必要なら調理場で料理でも作って食べてください」
「「「……」」」
万一のときには要塞としても使えるだろう。
魔大陸は大陸と呼ばれているだけあってかなりの広さがあると思うので、どこまで意味があるか分からないけど。
「あ、そうだ。ついでにポーションもいくつか渡しておきますね。もし武器とかが必要なら……」
「もういい! ……十分だ。お前たち、行くぞ」
なぜか苛立った様子で、森の方へと歩いていく父上。
「ほほほ、なんだか、故郷の母のことを思い出しましたね」
「ふはははは! 俺もだ!」
そんな風に笑って、四将たちも父上に続く。
どうやらちょっとお節介を焼き過ぎたらしい。
……うーん、そんなにだったかなぁ?
「準備ができたら、村からも応援を送りますからね!」
そう最後に伝えてから、再び瞬間移動を使って村へと戻った。
「ルーク、色々と大変らしいわね!」
「セレン、帰ってきたんだ」
魔大陸に行っている間に、影武者が狩猟チームを連れ帰ってくれていたらしい。
「あんたの父親も来たのよね!? 大丈夫だったの!?」
「うん、今、魔大陸に送ってきたとこだよ」
そして村の主要なメンバーたちを集め、すぐにこれからの方針を話し合うことに。
「今のところ僕の知る限り、魔族の攻撃を受けてるのは全部で六か所。魔族たちの様子から、主要六種族ごとに分かれて襲撃しているみたい」
「単純に戦力を六分割するか?」
「いたずらに戦力を分けるより、集中させた方がいいんじゃないかしら? 戦いは各個撃破が基本よ。せっかく相手が戦力を分散させてくれてるんだし」
「だが、後回しにされた場所は被害が甚大になるぞ?」
「一応、住民全員に村人強化を使って、避難が迅速に進むようには促してるけど、そう長くは持続できないしね……」
そんな感じで喧々諤々、話し合った結果。
戦力を三つに分けることにした。
これなら分散され過ぎず、しかも各戦力が二か所ずつ対応すればいい。
六か所を、状況の深刻な順に並べ、深刻な方から送り込んでいくつもりだ。
「狩猟チームの三部隊を軸に分ける形でいいね」
元々三部隊の狩猟チームは、戦力が上手く三分割されるように人員を配置していた。
時間もないので、これをベースにするのが手っ取り早いだろう。
「第一部隊にはゴリちゃんとアマゾネスたちを、第二部隊には巨人兵や機竜を、第三部隊にはアレクさんたちを! それ以外で協力してくれる人たちは、機械的に配属させていく感じで!」
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