第438話 住民投票をするわぁん
「さすがに疲れた!」
ようやく予選審査が終わった。
間に何度か休憩を挟みつつも、百五十名もの参加者を一気に審査していくのは本当に大変だった。
そうして審査員全員の採点を単純に足し合わせていって、最も点数を獲得した上位十名を本選出場者として選出する。
その結果、以下の十名が厳しい倍率を勝ち残った。
ハネス ミリア メイ セレン フィリア ガンザス クリネ アメリア ノニエ ライオス
「ミリアとセレン、それにフィリアさんもいる。って、ガンザスさんが残ってる!?」
「うふふ、さすがはアタシの弟子ねぇん♡」
どうやらあの年齢であれだけの筋肉を誇っている姿に、美を感じ取った審査員が多かったらしい。
ハネスさんは、アレイスラ大教会の元聖騎士。
だけどこの村に来てから何を思ったか、女装に目覚めた人物だ。
そのクオリティはめちゃくちゃ高く、正直本物の女性とまったく見分けがつかない。
その点が審査員から評価されたのだろう。
メイさんはキョウ国出身の若い女性だ。
東方の着物を身に着け、凛と佇むその姿は上品で繊細で、それでいて強い存在感を持つ。
……正直、同じく着物で勝負したアカネさんとは役者が違った。
もちろんアカネさんはあえなく落選だ。
クリネさんは『癒し手』のギフトを持つエルフの女性だ。
僅か十名の中に二人も入るなんて、さすがは美形で知られるエルフだね。
アメリアさんは、村のご婦人ばかりで構成された冒険者パーティ『婦人会』の一員。
全員が戦闘系のギフトを持つメンバーたちの中にあって、『暗殺』のギフトを有している。
とても美人でスタイルが良く、二人の息子さんがいるとは思えない。
そのあたりが審査員に評価されたのかもしれない。
ノエルくんの妹、ノニエも順当に勝ち残っている。
自己アピールは正直弱かったけど、それがかえって自然体で、明らかに他の参加者たちとはオーラが違っていたもんね。
ノニエの美しさが自然なものだとすれば、対照的だったのが最後の一人、ライオスさん。
彼は今この村で最も人気の俳優だ。
正直なところ見た目は二枚目とは言い難いのだけれど、『演聖技』という強力なギフトを持っている。
その一挙手一投足が感動を覚えるほど美しく、彼の演技を一度でも見ると魅了されない者はいないほど。
彼が主演を務める舞台は常に大満員で、チケットがなかなか手に入らなかった。
当然のように高得点で予選を突破した。
立ち居振る舞いの美しさも、やっぱり美しさの一つなのだ。
「それで、ここからどうやって優勝者を決めるの?」
「住民投票をするわぁん!」
「住民投票……?」
つまり、審査員だけに審査の権利があった予選とは異なり、全村人に投票権を与え、みんなで村一番のビューティーを決めようということらしい。
村人全員で審査って、一体どうやってやるんだろうと思っていると、
「これを使うのよぉん!」
そう言ってゴリちゃんが見せてくれたのは、台のようなものだった。
ただし四方から棒状の部分が飛び出している。
「村長ちゃん、試しにそこに乗ってみてちょうだい」
「これに?」
言われたままに台の上に乗った。
「みんな、行くわよぉん!」
「「「はああああい♡」」」
ゴリちゃんの合図と共にいきなり屈強なマッチョたちが現れる。
美容院で働いているゴリちゃんの弟子たちで、全員がゴリちゃんそっくりの化粧と衣装だ。
彼らが棒の部分を掴むと、僕ごと台を持ち上げた。
「っ!?」
「この上に本選出場者たちを乗せて、村の中を練り歩くのよぉん!」
どうやら東方のお祭りで使われる神輿を参考にしたらしい。
本選出場者十名がそれぞれこの台に乗ってマッチョたちに運ばれながら、自己アピールしていくようだ。
「選挙活動みたいなイメージかな……だから住民投票なのか」
自己アピールの期間は三日間。
この間、各出場者たちが村の中を回り、そして投票日には村の各所に設けられた投票所にて、村人たちが最も美しいと思った一人に投票していく。
もちろん美の基準はそれぞれというコンセプト(?)に則って、各々が美しいと思った人に投票する形だ。
つい先日、村議会のために選挙を行ったばかりなので、特にトラブルらしいトラブルもなく、割とスムーズに投票が終了した。
……まぁ選挙のときほど厳密にする必要もないしね。
すぐに投票の集計が行われ、発表は翌日、八万人の収容人数を誇る闘技場で行われた。
超満員となる中、主催者のゴリちゃんがついに本選の結果を発表する。
「みんなの投票の結果、村一番のビューティーが決まったわぁぁぁぁぁぁん! 早速、優秀者を発表……と行きたいけれどぉ、その前に余興のマッスルパフォーマンスよぉん!」
ゴリちゃんと弟子たちによる、筋肉を前面に活かした謎のダンスが披露された。
自らその凄まじい身体能力を見せつけ、満足そうなゴリちゃんが、今度こそ結果を発表した。
「第三位から発表していくわぁん! 六千七百三十一票を獲得した……エントリーナンバー六十八番、フィリアちゃんよぉおおおん!」
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
第三位はフィリアさんだ。
やはり求婚者する男たちだけで五百人を超えたのは伊達じゃないね。
でも、実はむしろ男性からよりも女性からの投票数が多かったらしい。
「続いて二位よぉん! 準優勝は……八千九百三票を獲得した……エントリーナンバー十二番、ライオスちゃん!」
「「「きゃああああっ、ライオス様ああああああっ!」」」
黄色い歓声が上がった。
さすがは大人気俳優だね。
正直、優勝はこの人かと思ってたけど……。
「そして第一回ビューティーコンテスト、栄えある第一位に選ばれたのはぁん……」
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