第439話 組織票が入っちゃったみたい
「栄えある第一位に選ばれたのはぁん……一万七千三百十二票を獲得した……」
一万七千っ!?
二位と倍近い差をつけているなんて。
一体誰だろう?
ミリアとセレンは個人的には応援したいけれど、少し厳しい気がする。
予選でも突破はしたものの、二人とも下位の順位結果だったし。
予選で上位だったのはすでに二位に入ったライオスさんの他には、キョウ国出身のメイさんや女装美人のハネスさんなどだ。
あ、ノエルくんの妹、ノニエも上位だったはず。
総合得点にあまり差がなかったので、この上位陣が優勝の可能性は高そうだけど――
「エントリーナンバー十六番、ミリアちゃんよおおおおおんっ!」
ええっ!?
ミリアが優勝……?
「ふふふ、ルーク様のメイドとして、これほど誇らしいことはありませんね」
「ちょっと! 何であんたなんかが優勝なのよ!? 絶対おかしいでしょ!? なにか不正をしたでしょ、不正を!」
喜びを露わにするミリアに対して、セレンが不正を訴える。
「不正? そんなことしませんよ。その証拠に、わたくしの優勝を喜ぶ方々があんなにいるでしょう」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!! 聖母様ああああああああっ!!」」」
観客からそんな大歓声が轟く。
聖母様……?
……どうやらミリアのことを慕う、大聖堂の信徒たちが彼女に投票したらしい。
これにはゴリちゃんも少し眉根を寄せて、
「あらぁん……自分が心から思う美に一票を投じてって言ってたのに……組織票が入っちゃったみたいねぇん……」
ちょっと残念そうだ。
「でも、仕方ないわぁ。一番多くの票を獲得したことは間違いないんだもの。それに考えてみたら、これはミリアちゃんの普段の行いの結果だものねぇ」
今やこの村の大聖堂には、世界各地から参拝客が訪れるようになったのだけれど、その筆頭神官がミリアなのだ。
彼女の敬虔な姿を美しいと感じた信徒たちが自発的に票を投じたのだと考えれば、コンテストの趣旨に反してはいない。
そうして結果発表は終了かと思いきや、
「最後に、特別賞の発表があるわぁん!」
「「「特別賞?」」」
ゴリちゃんの唐突な発言に、誰もが首を傾げる。
「ま~ず~はっ、主催者特別賞よぉん! これは主催者であるアタシが独断で決める賞よぉ! 選ばれたのはぁ……エントリーナンバー八十一番、ガンザスちゃんよぉん!」
弟子を特別賞に選ぶゴリちゃん。
えええ……と思ったけど、はっきり主催者の独断だって言ってるんだから別にいいか。
観客も「おいおい」という顔はしているものの、非難する人はいなかった。
ゴリちゃんの美的感覚だと、ガンザスさんが選ばれる納得感もあったからだろう。
「続いて、審査員長特別賞よぉ!」
「え?」
「というわけで、審査員長の村長ちゃん、好きな子を一人選んでちょうだい♡」
「ええええっ!?」
そんなの聞いてないんだけど!
セレンが僕の方を訴えるような目で僕を見てくる。
もし選ばなければ、後で何を言われることか……でも、審査員長としてそんな理由で特別賞を与えるなんて真似をしていいのだろうか……。
などと頭を悩ませていると、
「本選に出場した十人の中なら誰でもいいわぁん」
つまり一位から三位までに入った人でも構わないらしい。
そうと分かって、ミリアの熱視線が僕に突き刺さる。
……万一どちらかを選ぼうものなら、後から大変な展開になることは火を見るより明らかだ。
よし、絶対に二人以外にしよう。
個人的に予選で高い点数を付けたのは、メイさん、ライオスさん、そしてノニエの三人だ。
ライオスさんは準優勝だったし、他のどちらかにした方がいいかもね。
「じゃあ……エントリーナンバー四十二番、メイさんで!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
観客から歓声があがる。
ミリアとセレンががっくしと肩を落とすのを横目に、僕は選出理由を口にする。
「東方の華やかな着物がとても印象的でした。当時に彼女自身が決してそれに負けない品位と威厳を備えていて、高潔な美を感じることができました」
どうしてこの村に移住してきたのかは分からないけれど、きっと東方の名家出身のお嬢様なのだろう。
「っ……ルーク様にこれほど褒めていただけるなんて……この上ない喜びぢゃ……」
涙を流して喜ぶメイさん。
いやいや、そんなに感動するようなことじゃないと思うけど……。
審査員長特別賞のトロフィーを手渡すため、彼女に近づいていく。
……受賞者の全員にこのトロフィーが授与されるのだけれど、トロフィーの上にはそれぞれポーズ違いのゴリちゃんを模した人形が付いている。
「あれ? というか、どこかで会ったことある……?」
彼女のすぐ目の前まで来たところで、ふと違和感を覚えた。
「~~っ!? ききき、気のせいぢゃ!」
「ぢゃ?」
首を傾げつつもトロフィーを渡す。
審査員長特別賞のトロフィーのゴリちゃんは、投げキッスのポーズだ。
こんなの貰って嬉しい人いるのかなと思ったけれど、メイさんは「一生の宝物にするのぢゃ」と小さく呟いていた。
それにしても、やっぱり一度会ったことある気がするんだけどなぁ……。
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