第441話 村長型巨人兵
やってきたのは国内の王侯貴族たちだけじゃなかった。
かつてこの村に使者としてやってきたローダ王国の貴族ガイウスさんや、エドウ国の藩主でアカネさんのお父さんでもあるマサミネさんなど、東西の各国から挙って要人が訪ねてきたのである。
「今日は吾輩の四人の娘も連れてきた。以前も少し話をしたと思うが、見ての通り器量に優れた子ばかりだ。ぜひ貴殿の嫁に」
「それは遠慮します」
「ルーク殿、ぜひ我が愚娘を貴公の嫁に」
「愚娘ってアカネさんのことですよね? 心から遠慮します」
……そして相変わらずこの手の提案をされまくった。
まぁ、政略結婚が当たり前の世界だし、仕方ないといえば仕方ないけど。
オオサクのヒデヨツ太閤やゴバルード共和国のペレサ首相など、トップが自ら祝賀のために訪ねてくるケースも少なくなかった。
「ふぅ……なんかすごく疲れたな……。でもさすがにこれで来そうなところは一通り来たはず……」
要人たちの応対で疲労困憊になった僕は、いったん自室に戻ってソファに寝転がった。
するとそこへミリアが声をかけてくる。
「ルーク様、建村三周年を祝うモニュメントが完成したようです。今からお披露目会を行うそうですので、ぜひ参加してあげてください」
「え、何それ?」
モニュメント?
そんなの聞いてないけど?
「村が企画したものではなく、有志たちが集まって自主的に作ったものですから」
「そうなんだ」
……うーん、なんか嫌な予感しかしない。
一周年のときは確か、高さ三メートルを超える巨大な石像が作られたんだっけ。
しかも僕の石像だ。
今でも村の中央広場に置かれているのだけれど、なぜかいつも人だかりができている。
観光名所の一つのようになっているのかもしれない。
「そういうのはもう要らないから、二周年のときはやめてって言ったんだっけ」
「そうですね」
「なのに何でまた今回?」
「有志たちが自主的に作ったものですので」
確かに自主的なものならそれを止める権利なんてないけど……。
ただ、それを言うなら一周年のときも誰の呼びかけか知らないけど、有志が勝手に作ったものだったはずだ。
連れてこられたのは高層宮殿のすぐ足元。
そこはちょっとした庭園になっているのだけれど、その一画に布を被せられた巨大な何かが置かれ、村の代表的な人たちが集まっていた。
「……やっぱり嫌な予感しかしない」
「ん、最高傑作」
自信満々なのは小柄なドワーフの少女ドナだ。
「最高傑作って……ドナが作ったの?」
「そう。もちろんみんなにも手伝ってもらった」
頷くドナだけれど、彼女は『兵器職人』という物騒なギフトを持っている。
一周年のときの石像も手先の器用なドワーフたちの手によるものらしいけど、彼女はそういう美術工芸を嗜むタイプではない。
そんなドナが中心的に関わって作った?
嫌な予感がさらに強まってきた……。
「準備オッケー?」
「いつでもいけます!」
ドナが布に隠された何かに向かって呼びかけると、中から返事があった。
誰かいるの!?
次の瞬間、布が独りでに動き出す。
いや、布の中で何かが動いているのだ。
「こ、これは……っ!?」
布を取り払いながら姿を現したのは、高さ十メートルを超す巨大な人形だった。
ただしその見た目は完全に僕の姿である。
つまり巨大な僕がずしんずしんと地面を揺らしながら歩いているのだ。
「……なにこれ?」
「ん、村長型巨人兵」
「その説明を聞いても訳が分からないんだけど?」
どうやらこの人形の機構は帝国の巨人兵そのものらしい。
外見だけを僕の姿にしたようだ。
「だから中に乗り込んで、自在に操縦できる」
先ほどの声は操縦者のものだったのだろう。
「魔力砲だって放てる」
「うーん、どこからツッコめばいいのか……」
とりあえず、戦える機能なんて絶対要らない。
「なお、オリジナルの巨人兵と比べて、三倍のパワー、三倍の機動力、三倍の耐久力がある」
「そんなに強くする必要ある!?」
「本当は空も飛べるようにしたかった。機竜の機構も入れ込んで」
「そんな機能はどう考えても必要ないよ!」
ミリアが目を輝かせて叫んだ。
「さすがはドナですね! 本当に素晴らしい! このルーク様型巨人兵は、ルーク様のお力を示すプロパガンダとしても使え――っと、ごほんごほん、これがあればこの村の技術力を世界にアピールすることができるでしょう!」
今なんか、すごく不穏な言葉が聞こえたような?
というか有志って言ってたけど、どう考えても主導したのはミリアじゃん。
「もちろん武力の象徴などではございません。むしろ平和の象徴と言ってもいいでしょう。ルーク様のお力と同じです。争いのためではなく、人々を守るためにその力を使う……。ルーク様の姿をした巨人兵を作ったのは、そうした意味合いを込めてのことなのです」
「ん、その通り」
ミリアの言い分に、ドナが強く頷く。
「決して三周年にかこつけて性能アップを図りたかったわけじゃない」
いや、君はどう考えてもそっちが本音でしょ?
そして僕の姿をしたこの巨人兵――〝スーパー村長〟と勝手に名付けられた――は、村の中を定期巡回することに。
結果、村人や観光客たちから大人気となり、村の名物の一つになったのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





