第417話 昼から何もせずに飲むお酒
せっかく得意の回復魔法を活かし、村に貢献してくれようとしたエミリナさん。
だけど、そもそもこの村、治療関係が元から充実しまくっていて、新しく入り込む隙がまったくなかった。
わざわざ新しく彼女を院長にした診療所を作ったというのに、毎日ぜんぜん客が入らず、ずっと閑古鳥が鳴く状態になってしまったのである。
「うふふふ……わたくしの力なんて、誰も必要としていないということですわね……」
「エミリナさんが闇落ちしかけてる!? げ、元気出してください!」
お陰ですっかり気落ちした彼女は、部屋に引き籠るようになり――
「本当にこの村、お酒が美味しすぎですのっ! 何より昼から何もせずに飲むお酒、最高ですわあっ!!」
――ただの飲んだくれになってしまった。
しかも最初はちゃんと働こうとしてくれた手前、ミランダさんのようには強く咎められない。
こうして我が家に二人目のタダ飯ぐらいが誕生したのだった。
「ルーク! 今年も武闘会を開催しましょうよ!」
その日、セレンが唐突に訴えてきた。
「去年、決勝で負けた借りを返さなくちゃいけないもの!」
「そういえば、ちょうどこの時期だったっけ」
昨年、村の名物イベントを作ろうということで、試しに開催してみたのが武闘会だ。
村の外からも観客が大勢やってきて、大きく盛り上がったイベントだった。
……僕としては、あまりいい思い出じゃないのだけど、またやってほしいという声は少なくなかった。
それもこれも、「村長に何でも一つだけお願いを叶えてもらえる権利」なんていう優勝賞品のせいだ。
勝手に決めたベルリットさんのこと、今でも秘かに恨んでるよ……?
「でも、次は王家が主催してくれるって約束だったし、優勝賞品も用意してくれるはず」
ちゃんとこの約束のことを覚えているか確かめるため、王様のところに行ってみると、
「無論、覚えておる。むしろそろそろ開催の時期だろうと思い、こちらから声を掛けようと思っていたところだ」
どうやら王様もやる気満々だったみたいだ。
しかも王家の力を示す絶好の機会でもあるし、今回は昨年を上回る規模で開催したいという。
「前回は貴殿の村の住民だけだったが、今回は王国全土から出場者を募集する! すなわち、この大会で優勝すれば、名実ともに王国最強の称号が与えられるのだ!」
王様、なんだか楽しそう……。
「もちろん俺も参加するぜ!」
「ラウル!?」
いきなり王様との謁見の場に割り込んできたのは、僕の弟、ラウルだった。
『剣聖技』のギフトを持つ彼は、王国軍の特別指導官として雇われていたのだけれど、つい先日、抜本改革が行われて再編成された新生王国軍で、将軍職に抜擢されたという。
「昨年は見るだけだったからな。今年はあの筋肉の化け物をぶっ倒して、俺が優勝してやるぜ。そうすりゃ、王国軍の株も上がるってもんだ」
なんだかもう、すっかり王国軍の人間になってしまっている。
「自分のことより、軍のことを考えるなんて……成長したね……兄として嬉しいよ」
「おいなんだその反応は!? べ、別にいいだろうがっ!?」
思わず涙が出そうになる僕に、声を荒らげるラウル。
「他にも俺が鍛え上げた精鋭たちを参加させてやるぜ! 王国軍はてめぇの村にも負けてねぇってことを証明してやるから、せいぜい覚悟しておくんだなっ!」
「うんうん、お互い頑張ろうね」
「その優しげな目をやめろ!」
開催地は今回もうちの村ということで決定した。
王家が主催ではあるけど、基本的な運営は前年の経験もあるこっちで行うことに。
「最近、闘技場を新しくして、収容人数も八万人に増えました。巨大スクリーンで試合中の映像を流せるので、リングから遠い座席でも、試合の状況が把握できると思います」
「「スクリーン??」」
「ええと……まぁ、見れば分かると思います」
ギフトで作り出した闘技場には、色んなハイテク機能がついているのだ。
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