第429話 俺、この辺境での配属期間が終わったら
咆哮の主が樹海から姿を現す。
まず、それはあまりにも巨大だった。
砂漠で封印から復活した、あのビヒモスに匹敵するかもしれない。
その身体は岩で構成されており、長い年月をかけて堆積した土と、そこから生えてきた大量の木々を背中に乗せている。
「まさか、ロックドラゴンっ!?」
セリウスくんがあの耐久レースのとき、魔境の森の深部で遭遇したのがロックドラゴンだ。
だけどあれとは大きさの桁が違う。
「ぼ、ぼくを襲ってきたロックドラゴンは、せいぜい全長十メートルくらいっ……それでも攻撃が全然取らなくて、逃げるしかなかったっていうのにっ……あれはどう見ても三、四百メートルはある……っ!」
その恐ろしさを知るセリウスくんが、戦慄の顔で叫んだ。
背中に乗せた土の量を考えても、きっと信じられないくらい長い年月を生きた古竜に違いない。
それが地響きと共に、真っ直ぐこの都市に向かって突き進んでくるのだ。
「だけど、あれほどのドラゴンがどうして樹海から出てきたのかしら……? そもそもロックドラゴンはあまり動き回ったりしないはずよ?」
セレンの疑問ももっともだった。
堆積した土や生えた木々を考えても、あちこち動くような性質ではないことは明らかだ。
「そもそもこの魔物の大群自体が異常事態なんだろうけど……」
そうこうしている間に、ロックドラゴンは驚くような速度でこちらに迫ってくる。
「城壁! 一番硬いやつ!」
その行く手を妨害するように、僕は城壁を作り出した。
ドオオオオオオオオンッ!!
「えええええっ!? あっさり破壊されちゃった!?」
施設グレードアップで、頑丈さを最大にした城壁だったのに、まったく足止めにすらならなかった。
「じゃあ……空から城壁を落とす!」
城壁を次々と空から降らしてロックドラゴンの背中にぶつけていく。
だけど土の上に積み上がっていくだけで、これも何の足止めにもならなかった。
「それなら……ビヒモスを倒したときのように、身体の中から攻撃してやれば……っ!」
ロックドラゴンの体内に瞬間移動。
ビヒモスのときのように完全な暗闇の中に出たけれど、身体の中まで岩でできているためか、まったくにおいがしない。
僕はそこで次々と施設を作り出していった。
「全然効いてないんだけど!?」
だけど身体まで硬い岩で構成されたロックドラゴンに、この攻撃は通じないらしい。
仕方なく外に戻ると、機竜が空から攻撃してどうにか足止めしようと頑張っていた。
しかし機竜の強力なレーザー光線をもってしても、岩の表面に少しの傷をつける程度でしかない。
「オアアアアッ!!」
「~~~~~~~~っ!?」
逆にロックドラゴンが身体の一部を破裂させ、幾つもの岩の塊が機竜目がけて飛んでいく。
その一つをまともに喰らって、機竜の翼が片方、大きく曲がってしまった。
飛行のコントロールが効かなくなった機竜は、ふらふらと退散していく。
「まずい……このまま都市に突っ込んできたら……」
当然ながら防壁などまったく意味をなさず、あの巨体によって都市はめちゃくちゃに蹂躙されてしまうだろう。
まだ市民の避難だって済んでいない。
「っ……待てよ? ロックドラゴンを止められないなら……」
そこで僕はあることを思いつく。
「もう終わりだ……」
「ここまでどうにか耐えてきたが、もはやこれまでか……さすがにあんな化け物はどうしようもない……」
「逃げる余裕もない……ああ、俺、この辺境での配属期間が終わったら、結婚するはずだったんだ……」
もはやすぐ目の前まで来ているロックドラゴンを前に、絶望の表情で呻く帝国兵たち。
すでに戦意を失い、その場に蹲ってしまう人もいる。
ズズズズズズズズズズズズズ……。
「ん? 何だ? なんか、地面が下がって来ていないか?」
「言われてみれば……というか、地面が下がってるんじゃなくて、こっちが上がってるような……? ……は、ははは……どうやら俺たち、恐怖で幻覚が見えちまったらしいな」
「何だ、幻覚か……それはそうだ。都市が浮かび上がるとか、あり得ない……はず……」
「「「本当に都市が空に浮いてってるううううううううううううううううううううっ!?」」」
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